【第6回】戦後すぐから脈々と続く、大須きっての老舗居酒屋
東海ウォーカー

名古屋を代表する商店街の1つ、大須商店街。そのなかでもひときわ歴史が長く、多くの常連客から愛され続けている居酒屋が「大須亭」だ。同店は「1度使えばまた行きたくなる」と評判の店でもある。
サラリーマンから転身した2代目、かれこれ約50年

「女房の親父さんが先代と親しく、その縁で私がサラリーマンを辞めて店に入ったのがオイルショックのちょっと前、たしか50年ぐらい前だね。先代には跡継ぎがいなかったから、店を譲ってもらうことになったんだ」と話すのは、店で「マスター」と呼ばれている店主の太田和市(わいち)さん。現在73歳。太田さんも現役で調理を行っているが、板前さんが2人そろっていれば彼らに焼き場を任せ、自身は仕込みの串打ちに専念しているそう。

「70年以上継ぎ足して使い続けているタレは、命より大事だね。これだけ続くと、なにか出汁みたいなものが出ているんだろうな」と太田さん。先代がこの店を始めたのが、戦後すぐ1946(昭和21)年のこと。以来、タレは継ぎ足しのみで補充し、1年の熟成を経てようやく焼き場に置かれる。タレのレシピは企業秘密だ。

秘伝のタレはさまざまな料理に使われており、手羽先もその1つ。タレは醤油ベースであることは分かるものの、それほど主張しない控えめで優しい印象。どことなく深みのようなものが感じられるのは、タレの歴史を聞いた後だからか。
新鮮さにこだわった、特定品種の鶏肉を使用

店の看板である焼鳥は、名古屋コーチンと美濃鶏をかけ合わせた品種にこだわっている。その鶏肉を生でも食べられるほど新鮮なうちに仕入れ、1本1本丁寧に太田さんが串打ちし、備長炭で丁寧に焼き上げるのが大須亭のスタイルだ。

新鮮な鶏肉を、加熱せず刺身として味わう造りメニューも大須亭名物の1つ。添えられた香辛料と醤油をつけて味わう1皿だが、なにもつけずに食べてみれば鶏肉そのものの甘味や旨味がしっかり感じられる。優しい味わいの日本酒と合わせたい。

「毎日来てくれるような常連さんが10人以上いるね。単身赴任で名古屋に来ている人が多くて、夕食代わりにうちを使ってくれるみたい。総菜料理で野菜もしっかり食べてるって安心させたいらしく、たまに奥さんも連れてくるよ」と太田さん。大皿の総菜メニューは、マスターの娘である美和さんが調理を担当している。
値上げしない理由は「財布を気にせず店を使ってほしいから」
店内のあちこちには手書きのメニューが貼られている。物価上昇とそれに伴う値上げが当たり前になっている昨今、大須亭の価格はどれもこれも抑えられているように感じる。

価格設定について問うと、太田さんは「長いこと値上げしてないねえ。頻繁に通ってもらえるお客さんが多いから、財布の中身を気にせず使ってほしいんだよね」と明るく笑う。大須亭ならおいしい酒と食事に満足できるうえ、支払いはリーズナブルに済む。会計を済ませて店を出た客はこう思うはずだ。「満足できた。また来よう」。そうして常連が増え続けていくのだろう。

「前はすぐそこの角を曲がったあたりにあったんだけど、通り沿いの方がいいだろうって移転したのがだいたい35年ぐらい前かな」と太田さん。壁紙、床、天井の張替え程度はしているそうだが、大規模な改装はしていない。太田さんは「だってこの狭さじゃあ、やりようがないじゃない」と笑う。ハッキリ分かるこの古さが店内を居心地よく感じさせ、多くの客を夢中にする。歴史を重ねたからこそ出せる味。店のたたずまいと秘伝のタレ、この2つは偶然にもよく似ている。

大須商店街の1軒として歴史を重ねる大須亭。店主の太田さんは、この地で50年ほど商売を続けてきた生き字引きの1人だ。「来たころはシャッターの降りた店も多くてね。だから先代も譲ってくれたんだろうけど(笑)。でも商店街が頑張って大須を盛り上げて、今はこんなに賑わっている。この商売は、いろいろな人に会えるのが面白いね」と、さも満足げに生き生きとした目で話す。
サラリーマンを続けていれば、とうに引退しているであろう年齢。半世紀前の選択に、後悔は微塵もない様子だ。【東海ウォーカー/加藤山往】
加藤山往
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