【第26回】ブラックミュージックで飾った古民家のノスタルジックな味「大栄軒製パン所」

東海ウォーカー

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個性的な外観の「大栄軒製パン所」の店舗は主人いわく「おそらく築80年ぐらい」


ジャズ、レゲエのステッカーやイラストなどで飾られたレトロな建物。外から見ただけでは何の店かわかりにくい佇まいだが、四日市の名物のように広く知られる人気パン店、それがこの「大栄軒製パン所」だ。

主人の趣味を反映した個性的な店づくり


店内に流れるジャズは、主人いわく「パンに聞かせている」


ガタガタと音の鳴る引き戸を開けて店内に入ると、目の前にはさまざまなパンが並び、その周囲にはレコードのジャケットやイラストが飾られている。BGMはジャズで音楽CDも販売。雑貨店にも似た雰囲気だが、四日市でも屈指の歴史あるパン店だ。

3代目主人の大森康洋さん。店番を手伝う母と2人で店を切り盛りしている


「大栄軒製パン所」の主人は、3代目の大森康洋さん。祖父が1937(昭和12)年に創業した店を父が継ぎ、康洋さんが継いだ。康洋さんは大学卒業後、アパレル業界に営業として就職したが、20代なかばでパン業界に転身した。「アパレルでは縫製所の人と接することも多くて、作る側になりたいと感じていました。やがて海外転勤を命じられたのが、家業を継ごうと決心したきっかけです」と、康洋さんは述懐する。

知人から贈られた作品や、お気に入りのインテリアが店内を飾るが、売り物ではない


康洋さんは、祖父の弟子だった人の製パン所などで修業し、パン作りをいちから学んだ。そして、店の雰囲気は時間をかけて康洋さんの趣味を反映したものにしていった。「99歳まで健在だった祖父からは文句も言われましたが、祖父の時代には釣り好きを反映して魚拓を飾ったり、父は相撲好きで力士の手形を飾ったり。昔から主人の趣味を反映した店だったんです」と康洋さん。

パン職人としての、外への発信


アーティストとして“なんでもパンで作れる”と話す康洋さん。個別のオーダーも受け付けている


康洋さんは、パン職人であるのと同時に、DJとしても活動し、またアーティストとしての顔もある。「当初は外への発信として、クラブイベントに出店するようなこともしていたのですが、いつしか担がれちゃってDJもやるようになりました(笑)。また、パンで仮面を作るなどアーティストっぽい活動もやっていて、様々なクリエイターの方々とも知り合いになれました」。店を飾っているイラストなどは、そうして知り合った人々から贈られたものも多い。

康洋さんの記憶では40年前にはもうあったという調理機器が今も現役だ


活動や風貌こそ現代的だが、康洋さんのパン作りは昔ながらの製法で続けている。「“ストレート法”と呼ばれる製法ですが、うちにある調理器具は古いものばかりで、それしかできないというのが実際のところですね。機械で発酵を進めるようなこともできないので、パンに任せるような形で、毎日丁寧に作っています」。毎朝4:00に起きてパンの仕込みを始める。クラブイベントは夜がほとんどであるため、そうしたイベントに参加する場合は、どうしても徹夜で作業をすることになってしまうという。

【画像を見る】四日市名物の1つに数えられる「スイートパン」は、大栄軒製パン所の人気商品だ


「大栄軒製パン所」の名物は、「スイートパン」(180円)だ。「創業当初から変わっていない人気商品がこれです。メロン味のクリームが挟んであって、上には砂糖のアイシングがかかる。「今で言う“スイーツ”のように、昔は自分へのご褒美として食べられるようなご馳走だったそうです」。かつてを懐かしんでか、嬉しそうに購入していく高齢者もいるそうだ。

“町のパン屋さん”として、変わらぬおいしさ


シンプルな「特製あんパン」は、ずっしりと重さを感じられる


「特製あんパン」(120円)も昔から変わらない製法で作られる。中のあんは北海道十勝産にこだわり、小豆を茹でるところから店で行っている。パン生地はしっかりとした歯応えがあり、あんは甘すぎないものの、どっしりとした食べ応えがある。また「ピーナッツパン」(120円)も人気だ。コッペパンにピーナッツクリームを挟んだシンプルなものだが、このクリームも手作りによるもの。クリームの量が控えめであるように感じるが、パンの食べ応えと絶妙にマッチし、ちょうどいいバランスだと感じられる。

ピーナッツを砕き、生クリームと合わせた手作りのピーナッツクリームが挟まれる「ピーナッツパン」


昔からあるこれらの菓子パンでは、レトロなパッケージが個性的だ。「祖父がデザインした昔ながらのパッケージを使い続けていますが、こういうものを作れる職人さんも減っているそうです。今はPCとプリンターで再現できるでしょうけど、そこまでしようとは思いません」と康洋さん。貴重な未開封のパッケージを求めて来店するコレクターもいるそうだ。

食パンの小麦味がしっかりとしており、ゆで卵の味と絶妙なバランスの「たまごパン」


総菜パンも豊富にあり、近くで働く人々の昼食としても愛されている。例えば「たまごパン」(170円)は人気商品の1つ。ゆで卵と微量のマヨネーズをパンに挟んだシンプルなものだが、マヨネーズの少なさから酸味がほとんどなく、卵のおいしさをしっかり味わえる。こうした総菜パンは昼まででかなり売れてしまうそうで、午前中に訪れたほうがパンの選択肢は多い。売切れ次第で店を閉店するというのも、昔から変わらないスタイルである。

アーティスト的な一面もあり、また真面目なパン職人でもある康洋さん。彼が営む「大栄軒製パン所」の佇まいと味は、ほかでは見つからない貴重な“四日市の名物”である。【東海ウォーカー/加藤山往】

加藤山往

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