仕事、結婚、性別…すべてを自分で決める“自由な時代”を生きるには?「歴史と哲学が求められる」ワケをCOTEN代表に聞く
東京ウォーカー(全国版)
「世界がよくなりそう」なことをする
――ここからは深井さんのシゴト観やキャリアについて伺います。起業までの経緯について、あらためてお聞かせください。
【深井龍之介】ファーストキャリアは株式会社東芝の経営企画です。ただ、大企業に本当に向いていなくて、入社してから2年で退職しました。上司に怒られているのに耳かきしたり、居眠りしたり……。今考えると相当やばいやつですよね(苦笑)。毎日2時間くらい説教されていました。
――それは、やばいやつですね(笑)。退職のきっかけは?
【深井龍之介】一番大きなきっかけは、2011年の東日本大震災です。辞めるつもりはあったものの、やっぱり大企業を辞めることは勇気が必要だったし、次のところで通用するという感覚もなかった。でも震災が起きて「いつ死ぬか、わからないな」と思い、いつか辞めるなら、今辞めようと思いました。
【深井龍之介】その後は、基本的にずっとベンチャー畑にいました。何度かのド派手な失敗と、小さな成功と、本当にいい経験をさせてもらいましたね。起業することを決意したあとも、人文知だとすぐには売り上げを出ないので、コンサルとしていろいろな会社に傭兵で行くということを続けていました。
【深井龍之介】コンサルに入った企業から「取締役になってほしい」と言われることもあり、同時に5社の取締役をしていたこともありました。そこで得た報酬を自分の会社の資金に充てる、ということを4、5年くらい続けて、COTENの売り上げが出るようになったら、少しずつ辞めさせてもらいました。

――深井さんが仕事で大切にしていることを教えてください。
【深井龍之介】世界に対して、今の自分が最も役に立つことをやろうと思っています。それほど立派な人間ではないですし、至らない点もあると自覚していますが、自分がこれをしたら世界がめっちゃよくなりそうと思うことを、なるべくやろうとしています。
――その想いは強いんですね。
【深井龍之介】そうですね。歴史や哲学を勉強していると、自分の会社を富ませることって、ほぼ意味を感じなくなるんです。「100年後、それが何になるの?」ってなるから。だって、古代中国で経済的に成功した人なんて、今はほとんど誰も知りませんよね。一方で、例えばルソーのような哲学者は、それ以降の思想すべてに影響を与え続けています。自分が影響を与えたいのではなく、「意味があることって何だろう」という問いが生まれるんです。あくまで僕自身の考えですが、市場を分析して結果を出すことは、ゲームとして成功だったとしても、人生において意味はないと感じます。
――リーダーとして大切にしていることはありますか?
【深井龍之介】まず、自分にあまりリーダー感がないですね(笑)。ビジョンを定義はしている。先のことも言っていると思う。でも、それだけのような気がします。他社の取締役をするときは、効率的な仕組みや、トップの人に合った組織運営について考えているのですが、自分がトップだと、全部どうでもよくなるんですよね。
【深井龍之介】一緒にビジョンを実現してくれる人と、お金を集めるということ以外は、人に任せているし、自分でやる気もないですね。それは世界に対して価値を出そうとしたとき、時間の無駄だと感じてしまう。僕たちのビジョンに共感して、それでもいいという人たちに残ってもらっています。
――そういったメンバーを集めることも大変ですよね。
【深井龍之介】そこは「コテンラジオ」がすごく役に立っています。でも僕が歴史の話をするときに、組織運営の話もするから、さぞ、それができる人かのように思われてしまうんですよね。実際はめちゃくちゃバランスが悪いし、共感性もあまり高くない(苦笑)。社会性だって後から身につけただけ。周りにいる人はすごく大変だと思いますが、すごい視座の高さで一緒に働いてくれています。
日本のオリジナリティに基づく価値を
――最後に、深井さんの今後の野望を教えてください。
【深井龍之介】COTENは日本発の企業だから、まずは日本企業と一緒に、世界に向けて、次の50年における価値を出していきたい。その価値は倫理的であると思っていて、僕は「社会善」や「ソーシャルグッド」と呼んでいます。倫理というと、日々の生活の清廉さみたいなことを想像される方がいらっしゃるかもしれませんが、そんなことはすごくどうでもいいことで、組織としてやっていることやリソースを回すことが、社会の問題をどう解決しているかが大切。どれだけ意義のあることをしているか、という世界に突入すると思います。そして、そんな世界をCOTENはブーストできると思っている。直近では「コテンラジオ」や企業での研修、コンサルでやっていきたいし、最終的には世界史データベースでサポートしていきたいですね。

【深井龍之介】それから、もうひとつ野望としてあるのが、先ほど話した、企業が人文知のインテリジェンス機関を持ち、その文化を醸成することです。ESGは素晴らしいですが、やはり欧米の文化です。日本人は昔から、先進国の文化を取り入れるのが得意。でも50%は失敗するんです。大化の改新のときもそう。資本主義と民主主義を取り入れたときも同じ。50%は成功して、50%は失敗している。ESGも同じだろうと思っていて、やっぱり他国をまねてもしょうがない。
【深井龍之介】これまで日本人が世界レベルでパフォーマンスを出したものは、日本のオリジナリティに基づくものです。今回の倫理的な動きも、日本人のオリジナリティに基づいた価値を、世界に対して出していくという点では、実現できるのではないかと思っています。
【深井龍之介】ポテンシャルを最も感じるのは、日本人は宗教的な分離が少ないというところです。キリスト教とイスラム教、ユダヤ教は、それぞれから見るとお互いの宗教は、論理上は破綻している。国教が違う国同士は、仲よくするのが難しい。でも僕たちは論理を必要とせずに受け入れられます。全部となんとなく仲よくできる。これが日本人の強みです。
――ネガティブに捉えられることも多いですが、そういう見方もできますね。
【深井龍之介】パクス・アメリカーナ(アメリカによる平和)が終わり、分断されている時代においては、存在を示せる強みになると思います。例えばESG を欧米がグローバルサウス(新興国・途上国)に押し付けても、おそらくうまくいかない。日本人はその間を取り持つのが、得意なのではないでしょうか。相手を尊重して、学びながら、全員が調和できる新基準を出すことができるのではないかと考えています。
この記事のひときわ
#やくにたつ
・モデルケースのない時代だからこそ歴史から学ぶ
・自分が当たり前と思っていることは時代によって変わる
・これからの企業は社会の問題をどう解決しているかが問われる
・働く意味を語れる企業が優秀な人材を獲得できる
【プロフィール】深井龍之介
株式会社COTEN代表取締役CEO。複数のベンチャー企業で取締役として経営に携わりながら、2016年に株式会社COTENを設立。自身もMCを務めるポッドキャスト「歴史を面白く学ぶコテンラジオ」は、2019年と2021年の「Japan Podcast Award」で大賞を受賞。著書に「世界史を俯瞰して、思い込みから自分を解放する 歴史思考」(ダイヤモンド社)など。3500年分の世界史情報を体系的に整理した世界史データベースを開発中。
取材=浅野祐介、撮影=樋口涼
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