カッコイイって何だろう?【いきものがかり山下穂尊の『いつでも心は放牧中』Vol.5】
東京ウォーカー(全国版)

大学の4年間で結果が出なかったら普通に就職だろうなと思っていた。それでダメだったら、ただの過信だったんだろうと。
結果、というのが何を表していたのか、じつは曖昧だったのだが。その時にぼんやり思い描いていたのは、たとえば事務所が決まるとか、レコード会社と契約するとか、プロとしての入り口に立ってもいいよっていう明確なチケットみたいなものを手にすることだったように思う。
旅から帰ってきて、聖恵と話をしたら、もう一回やるってことになった。その時にはもう大学生活もあと3年しか残されていなかった。そう思うと、焦りというか、とにかく前に進まなければという気負いみたいなものがあった。このまま厚木や海老名あたりで路上ライブをただ続けていても限界があるというのはわかっていた。都内のライブハウスなら、少し話題になれば関係者が足を運んで目に止まる、ということも考えられるが、さすがに厚木や海老名までは関係者も観に来ない。そう考えると、いくら小田急線で都内まで1本で出られる距離にあるとはいえ、音楽活動においては、実際の距離よりもかなり隔たりがあった。
しかし、僕らには都内に出て、そこを中心に音楽活動をやっていくという選択はなかった。
下北沢や新宿のライブハウスに僕らが出ていったとして、そこで受け入れられる可能性はあまり高くないだろうと思っていた。その自己認識は、今でも間違っていなかったと思う。
バンドでもない男女3人組という見た目もそうだが、僕らがやっている音楽は、“ど”が付くほどのポップスである。しかもグループ名は「いきものがかり」。そんなグループが、下北沢の地下にあるライブハウスに出て行っても相手にされないだけだろうと思っていた。そういうところでは、尖った感じのロックバンドや、前衛的なパンクバンド、最新のヒップホップといった、◯◯シーンに含まれているお洒落な音楽が中心だった。お客さんの意識も――もちろん良質の音楽を求めている、というのがベースにあるのだが――カッコイイかどうかのほうにウェイトがあるような気がした。
つまり、都内のライブハウス・シーンの基準では、僕らは単純に「ダサい」と切り捨てられておしまいだろうと思ったのだ。僕らが求められていないのと同じように、僕らもそこに混じってやる気は一切なかった。やはり僕らのやりたいことは“みんなの歌”なのだ。それは、高校時代から路上でやり続けて獲得した実感でもあった。
当時の路上には、僕らと同じような多くの若者がギターを持ってそれぞれにパフォーマンスをしていた。そんな中で目立つにはどうしたらいいだろうか、ということを良樹とよく考えた。聖恵を誘ったのも他に男女混成グループがいなかったからである。さらに、音楽性においても僕らはあることに気づいた。みんな奇抜なビジュアルやカッコイイことを目指していた。それはそうだろうと思う。でも、本当に奇抜でカッコイイことって何だろう。もしかしたらそれは、超なんのてらいもない普通の音楽をやることなんじゃないか?誰もの心にじわっと感動が広がっていくような音楽――つまり“みんなの歌”が一番奇抜で尖ってカッコイイことなんじゃないか?そう考えるようになった。
実際に3人でやり始めてから、僕らの作る曲は王道とも言えるポップスが中心となっていった。聖恵の歌や声の魅力もあって、どのグループよりも僕らの歌に足を止めてくれるようになった。
だから都内との隔たりを感じながらも、自分たちで掴んだものに間違いはないという確信だけはあった。
厚木のライブハウスでワンマンライブをやろう。目標は300人。いくら厚木とはいえ、いや厚木みたいな片田舎だからこそ、そこに300人ものお客さんを集めたら、さすがに少しは注目されるのではないかという目論見と、地元でなら手売りで300くらいソールドアウトさせられるんじゃないかという根拠のない自信があった。
再結成した僕らがまず始めたことは、そんな冒険だった。
編集部
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