コーヒーで旅する日本/四国編|尽きぬ熱意と好奇心で変化を続ける先駆者。「TOKUSHIMA COFFEE WORKS」が地元の厚い支持を得る理由

東京ウォーカー(全国版)

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。瀬戸内海を挟んで、4つの県が独自のカラーを競う四国は、各県ごとの喫茶文化にも個性を発揮。気鋭のロースターやバリスタが、各地で新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな四国で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが推す店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

徳島市街にある山城店は、開放的な中にもレトロで落ち着いた雰囲気で、地元の厚い支持を得ている


四国編の第11回は、徳島市の「TOKUSHIMA COFFEE WORKS」。1981年に創業して以来、徳島の自家焙煎コーヒー店のパイオニアとして、長年、地元に親しまれる一軒だ。店主の小原さんは、料理人からロースターに転身して以来、独学で焙煎に試行錯誤を重ね、今も変化を厭わず、学ぶ姿勢を失わない熱意と好奇心の持ち主。スペシャルティコーヒーの登場以降は、多彩な豆の提案でコーヒーの楽しみを広げる傍ら、コーヒー教室や各所でのレクチャーにも注力している。年々、変化のスピードを増すコーヒーシーンにあって、「好みは人それぞれに違うから、いろんなコーヒーがあっていい」という小原さんが伝えたい、尽きることないコーヒーの魅力とは。

店主の小原さん


Profile|小原博(おはら・ひろし)
1954(昭和29)年、徳島市生まれ。東京の大学を卒業後、レストランなどでの修業を経て徳島に戻り、1978年にビストロ「ディラン」をオープン。コーヒーも自ら手掛けるべく独学で自家焙煎を始める。1981年に店を移転し、自家焙煎コーヒー店「でっち亭」へとリニューアル。コーヒーを中心とした喫茶営業にシフトし、1990年に「珈琲美学」(現在の山城店)を出店。本格的にロースターとしての地歩を固め、日本スペシャルティコーヒー協会の立ち上げにも参画。2010年から「TOKUSHIMA COFFEE WORKS」と店名を改め、現在、徳島県内に3店を展開する。

料理人からロースターへ、試行錯誤の道のり

店で最大の22キロ窯からの煎りあげは迫力満点。芳しい香りが室内に満ちる

「コーヒーは正解がないから、キリがない。いまだに何かと試行錯誤をしているから。今まで失敗も多かったけど、何でもやってみて考える、がモット―」そう言って、3台の焙煎機に向き合う店主の小原さんは、コーヒーに携わること40年を超える大ベテラン。1981年に、初めて喫茶店・でっち亭を開業し、後に珈琲美学と名を変えて以降、徳島の自家焙煎コーヒー店の顏的存在として地元の厚い支持を得てきた。前回登場した、とよとみ珈琲の店主・豊富さんをはじめ、徳島のコーヒー好きなら、多くがその名を挙げる老舗だ。

焙煎所の倉庫には世界各国の生豆の麻袋が所狭しと並ぶ


そもそもは、料理人として地元で独立した小原さん。東京の大学を卒業後、修業を経て、最初に開いた店・ディランは、ビストロ的なレストランだった。当時、アラカルトを主体にすべて手作りにこだわった料理を提供していたが、食後のコーヒーだけは仕入れるよりほかなく、味に納得できなかったという小原さん。自ら焙煎機を購入し、自宅で独自に焙煎を始めたのが、ロースターとしての原点だ。まったくのゼロからスタートし、失敗を繰り返した末、ようやく納得できるコーヒーになったことで心機一転、自家焙煎の喫茶店・でっち亭を新たに開業。とはいえ、ここからがコーヒーとの長い付き合いの、本当の始まりだった。

当時はとにかくコーヒーに関する情報が少ない時代。本を読むか、直接聞きに行くしかなかった。例えば、ある本で“豆の焙煎を、何も考えずにやると味が出ない。意思を持って焼かないと出ない”、というような一節があって、これってどういう意味?といちいち悩んでいました」と振り返る。自ら全国各地の自家焙煎店も訪ね歩き、東京の老舗カフェ・バッハをはじめ、多くの先達から教えを請う機会を作っていった。

現在、焙煎所では3台の機体がフル稼働。容量も熱源も異なり豆の個性に合わせて使い分ける


新たな発見を重ねて広がったコーヒーの楽しみ

豆の販売はスペシャルティやオーガニックなど、30種を超える幅広さ

ちょうど、開店当時は自家焙煎コーヒー店の最初のブームにあたり、深煎りが主流になっていたこともあって、小原さんの焙煎も深煎りが原点。「でっち亭時代は、深煎り一辺倒。当時は、コーヒー会社も支社ごとに土地柄に合わせた豆を焙煎していて、徳島では極深煎りのコーヒーが広まった時期もありました」。それでも、自分が使う豆はプレミアムやグルメと呼ばれる最上級の豆を吟味してきた。まだスペシャルティコーヒーの存在もほとんど知られていない90年代、より質のいい豆を仕入れようと、同業者と共に中米やブラジルから共同仕入れを行ったこともあったという。

山城店は大学の近くにあり、学生から年輩のお客まで幅広い層が訪れる


その中でも、ブラジル・シモサカ農園のブルボン種を初めて飲んだ時には大きな衝撃を受けたという。「今まで飲んだのと違う、後味が良くて、すっきりと甘味が残って。コーヒーに品種があることも知らなかった頃でしたが、その業者の人がブラジルに行ってみませんか?と誘ってくれて、初めて産地にも行った。今思えば、当時は新しい発見、ワクワクすることがいっぱいあった」と振り返る。以来、南米10ヵ国をはじめ、産地の訪問はのべ数十回を数える。やがて、スペシャルティコーヒーの登場により、豆のカッピングスコアも明確になり、日本でもSCAJが設立されて以降は、一気に品質が向上、風味の個性の幅も広がった。小原さんもSCAJの抽出委員会の立ち上げに参画し、啓蒙普及にあたり、日本のコーヒーシーンにあった競技会として、ハンドドリップチャンピオンシップの開催に尽力した。

山城店のカウンターに立つのは、2代目の小原健亮さん


いまや店頭に並ぶ豆はブレンドだけで7、8種。さらにシングルオリジンも同じ銘柄の焙煎度違い、プロセス違いもあり、さらにオーガニック栽培の豆も5種とバラエティに富む。喫茶で提供するコーヒーも、当初はネルの一杯立てにこだわったが、「多い時は1日800杯くらいになり、追いつかなくなって」と、現在はペーパードリップも併用。深煎りはネル、浅~中煎りはペーパーと豆の種類に合わせた抽出で、個性を引き出す。さらにメニューには、徳島藩最後の藩主・蜂須賀茂韶を称えた殿様コーヒー、徳島の名産・和三盆を使ったラテなど、地元オリジナルのアレンジも好評だ。また、姉妹店のスイーツワークス エクレールで作る多彩なケーキのほか、軽食メニューも充実。中でも一番人気のスパイスピラフは、小原さんがディラン時代に考案したレシピを継承する、名物の一品だ。さらに、ピザは本格的な窯焼きで提供するなど、随所に料理人としてのこだわりも垣間見える。

ディラン時代のレシピを受け継ぐ、スパイスピラフ1045円。後を引くスパイシーな刺激が、しっとりしたバターライスと好相性


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