凛として時雨TKが語る「本作りは自分の鳴らす音楽と近いものを感じた」

東京ウォーカー(全国版)

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人気バンド・凛として時雨のTKさんが初のエッセイ「ゆれる」を2023年6月21日に発売した。家族や生い立ち、バンド結成にまつわる出来事、音楽と向き合うときに感じる喜びと苦しみなど、TKさん自身の半生と内面を一冊にまとめあげている。初めての著書となる本書の制作に要した期間は実に1年半。そこに込めた妥協なき思いを語ってもらった。

ロックバンド凛として時雨のボーカル&ギター、TK。写真=岡田貴之


――初めての著書ということで、今までにない試みだったと思います。言語化はなかなか難しい作業だと思いますがいかがでしたか?


僕は普段から本を読まないので、本のあるべき姿は今でもわからないままなんですが、自分がよいと思うものを残せたという感じはします。人前に出すことは無かったですが、何年か前には自分で書いてみようかなと、少し文章を書き溜めたこともあったくらいです。ファンクラブでも、僕が撮影した海外の風景に一言添えて、自分の見た景色を伝えるというのはしていましたし、文章を書くことにまったく興味がなかったわけではないと思います。ですが、写真とセットになった文章は思い浮かんでも、写真を引っこ抜いて純粋に文字だけで伝えるとなると、モチベーションが置き去りになってしまう感覚は持っていたと思います。そもそも、音楽以外で何かを伝えようと意識的になったことがあまりないかもしれない。

――では、今回なぜ書籍化しようと考えたのでしょうか。


KADOKAWAさんから働きかけがあったのはもちろんですが、自分の中にある当たり前が誰かにとっては興味深いものなんだと思えたからです。最近も同じようなことを感じたことがあったんですけど、自分が音楽をプロデュースする仕事で、歌詞を書き下ろす機会があって……。出来たものを先方に共有しないといけない日に、「あぁ、こうしたらもっとよくなるな」という形が見えはじめました。見えた、というと降ってきたみたいに思われるかもしれないけど、そういうことではなくて。もう少しだけ時間があったらよくなる、って感じですね。

時間を変更するっていうのはよくないと思いつつも、マネージャーに「今見えかけている言葉がもう少しで形になるので、レコーディングの時間を30分だけ遅らせてほしい」とお願いして、レコーディングを開始しました。そのセッションが終わったかなりあとに、楽曲を提供したアーティストに「最後の最後までよいものを見つけようとする考え方に触れたのが新鮮だった」って言われたんです。音楽を中心にして、よくなるためならやろうと突き詰めるところが他人には真摯に見えたようで(笑)。これは、ひとりだったらわからなかったことです。僕の中では当たり前すぎて、特に引っかかる部分がないんでしょうね。

【写真】書籍の制作にかけた期間は延べ1年半。写真=岡田貴之


――すごくTKさんらしいエピソードですね。自分がよいと思うものを生み出すためには手間を惜しまないということでしょうか。


手間……とすら思ってないですね。人間って、呼吸をするときに「酸素を吸うのが面倒くさい」とか「手間だな」と思わないですよね。それと同じような感覚です。僕にとっては当たり前で、特別なことではないんです。

よいものを生み出したいという視点で考えると、僕は昔から自分にストレスをかけるのが好きなんですよ。どういうときに比重がかかるのかを考えて、ちゃんと自分に負荷をかける。そうしないと自分の感覚が鈍ってしまうんじゃないかって思っているところはあります。物事が上手く進むときって、ストレスがかかっている時間が必要なんじゃないかなって。

――ストレスを自分にかけていくというのは、かなりストイックな考え方ですね。


そう言われることは多いですね。でも、僕自身ライブの中でも、自分が追い求めている音がなかなかつかめないことがほとんどです。それはストレスをかけるという表現とは少し違いますけど、自分の追い求めたものに触れられるのって本当に一瞬で。その一瞬のために歌にしがみついている部分はあると思います。そして僕も、もがきながら手を伸ばしている人に惹かれているんです。

あるライブで、対バン相手のボーカルの声が上手く出ていないってことがありました。それって、CDと同じような音源を求めてきた人にとってはがっかりするような場面なのかもしれませんけど、僕は上手に終わったライブよりもその姿が強く記憶に残っています。声が出ないけど、それでもがむしゃらに伝えようとする。本人は苦しいだろうし、その感覚は僕もわかるんですけど、狂気に感じるくらいの必死さを目の当たりにすると、視線も脳も引っ張られます。

音楽活動において、エンジニアリングも自ら手掛ける。写真=岡田貴之


――そういう感覚的なものを文章に落とし込むのは難しそうですね。でも個人的には、読みすすめるにつれてTKさんの音楽性が感じられた気がしました。


書いていくうちに、音楽をつくるときのような感覚になったのは事実です。それが、慣れの部分なのか、音楽に特化して考えてきたものが文章に溶けだしているのかはわからないですけどね。

音楽でもそうですが、何かとんでもないものに触れてしまったという感覚を起こせないかなと思っています。人によっては感動だったり喪失感だったり、感じ方はそれぞれあっていいと思いますけど。聴いた人、読んだ人が揺さぶられるようなものを作りたいと思えたのは、自分でもよかったなと。思っていたよりも、音楽を作るときのモチベーションを本にも持ち込めた気がしています。

2023年12月8日(金)には、「凛として時雨 Tornado Anniversary 2023 〜15m12cm〜」を開催。写真=岡田貴之


――その書籍についてですが、エッセイというジャンルで製作に1年半かかるというのは、なかなか珍しいことだそうですね。


そう……みたいですね(笑)。僕は、音楽をつくるときも何かがひらめいたり、降ってきたりするような人間ではありません。たまに制作の場面で、自分でもわからなくなってしまうくらい音があふれてきたり、ある日突然すべてがわかってしまった、って話をする人もいますけど、そういう経験をしたことがない。

僕の場合は、音楽が自分の理想に近づくまで粘り強く向き合うことしかできません。それってすごく平凡なアプローチだと思うんですよね。誰もがやっていることを、誰よりも粘り強くやるっていうだけ。そうやって平凡さを積み上げていった先に、自分にしか生み出せないものが結果として出来上がっているので、言ってしまえばまぐれみたいなものなんですよ。

それでも、書籍化でなんとか自分の鳴らす音楽の香りを残すことができた。僕は見るはずのなかった音楽以外の「自分」を紡ぎだせたことが、なにより嬉しいです。


取材・文=山岸南美
写真=岡田貴之

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