【第42回】老舗食堂を救った“職人の味”「大森屋 本店」

東海ウォーカー

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津観音の門前町、だいたて商店街にある「大森屋 本店」


三重県津市にある、だいたて商店街。そこで3代続く「大森屋 本店」は、中華そばで知られる老舗食堂だ。周囲には「大森屋 ○○店」といった似た名称の店が数軒あるが、それらは初代の弟子だったり親戚だったりといった関係性で、経営、レシピ、メニューなどは全く異なる店である。

「この味を残してほしい」と助けられる


店内に入って手前がテーブル席、奥には座敷席が2卓ある


現在の店長である田中健夫さんは「創業は1930(昭和5)年ごろと聞いています」と話す。正確な創業年はわからないが、もうじき90年を数えるらしい。健夫さんの祖父が創業し、その息子が継いで、孫である健夫さんが継いだ。そうして「大森屋 本店」は続いてきた。

3代目であり、現在は店長の肩書で店を守る田中健夫さん


健夫さんは22歳から2年間、名古屋市の飲食店で見習いとして経験を積んでから、この店に帰ってきた。父と一緒に店で働いたのは、それから6から7年程度の短い期間。早くに父が亡くなって、30歳あたりで3代目を継いだ健夫さんは、パートのスタッフらをまとめながら、店を切り盛りしてきた。

7月からの新しいメニュー。2段目に並んでいる品目が追加されたもので、追加注文しやすくなっている


継いでしばらくは順調だった「大森屋 本店」だが、経営がうまくいかない時期がしばらく続いたと、健夫さんは話してくれた。「恥ずかしながら潰しかけまして。それから経営を移譲する形で、新オーナーに経営を任せることになりました。『この店の中華そばが好きだから、できる限り続けてほしい』と言ってくれて」。そうして健夫さんは、引き続き「大森屋 本店」の店長として、調理場に立つことになった。これまでの仕事が評価されて、自分も店も助けられた形。「自分の仕事が間違っていなかったと、自信を取り戻すきっかけになりました」と、照れくさそうに頬を緩める。

「大森屋 本店」の味を創る健夫さんの工夫


【写真を見る】店を代表する人気メニュー「中華そば」(550円)。より多くの人に食べてもらいたいと7月から値下げした


人気メニュー「中華そば」(550円)は、最近「より多くの人に食べてほしい」という思いで、以前の700円から550円に値下げされた。スープは豚骨、鶏ガラ、カツオダシによる醤油味。細めのストレート麺は自家製で、あえて1日置いて熟成させることで独特の食べ応えが生まれる。「麺の熟成は、うどんの麺で使う方法ですね。こうするとコシが出るんですわ」と、健夫さんが職人らしく、こともなげに話す。「中華そば」自体は父の時代に始まったメニューだそうだが、麺を熟成をするようになったり、スープの味を調整したりといった工夫は、健夫さんの代になって始めたものだという。

「かやくうどん」(450円)は、うどん・そばの店として始まった「大森屋 本店」のルーツとも言える


「大森屋 本店」は当初、うどんやそばの店として始まったのだという。現在は「中華そば」が人気になり、注文されることは減ったそうだが、うどんの麺は現在も手打ちで健夫さんが仕上げている。その味を堪能できる一例が「かやくうどん」(450円)。具だくさんで食べ応えがあり、1杯で十分な満足感が得られるメニューだ。

麺類メインの店としては珍しい「オムライス」(650円)は、子どもからも好評な一品


足を運んでくれる地元のファミリー客でも満足してもらえるようにと、オムライス(650円)のような洋食メニューもそろえている。「オムライス」はケチャップと鶏肉をじっくり煮込んだケチャップソースを作っているそう。「そうするとケチャップの酸味が飛んで食べやすいですからね。お子様からも好評ですよ」と健夫さん。

引き続き、地元の大衆食堂として


「モットーは手抜きをしないこと」と話す田中さん。「常連のお客さんには分かっちゃうからね」と笑う


「大森屋 本店」を訪れる客の多くは地元の人々。平日はビジネスマン、休日は家族連れといった客層が多く、まさに地元の大衆食堂である。とりわけ年配の方からは「中華そばがおいしい店と評価していただいています」と健夫さんは話す。そして「課題は若い年齢層ですね。このあたりは大学がないから学生が少ない。そこが弱みです」と続ける。この店に限らず、地域全体が抱えている課題でもあるだろう。

店内の奥にある小上がりの座敷席からは、ガラス越しに中庭が見える。以前は井戸水を中庭に流していたが、残念ながら水が枯れてしまった


新しい経営者を迎えて、2017年7月から新しい一歩を踏み出し始めた「大森屋 本店」。単品メニューを増やし、ランチメニューには「A定食」(950円)から「C定食」(550円)までを追加し、豊富な単品メニューから好きなように数点を選んで、定食の内容を自由に組めるよう変更した。「この仕組みを年配のお客さんに説明するのが大変です」と健夫さんは冗談めかす。また、単品メニューが増えたことで、たくさん食べたい客は「中華そば+もう一品」という注文がしやすくなった形となる。

座敷席の上には、昔使っていたと思われる屋根がそのままインテリアとして残されている


経営者が変わっても、以前と変わらず“おいしい店であり続けてくれ”というのが、健夫さんに与えられた使命なのだという。健夫さんのモットーは、以前からずっと「手抜きをしないこと」。「大森屋 本店」は、経営に変化こそあれど、作り手の職人気質と、その味は、変わることなくあり続けている。【東海ウォーカー】

加藤山往

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