育休取得者の「申し訳ない」を和らげる。同僚に最大10万円の“祝い金”制度を三井住友海上が始めたワケ
東京ウォーカー(全国版)
同僚が育休を取る。「おめでとう」と送り出した。だけど増える業務のことが頭をよぎる。一方で育休を取得する人も、どことなく後ろめたさを感じる。そんなもやっとした気持ちに寄り添うような制度が、損保大手の三井住友海上火災保険株式会社で2023年4月から導入された。育休を取得する人がいると、その職場全員に「育休職場応援手当(祝い金)」として一時金が支給される。人事部の丸山剛弘さんに、みんなが幸せになるための制度づくりについて話を聞いた。

子どもが産まれた全男性社員が育休を取得、でも「十分ではなかった」
「育休職場応援手当(祝い金)」で給付される金額は、13人以下の職場において育休の取得予定期間が3カ月以上の人がいると10万円、3カ月未満だと3万円が同僚に支給される。最低金額の3000円は、職場の人数が41人以上で、取得予定期間が3カ月未満の場合だ。
同社は、これまでも不妊治療の支援や、育児に関する研修、子どもを持つ社員同士が交流する場の提供など、さまざまな取り組みを行ってきた。2021年4月に舩曵真一郎社長が就任すると、「少子化」「産後うつ」といった課題解決にさらに力を入れ、同年6月に男性社員が育児休業を1カ月取得することを義務化した。同社では、子どもが産まれた全男性社員が育休を取得し、平均の取得期間は育休と連続して取得する休暇などを含めると37日。女性も産休を含めて17カ月ほど取得できている。

こうした状況に、丸山さんは「世間一般と比べると、推進できているという認識が人事部ではあった」と振り返る。昨年末は、リスキリング(学び直し)や、社内業務のデジタル化などに取り組もうとしていた。「人事部で新しい施策を考え、人事担当役員が社長に説明に行くと、『それはそれでやってくれ。だけど少子化対策はどうなっている』と言われたとフィードバックがありました。社長のなかでは、まだ十分ではなかったということがわかったんです」
少子化対策につながる新たな施策を考えるため、人事担当役員らが集まって意見を出し合った。そのときに出た案の多くは、出産や育児をする社員に手当てを支給するというものだった。
「当社では、育児休業給付金に独自で上乗せして支給する制度がすでにあったので、産休・育休を取る人への支援は十分ではないかと感じました。あとは、『また休業する人ばかりを支援している』と周囲が感じてしまうと、産休・育休を取る人が休みにくくなるとも思いました。そこで『周りの人に支給しましょう』と言ったんです」と丸山さん。「なんだそれは」と言われると思ったが、「それいいね、いける気がする」と好反応が返ってきた。
「別の誰かの不利益になっていないか」
丸山さんは、かつて保険商品の設計を行っていた経験を生かして、担当課長と2人で原案を1週間で作り上げた。労使協議の場で労組に提案し、今年の3月に公表。社員からの反応はどうだったか尋ねると「すこぶるよかったですね。それよりもネットの反響がすごかった」とのこと。

「9割は賛同的なコメントでした。画期的だとか、やっと周りの社員に対して考える案が出たとか。一方で批判的な意見もありました。当初は休業期間ではなく、性別で金額を分けていたんです。取得実績から見ても、女性は1年半ほど休むのに対して、男性は37日。14分の1ぐらいの差があるのだから、女性が10万円なら、男性は比例配分して5000円程度でもいいかなと考えました。ただ将来的には男性も6カ月ぐらい育休を取ることを目指し、3万円に設定したんです」
これに対して、ネットでは「あからさまな男女差別」「これは男性差別だ」といった意見が上がった。さらに「男女の差がなければもっとよかった。ぜひ改定してください」と、会社に電話もかかってきた。丸山さんはそうした声を受けて、性別ではなく期間を基準にして金額を決めるよう、制度の変更を掛け合った。
また、40代〜50代の男性社員が中心になって案を考えていたため、ダイバーシティを推進するチーム、育休経験者、若手社員など、あらゆる立場の人に意見を聞いた。最終的に基準となる期間は3カ月に決まった。この期間にも丸山さんのこだわりがある。

「最初は6カ月で区切るつもりでした。ただ、男性がいきなり6カ月の取得を目指すのは、ハードルが高すぎないだろうか。また、キャリアの断絶を防ぐために育休を取らない女性もいます。『あの人がすぐに復帰したから、3万しかもらえなかった』と周囲から思われてはいけない。そこで、産休だけで復帰したとしても、より多く受け取れる3カ月がベストだとひらめいたんです」
制度を考えるうえで、丸山さんが大切にしているのは「みんながハッピーになること」。「誰かのためにしたことが、別の誰かの不利益になってはいけません。今回の育休職場応援手当では、4種類のステークホルダーがいます。『男性』『女性』『育休を取る人』『職場に残る人』。みんながハッピーになるよう制度化する必要がありました。平等ではなくても公平に。過度に優遇していないか、バランスを見ることを重視しています」
小まめな「点検」で時代にあった制度を
同社の育休取得者は年間約600人。それに対して、今回の制度の対象者となるのは、パートや有期雇用社員も含めて6000〜7000人の見込みだ。

「福利厚生は充実しているに越したことはありません。でも原資は有限です。だから制度は時々点検して、役割を終えた古い制度は廃止しています。例えば、以前は『結婚祝い金』というものがありました。でも結婚しない人もいるし、今はこうした制度はあまり受け入れられないのではないでしょうか。エコカーを購入すると補助金が出る制度もありましたが、世の中の車がほとんどエコカーになったので、これも廃止しています」
今後は、勤務ルールなども見直しながら、2人目以降が産まれるときも休みやすくしたり、男性社員が時短勤務しやすい環境を整えたりすることを考えているという。丸山さんは「今回の制度をきっかけに、職場のチームワークや業務分担、効率的な働き方などを見直していきたい」と話した。
この記事のひときわ
#やくにたつ
・制度をつくる時は、あらゆる立場になって考えることが大切
・決まったことでも、よりよくするためなら柔軟に変更する
・時代に合った制度が社員の満足度を高める
取材・文=伊藤めぐみ、写真=三佐和隆士
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