コーヒーで旅する日本/東海編|先達へのリスペクトを胸に、20代の女性焙煎士が紡ぐ新世代の東海コーヒーカルチャーとは。「珈琲舞姫(まき)」

東海ウォーカー

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも名古屋の喫茶文化に代表される独自のコーヒーカルチャーを持つ東海はロースターやバリスタがそれぞれのスタイルを確立し、多種多様なコーヒーカルチャーを形成。そんな東海で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

店主の人柄や個性が表現された、唯一無二の世界観

東海編の第15回は、名古屋・千種にある「珈琲舞姫(まき)」。店主の纐纈舞姫さんは、第12回で紹介した「Manabu-Coffee」の福田さん、第13回で紹介した「喫茶クロカワ」の黒川さん、第14回で紹介した「珈琲だけの店 びぎん」の加藤さんら東海エリアのコーヒーマンたちがこぞって「これからの活躍が楽しみ」と話す期待の若手焙煎士だ。コーヒー好きの両親の元で育ち、2016年末から本格的に焙煎を始め、2022年に「珈琲舞姫」をオープン。東海コーヒー業界が育んできた深煎り文化の魅力にどっぷりとハマっている纐纈さんが、大好きな味を追求し、食やアートなどの分野でオンリーワンの活動をする同世代を巻き込んで繰り広げる、新世代の東海コーヒーカルチャーに注目したい。

【写真】店主の纐纈舞姫さん

Profile|纐纈舞姫(こうけつ・まき)
1995(平成7)年、愛知県豊田市生まれ。20歳の頃に「珈琲だけの店 びぎん」のコーヒーを飲み「おいしい」と感じ、コーヒー業界で働くことを決意。その後、何度も通っていた「喫茶クロカワ」で働く機会を得て、焙煎も学ぶようになった。手振り焙煎から始め、2016年から「Manabu-Coffee」店主の福田さんに融通してもらったUNIONのサンプルロースターで焙煎するように。2019年7月のイベント出店を機に豆の販売、卸し、イベント出店の3本柱で活動を開始。2020年11月から、「珈琲だけの店 びぎん」があるヨシタカビルの屋上で「屋上喫茶」を月1回のペースで営業。2022年2月に「珈琲舞姫」をオープン。

好きなものを素直に表現した店

女性店主らしい柔らかさも感じられる空間

地下鉄東山線とJR中央線が乗り入れる千種駅から、線路に沿うように南へ徒歩5分。広小路通のにぎやかさとはうって変わり、時代の流れに取り残されたかのように佇む大正時代の長屋風建物の一角に、「珈琲舞姫」がある。店を訪れたファーストインプレッションは、カオスな調和。店内を構成するあらゆるもののジャンルはバラバラなのに、なぜかまとまって見えるのだ。

90年代エモやオルタナティブなど、纐纈さんお気に入りの音楽がBGM

モスグリーンの壁にアンティーク調のカップボード。中に収められているカップはすべて違うデザイン。入口にはレコードがあり、窓際にはテーブル席、奥にはバーカウンターが見える。そして、店内を彩る艶やかな生花。視覚的な情報量の多さに圧倒されていると、これまたインパクトのあるピンク色の髪をした纐纈さんが、にっこりと人懐こい笑みを浮かべて迎えてくれた。

カップは纐纈さんの母が定期的に模様替えしている

ジャンルがバラバラなのにまとまって見えるのは、ここにあるものはすべて纐纈さんというフィルターを通して集められたからだろう。「自分の好きなものしかない」という纐纈さんの好みが一目瞭然だ。コーヒーに関して言えば、東海エリアで昔から愛されてきた深煎りのラインナップに力を入れる。「コーヒーは甘味が大事。苦味に包まれた甘味がコーヒーのテイストの中で一番好きな部分なので、それを大事にしたいと思っています」

コーヒーの深い香りに癒やされる

豆は常時10種類前後を扱い、豆のキャラクターがかぶらないように選んでいる。「深くて、自分らしい味を出したいと思いながらコーヒーと向き合っています。コレスのサーバーに松屋式の金枠を合わせたペーパードリップで抽出します」

左手に金枠を持って抽出する

使い込まれたカリタのドリップポットにも一工夫あり。「祖父が金属加工の仕事をしていたので、お願いして、注ぎ口を調整してもらいました」

ハンドドリップのほか、氷の溶け水で抽出する濃厚な水出珈琲も用意。こちらは牛乳や豆乳で割ったコクのあるオレ、炭酸で割ったしゅわしゅわ珈琲、自家製バニラアイスをのせた珈琲フロート、ウクライナ伝統のアレンジコーヒーであるルシアン珈琲など、さまざまなメニューにも活用する。金・土曜は18時からバー営業をしていることもありアルコールメニューが充実した同店では、珈琲泡盛などの珈琲酒にもこの水出珈琲が使われている。

ラムレーズンのアイスクリーム(350円)と、温かい珈琲(600円)

コーヒーに合うよう考えた「ちょこっとお菓子」も、すべて自家製。アルコールを残したラムレーズンのアイスクリームなど、丁寧に作りこまれたパンチのあるメニューが纐纈さんの印象とぴったり重なった。

焙煎はプロファイルよりも感覚を重視

直火のバーナーを6本から9本に増やし、とろ火の火力に幅を出せるようにカスタマイズ

「喫茶クロカワ」で働いていた時に、黒川さんの後押しもあってまずは手振りで焙煎を始めた纐纈さん。「何度も焙煎したお豆を黒川さんに飲んでもらって、意見を聞きました。黒川さんは優しいので、大体ほめてくれましたね(笑)。時には的確なアドバイスもいただきました。自分の焙煎に納得がいかず、もっと焼きたいと思っていた時に、『Manabu-Coffee』の福田さんがほぼ新品のUNIONのサンプルロースターを譲ってくださいました。パンチングドラムの、手回し焙煎機ですね。それから、店を始めるまではずっとこれで焙煎してきました」

店舗を構えるタイミングでフジローヤルの直火式3キロ釜に切り替えたが、手回しをやっていた経験から「焙煎はプロファイルを大切にしつつ感覚を重視しています」と話す。「釜を触ってみてなかなか温まらない日や、あまりにも気温が低くて寒い日は、豆の投入温度を上げます。雨が降っていて湿気が高い日などちょっと普段と違った感覚があれば、釜から出すタイミングや冷却を入れるタイミングを調整します。プロファイルはもちろん取りますが、それだけではなく感覚も重視しています」

豆のラインナップは、全体的に入れ替わることがある

生豆は、飲みやすさよりも個性が光るものをチョイス。「深煎りが好きなので、深煎りにしても個性がしっかり感じられるかはどうしてもチェックしてしまいますが、お客様の中には深煎り以外を好まれる方もいらっしゃいます。また、お豆に合う焙煎を大切にしていることから、すべて深煎りにしているわけではなく、個性が光るようにラインナップ全体のバランスを見ています。例えば、ラインナップに入れているエルサルバドルは、香りがすばらしいお豆ですが、一度深く焼いてみたところ香りが弱くなってしまった様に感じたので、香りを引き出すことができ、丸みのある酸味と甘味を感じられる中煎りの焙煎度合いに決めました」

ハンドピック作業中の纐纈さん

一方、スペシャルティコーヒーといった品質にはあまりこだわらない。「欠点豆が多ければ、ピッキングすればいいのです。そのお豆がおいしくなる焙煎方法を見つければいいと思っています。それが焙煎士の腕の見せどころだと思うので『絶対スペシャルティコーヒーでなくてはならない』という考えではありません」

おもしろいことをここから発信したい

同業者にも、纐纈さんのコーヒーのファンは多い

22歳で本格的に焙煎を始め、豆を販売するようになり、24歳でイベント出店をスタート。27歳で店舗を構えることになった纐纈さんだが、「たくさんの先輩や友人たちに助けてもらって今がある」と話す。

金・土曜は23時まで営業

「店を始める直前まで、洋服店で喫茶営業をしたり、クラブでコーヒーを使ったオリジナルカクテルを提供したり、と毎週のように誰かが声をかけてくださり、出店しながら経験を積んできました。周りには、実店舗を構えての飲食店開業を目指す友人がたくさん居ます。そんな私にとって大切な人たちが力を発揮する場所として、当店でのイベントを今後も企画していけたらと考えています。これまでもお店で陶器の展示販売、飲食のコラボイベントなどを頻繁に開催してきました。食だけではなくて、今後はアートの展示などもここでやっていきたい。自分がおもしろいと感じた人やおもしろいと思ったことを、この場所から発信できたらいいなと思っています。あとは、先日1周年を迎えたばかりですが、2年目は外に出ていきたいですね。月1回営業させていただいていたヨシタカビルでの屋上喫茶も、やれたらいいなと。自分が今までたくさん助けていただいてここまで来ることができたので、これからは私が次の人を巻き込んでいきたいです」

纐纈さんレコメンドのコーヒーショップは「リトルトリー」

「名古屋・亀島の『リトルトリー』はお母さんと息子さんがこぢんまりと営業していて、どこかホッとするあったかい店です。DJをしている息子のjettさんとは店を始める前からの知り合いで、共通の知人もたくさんいます。実は、マンデリンとブラジルはうちと同じ生豆。うちは個性がはっきりした焙煎ですが、『リトルトリー』の焙煎は親しみやすい味になっています。さらっと飲めるし、さっぱりとしたおいしいコーヒーですよ。近所にあったら毎日通いたいですね!」(纐纈さん)


【珈琲舞姫のコーヒーデータ】
●焙煎機/フジローヤル直火式3キロ
●抽出/ハンドドリップ(コレス)、ウォータードリップ(氷点抽出)
●焙煎度合い/中煎り~深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/100グラム700円~

取材・文=大川真由美
撮影=古川寛二


※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

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