コーヒーで旅する日本/四国編|長い雌伏を乗り越えてカムバック。松山にカフェブームを起こした立役者の新章。「FUJIYAMA COFFEE naturel Roster」
東京ウォーカー(全国版)
新天地を得て再び続く、伝説のカフェの新章

その後、コロナ禍にも見舞われたが、2022年、「FUJIYAMA COFFEE naturel Roster」として復活を果たした。「屋号を改めたのは、海外の知人から“フジヤマという日本一有名な名前をなぜ使わないの?”と言われて(笑)」といいながらも、naturel Rosterの部分にナテュレの名前も残している。店は石鎚山系の山懐に立つ古民家。アクセスは決していいとは言えないが、かつてナテュレに通ったファンが訪れ、当時を懐かしむことも少なくない。
再開にあたって、藤山さんは自家焙煎を始め、SCAA(アメリカスペシャルティコーヒー協会)のカッピングジャッジの資格も取得。スペシャルティコーヒーにも早くから注目していたが、「あまり表に出してこなかったですし、今もあまり意識しないですね。ジャッジをするようになって、いちロースターとしては、豆のスコアよりも、お客さんに合うかどうかを考えるべきだと感じました。店で提供するコーヒーは、トレーサブルで、自分が納得できる豆ならよしと。焙煎やカッピングでの気づきは、以前のカフェ時代にはなかった新しい楽しみです」

自身では、ここを焙煎研究所と位置付けるのも、ロースターの仕事に携わるようになったのがきっかけだとか。「自分で焙煎するなら、お客さんの要望にすぐに応えられるのがいいところ。実際に店でああしたい、こうしたいは言いにくいけど、ここではニーズに合わせて味を調整したり、かゆい所に手が届くコーヒー屋にしようと」という、新しいスタイルを目指している。時には、壁に貼った大きな世界地図を差しながら、お客に産地の説明も。「愛媛の方だとミカンの話に置き換えて、産地や品種が違うと味も違うと伝えると分かってもらえます。たとえ話がうまいのは、講師をしているおかげですね(笑)」
現在は、カフェのコンサルタントとしても活躍する藤山さん。ナテュレ時代から開催していた、コーヒー教室をここでも継続している。現在は予約制で、ほぼマンツーマンのスタイル。コーヒーの歴史からドリップ、ラテアート、カッピングと伝える内容も幅広く、開業を目指して、この店の門を叩く若い世代も増えつつある。オーストラリアのカフェを体感し、長年、時代の変化を見てきた藤山さんが、何よりも願うのは後進の活躍だ。「今後は、同業者のサポートに力を入れたい。特に、店を始めてから悩んでいる人に、長く続けられるようにアドバイスできれば。自分が店を広げるよりも、彼らが脚光を浴びてほしいし、そういうお店があちこちの町にできて、広がったらうれしい」と、長年、カフェに携わってきた、自らの経験を発信し続ける情熱は今も衰えることはない。

これまで、常に変化の先を走り続けてきた藤山さんには、パイオニアとしての苦労も多々あったが、本人はあまり意に介していないようだ。「ナテュレを開店して以来、数々の試みを先駆けてしてきましたが、なかなか受け入れられず、“藤山さんは、何をするにも早すぎたね”とよく言われました。でも、そういう人がいないと変化は起こらない。新しいモノ・コトを、いろんな人に広めて、流行を起こすには時間がかかりますから。自分にとって、流行は追うものでなく作るもの。我ながら、これは名言だと思っています(笑)」
伝説のカフェの閉店から10年余を経て、再び現場に帰ってきた藤山さん。時代を経て、往時のファンとの再会を通して、こんな感慨を抱くこともあるそうだ。「当時の常連さんも、今は結婚していたり、子育て真っ最中だったりで、“若い時によく来てました”なんて話をしてくれます。いまや2世代にまたがる歴史ができたのかと思うと、僕が一番びっくりしていて、こうして店を続けてきたことも、捨てたもんじゃないなと思えます。新しいお客さんも含めて、新しい店で生まれる日々のコミュニケーションを、コーヒーの味作りにどんどん反映していきたい」。今は店の形は変わったが、カフェとしてのスタンスは同じ。ナテュレの物語は、今も続いている。

藤山さんレコメンドのコーヒーショップは「Grabbag coffeestop」
次回、紹介するのは、愛媛県四国中央市の「Grabbag coffeestop」。「店主の高橋さんはパティシエでもあり、コーヒーにのめり込んだ後にチョコレートに魅せられ、四国でビーントゥバーの製法を取り入れた先駆者。海外のコンテストでも数々受賞しています。コーヒーももちろん自家焙煎。職人気質の仕事が光るチョコレートや焼菓子と、コーヒーのペアリングが楽しみな一軒です」(藤山さん)
【FUJIYAMA COFFEE naturel Rosterのコーヒーデータ】
●焙煎機/ディスカバリー 250グラム(半熱風式)
●抽出/ハンドドリップ(ハリオ)、エスプレッソマシン(ラ・マルゾッコ)
●焙煎度合い/中~中深煎り
●テイクアウト/ あり(500円~)
●豆の販売/シングルオリジン4~5種、150グラム1000円~
取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治
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