「当選確率1%、日本一予約が取れない工場見学」として話題になった島田電機製作所の新施設「OSEBA」大人気の秘密は希少性と没入感にあり

東京ウォーカー(全国版)

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普段の生活で「押す」という行動について考えたことはあるだろうか。東京・八王子市に拠点を置く株式会社 島田電機製作所(以下、島田電機製作所)は、世界初の「押す」をテーマとした施設「OSEBA」を自社工場内に設けている。

2022年に、SNSで「当選確率1%、日本一予約が取れない工場見学」として話題になった島田電機製作所だが、2024年7月に新施設「OSEBA」をオープンするにいたった経緯とは?

今回は、島田電機製作所・代表取締役社長の島田正孝さんに、「OSEBA」の誕生の背景と大人気の理由について話を聞いた。さらに、筆者による体験レポもお届け!

今回取材に応じてくれた、株式会社 島田電機製作所 代表取締役社長の島田正孝さん【撮影=西脇章太】


社員のモチベーション向上とファンづくりの一環で始まった

島田電機製作所は1933年に創業し、エレベーターのボタンなどを専門に製造する日本一の老舗オーダーメイドメーカーで、もともとはエレベーターメーカーからの依頼を受けて製品を製造する下請け企業だった。

「私は1993年の入社以来、下請けとしての業務を続けるだけでは限界を感じていました。そこで、社員のモチベーションを高めるために企業姿勢を発信し、会社の存在を広く知ってもらうことに力を入れてきたのです」

株式会社 島田電機製作所の外観【画像提供=島田電機製作所】


2013年に八王子へ移転したことを機に、島田さんが5代目社長に就任し、企業の方向性を見直すこととなった。前述のように、下請けとしての製造業務だけでは限界を感じていた島田さんは、「モノづくり」、「組織づくり」、「ファンづくり」の3つを軸として事業活動に注力した。

「こうして社内を盛り上げているなか、2017年ごろに一般の方から『子どもがエレベーターのボタンを押したがって困っています。工場見学をさせてもらえませんか』という問い合わせがありました。反応を見るよい機会だと思い、試しに行ったところ、子どもが夢中でボタンを押していたのです」

上記をきっかけに、2018年には「1000のボタン」を設置し、2020年からは「工場のぞきみ見学会」を開始。その工場見学があまりにも人気となり、予約が取りにくい状況になった。そこで、より多くの人に来てもらえるように、2024年7月に新たな自由見学施設「OSEBA」をオープンした。島田さんは「工場見学を始めたことで、“子どもたちがボタンを押したがる”という、弊社ならではの社会ニーズに気づけたのが大きかったですね」と話す。

「ボタンを押せば何か始まる」。入り口からすでに「OSEBA」の独自の世界観を感じることができる【撮影=西脇章太】


島田電機製作所の工場見学は、大企業にはない希少性と没入感が魅力

これまでにない新しいコンセプトで人気を集める『OSEBA』。では、そのルーツである島田電機製作所の工場見学は、具体的にどのような点で人々に魅力を感じさせてきたのか?

「『OSEBA』を開始する前は、コロナ禍の影響で工場見学を一時休止していましたが、その間も多くの方が見学を楽しみに待っていてくださったようで。外出制限が解除されるとともに、多くの来場者をお迎えすることができました。また、受け入れ可能な人数には限りがあったので、2017年当初は『0』のつく日のみの開催でした。その後もご案内できる人数を増やすため、『8』のつく日を追加するなどして、月に3回、午前と午後に1組ずつ、合計で約20組を受け入れる形で運営していました」

工場見学の場所に到着するまでの間にも、見学者の好奇心を刺激するさまざまな仕掛けが点在している【撮影=西脇章太】


そして、工場見学の予約を1年間分開放したところ、ホームページでの予約が30分ですべて埋まったそうだ。これについて島田さんは、「受け入れ人数が限られているため、その希少性と予約の取りにくさが話題を呼び、メディアに取り上げられる機会も増えた結果、この予約数につながったのだと思います」と語る。

工場見学の内容についても、訪れた人たちからは「大手テーマパークよりおもしろい」といった声も多いのだそう。そのほか、普通の工場見学にはない工夫も。

「弊社の工場見学では、製造工程を間近で見ることができるだけでなく、実際に触れることもできます。また、社員と直接会話することもできるので没入感が格別です。さらに、単にきれいな工場を見せるだけでなく、日常の様子を垣間見ることができる点も大きな魅力ですね」

手洗い場には、英語、日本語、中国語で「ありがとう」という文字が【画像提供=島田電機製作所】


「OSEBA」を通じて、日本企業全体の底上げに貢献したい!

現在、「OSEBA」を目的に訪れる来場者は月間で2000人を超えているようで、来場者は子どものみならず、芸能人や外国人など多岐にわたる。この大きな反響を受けて、今後「OSEBA」をどのように発展させていくのかについて聞いてみた。

「具体的な形はまだ未定ですが、『ボタンで社会をポジティブに』を合言葉に、ボタンを押す面白さを広く社会に発信していきたいと考えています。そして私たちのポジティブな企業姿勢が、日本企業の新たな働き方のロールモデルになれるようになりたいと思っています」

加えて、島田さんは「弊社のような中小企業であっても、こうした取り組みができるというロールモデルになれればと考えています」と意気込んだ。今後は組織づくりに関する勉強会を開催したり、セミナーを行ったりして、普及活動を進めていく予定とのことだ。

会場へ向かう階段には、「なんで階段なんだよ...って思ったでしょ」の文字があり、図星を突かれた筆者は思わず笑ってしまった【撮影=西脇章太】

ボタンを押すと扉が開き、その先の受付で入場料を支払う【撮影=西脇章太】


「OSEBA」のさらなる発展はもちろん、島田さんならびに島田電機製作所の挑戦にも大いに期待したい。

取材後、実際にOSEBAを体験してみた!

取材を終えたあと「OSEBA」を体験させてもらえることになり、早速、入り口へ向かった。扉の隣にあるボタンを押すと「こんにちは〜」と音声が流れ、「OSEBA」の世界観に一気に引き込まれる。

施設内では、島田電機製作所のカンパニーソング「ボタンを押せば」が流れていた。ちなみに作詞担当は島田さんだ【撮影=西脇章太】


最初のコンテンツは「究極の2択」。パンと米、カレーライスとラーメン、愛とお金など、多様な選択肢が並び、大人でも迷うものがあるほど。これまでに押された回数が表示される仕組みがあり、何度押してもカウントされると知った筆者は、ボタンを夢中で連打した。

「究極の2択」。数字が表示されていると、つい何度も押したくなる【撮影=西脇章太】


進んだ先に待っていたのは、ガラス張りの「無限エレベーターBOX」。床下には無数のエレベーターボタンが動いており、立ち止まっていてもまるで動いているかのような錯覚を覚える。無限に映し出されるボタンの美しさに、筆者は「めっちゃきれい...!」と感嘆していた。

カラフルなボタンが床一面に広がる様子【撮影=西脇章太】


遊びと学びを兼ね備えた「OSEBA」

視覚で楽しんだあとはエレベーターの意匠器具(※エレベーターのデザインや装飾に関わる部品やパーツ)がどのように製造されるのか、実物を用いて丁寧に説明されているエリアへ。普段何気なく目にしているエレベーターのボタンが、どのように作られているのかを知ることができ、とても感慨深くなった。

遊びだけでなく、学びもあるのが「OSEBA」の魅力のひとつ【撮影=西脇章太】

一見どれも同じように見えるが、採用基準を満たしているのはこのなかのひとつだけだ【撮影=西脇章太】


その後ろにある「100年ヒストリー」では、島田電機製作所の歴史とともに、各時代のできごとがエレベーターボタンの周囲に描かれており、実際に時代ごとのボタンを押すことができる。映像作品でしか見ないようなレトロなボタンもあり、歴史好きな筆者は「まさか、こんなに古いボタンを押せるなんて...!」と大興奮だった。

普段何気なく目にしているエレベーターのボタンにも、実は深い歴史があるのだ【撮影=西脇章太】

場所ごとに異なるデザインのボタンが設置されているそうだ【撮影=西脇章太】


次は、島田電機製作所のスローガン「Heart-beat Factory」にちなんだゲーム「ハートビート 早押しチャレンジ」。全333個のボタンを30秒以内にいくつ押せるかを競う内容だ。筆者の記録は158個で、終わったあとに「はぉ、疲れた〜。今日一番の運動量かもしれない(笑)」とひと言。

「ハートビート 早押しチャレンジ」に挑戦した結果、筆者のスコアは158だった【撮影=西脇章太】


「ハートビート 早押しチャレンジ」の隣には、島田電機製作所が最初に手掛けた「1000のボタン」が。公募で集められたアイデアから採用された多様なボタンが壁一面に貼られており、その光景を見た筆者は、「ボタンが並ぶ様子は圧巻ですね!」とテンションが上がっていた。

【写真】「1000のボタン」の一大パノラマは一見の価値あり【画像提供=島田電機製作所】

ゲームコマンドのようなボタンも【撮影=西脇章太】


最後に、来場者が「こんなボタンがあったらいいな」と思うものを描いてみることに。筆者は験担ぎに「よい記事が書けるボタン」と書いた。

筆者が書いたあったらいいなと思うボタン。よい記事になっているだろうか...?【撮影=西脇章太】


かくして「OSEBA」の遊びと学びを十分に満喫し、「これからはエレベーターボタンをひとつずつじっくり見よう」と心に決めた筆者は体験を終え、島田電機製作所を後にした。

“押す”という日常の何気ない行為が、楽しみに変わる瞬間をぜひ一度体験してみてほしい。子どもだけでなく、大人も夢中になること間違いなしだ。

取材・文=西脇章太(にげば企画)

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