【第10回】選べる“おふくろの味”、半世紀以上変わらない名古屋の「江戸っ子食堂」
東海ウォーカー

歴史を重ねてきた事実がひと目で分かる外観。ガラガラと鳴る戸を開けて中に入ると、店主の元気な「いらっしゃい!」の声と、料理の香りが歓迎してくれる。名古屋市東区代官町にある「江戸っ子食堂」は、この場所で50年以上営業し続ける定食屋さんだ。
55年変わらぬ江戸っ子食堂

最初に「なぜ『江戸っ子』なんですか?」と聞いてみると「よく聞かれるんですけど、私もハッキリ分からなくてねえ」と、現店主の花房祐美江さんは答えてくれた。店自体は、祐美江さんの義母が始めたのだそう。「義母が群馬県高崎市の出身で、かつて新潟県で寿司屋さんをやっていたときの屋号が『江戸っ子』だったから、名古屋に来ても引き続きその名前を使ったと聞いたような…」と、店名の由来は明確ではないようだ。

義母が店を始めた時期もハッキリとは分からないらしく、「伊勢湾台風のあとぐらいに始めたと聞いた記憶がありますよ」と祐美江さん。また「店の改装などは全然してなくて、私が来たころからずっとこんな感じですよ」とも。伊勢湾台風は1959(昭和34)年のことなので、55年以上の歴史があることは間違いなさそうだ。義母が創業し、その息子である輝雄さんが店を手伝うようになり、やがて嫁いできた祐美江さんも手伝うようになったというのが、この店のストーリー。現在は輝雄さんの体調が優れないため祐美江さん1人で店を切り盛りしており、近くに嫁いだ娘が週に数日は手伝ってくれるらしい。
好みで選べる日替わり定食が中心

ランチのメニュー表には「日替弁当」または「定食いろいろ」と書かれており、価格は750円から。定食は「焼魚定食」「煮魚定食」「やさいいため定食」など。例えば魚の定食では、どの魚をどう調理するかも日替わりで、祐美江さんが毎日考えて調理し、カウンターに並べていく。客はカウンターを見て「これの定食ちょうだい」と主菜を選び、それに総菜、漬物、味噌汁、ご飯をセットにして定食が完成する。総菜もカウンターに並んでいるが、基本的にはおまかせ。なお、食べられないものがあればそれを別の品へ交換してくれるという心やさしいオーダースタイルだ。

高齢の常連客が多いため魚料理が好まれるそうだが、肉類の主菜もある。店の壁に貼られたメニュー表には肉料理らしき記載は見当たらないが、カウンターへ頻繁に登場するのは唐揚げや豚カツだという。

名古屋の飲食店では珍しい特徴が、選べる味噌汁だ。赤味噌が圧倒的に親しまれている地域にあって、ここでは定食に付く味噌汁を2種類用意。赤だしの味噌汁と、白味噌の豚汁から選択できる。「義母の出身が関東ということもあって、赤味噌が苦手という人のために昔から変わらず白味噌の豚汁も用意しています。名古屋の豚汁はたくさんの具を使ったものが多いけれど、うちの豚汁は豚肉、豆腐、ニンジンが入っているだけのシンプルなものです」と祐美江さん。店の客は赤味噌を日常的に味わっている名古屋の人がほとんどのはずだが、意外にも白味噌の人気も高いらしい。
飾らない雰囲気と、おふくろの味が魅力

店内の一角にはコーヒーメーカーが置かれており、セルフサービスでコーヒーを無料提供している。また、その近くには菓子が無造作に置かれており、これも無料だ。食事をして満腹になったら、そのままコーヒーと菓子でゆっくり過ごすのもOKというのが江戸っ子食堂のスタイル。

早い時間から朝食営業をし、そのまま夜までクローズしない点も江戸っ子食堂の特徴である。朝から夜までの営業を祐美江さん1人で続けている格好だが、当の本人は「朝は昼の仕込みをしながらですし、合間の時間はのんびりできますから」と明るく笑う。

祐美江さんの作る料理は「おふくろの味」と表現するのが一番しっくりくる。奇をてらったものはなく、定番メニューが日替わりでそろい、毎日通っても飽きない。古さを隠そうとしない店のたたずまいも、どこか居心地のよさを感じさせてくれる。
取材を終えて、江戸っ子食堂を愛する多くの常連客が願っているであろうことを感じた。できるだけ末永く、この味と雰囲気を楽しみ続けたいものだ。【東海ウォーカー/加藤山往】
加藤山往
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