「子供たちを馬鹿にしちゃいけない」ガンダムの生みの親・富野由悠季監督が生徒たちに熱弁したワケ

東京ウォーカー(全国版)

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未来に夢を抱くN/S高(N高等学校とS高等学校)の学園生たちへ向けた「学園生のための特別授業」。2023年9月19日に行われたこちらの授業には、特別講師として「機動戦士ガンダム」シリーズなどを手掛ける、アニメーション監督の富野由悠季氏が登壇。普段の授業で身につける知識や技術を超えた、自分の進路への気づきであったり、発心につながる人生観を伝える授業が行われた。

N/S高の学園生たちに向けて特別授業を行う富野由悠季監督撮影:ソムタム田井


会場にリアル参加した16名の生徒および、ライブ配信で受講する多数の生徒を対象に行われた、この度の特別授業。その内容は、生徒から寄せられた質問に富野監督が一問一答の形式で答える…といったもので、参加者はいずれも、監督ならではの価値観や物事の捉え方に聞き入り、感銘を受けているさまが印象的だった。実際にどのようなやり取りがあったのか、授業の一部を抜粋して紹介しよう。

【写真を見る】リアル会場には大勢の学園生が駆けつけ、監督の講義に聞き入っていた撮影:ソムタム田井


――(生徒からの質問)「ガンダム」という巨大ロボットが登場するアニメを作るにあたり、なぜ明確な悪役を描かず、人間同士の戦争という物語にされたのでしょう?

【富野監督】巨大ロボット物を作るということは、戦闘シーンを描かなければならない。そして戦闘シーンのバリエーションを増やすには、もともと戦闘が行われている環境を用意した方が作業はスムーズになる。そこから戦争の物語を描く…ということになりました。

それと当時は、それまでのロボット物の悪役といえばすべて宇宙人でした。その理由は「そうした方が子供たちも分かりやすいから」といわれていますが、これって子供たちをなめていますよね。僕は当時から「子供たちを馬鹿にしちゃいけない」という考えだったので、戦闘の理由やメカニックもできるだけリアルなものにしようと思ったので、ガンダムは無駄に大きくはせず、実在する戦闘機とほぼ同じ全長になっているんです。他にも一人乗りである意味やコクピットの形状なども、一つひとつ理由を考えていって、あの形になったわけです。

「機動戦士ガンダム」制作時の秘蔵エピソードも語られた撮影:ソムタム田井


――監督は以前、「アニメは絵に頼らず物語で魅せていくもの」と話されていましたが、僕は最近のアニメや映画を観ていて、「物語の意味・意義って何だろう?」と思うようになりました。こちらについて、ご意見をお聞きしたいです。

【富野監督】「物語に意味はあるのか?」といわれたら、それは物語の本質を読むことで「自分の人生とは違う、こんな生き方もあるんだ…ということを学べる」という、その1点に尽きると思います。少なくとも僕には、こういった説明しかできません。

たとえば『ロミオとジュリエット』というお話がありますが、こちらは観たり、読んだりすることで、悲恋の物語として楽しむだけでなく、「自分だったらこんな馬鹿なことはしない」という教訓も得ることができます。子供のころから物語を読んで、そういった教訓をたくさん取り込んでおけば、「自分だったらこうする、しない」といった判断の材料が増えるので、人生はよりよいものになるのではないでしょうか。

特別授業の後半では“ニュータイプ”に対する見解も語られた撮影:ソムタム田井


――多様性という言葉をよく耳にしますが、都合よく使われているだけのように感じます。これについてどう思われますか?

【富野監督】多様性というのは、勉強ができる人たちが勝手に使っている言葉です。逆にその言葉を意識して使っている人ほど、本当に多様性があるのか怪しいですね。この言葉が広く知られるようになるずっと前から、我々は暮らしの中でさまざまな物事と向き合い、考え方を変化させながら、人類史を築いてきました。つまり、言葉を使うことでモノを考えているふりをする人は大勢いるけど、その人たちが本当に賢いのかどうかは別の問題…というわけです。

昨今では、インターネット上のやり取りだけで「自分は言葉を知っている、使いこなしている」と思い込んでいる人が大勢いますが、これは危険なことだと思います。現在生きている人は、外に出ることは大事です。外に出て‟やらないといけないことを見つけ出す気力”を持つことがいちばん大事です。それを若いうちから意識して、行動に移していって、自分ができることを見つけ出していただきたい…というのが、僕の率直な意見です。

こうして、90分にわたりさまざまな質疑応答がなされ授業は白熱。特別授業は大盛況のうちに終了した。

取材・文=ソムタム田井

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