オリンピックシーズン開幕!注目選手を総ざらい 【ジュニア女子・中編】
東海ウォーカー
グランプリシリーズが開幕し、ブロック大会も終わり、本格的なシーズンに突入したフィギュアスケートの世界。今週末には東日本選手権、来週には西日本選手権を控え、全日本への道も佳境を迎える。注目選手を総ざらいで取り上げているこの企画だが、直近のブロック大会での取材内容も交えて引き続きご紹介したい。
カナダに拠点を移し、飛躍を図る!渡辺倫果

元々は東京の選手であった渡辺倫果。小さな体でパワフルな演技を披露する姿を、過去にも紹介したことがある。昨年はオフに大きな怪我。無理を押して出場した東京ブロックではショート落ち、その先の選手権に駒を進めることさえできなかった。その彼女が、今年の春からカナダに拠点を移し、再起を図ることになった。新潟で開催された東北・北海道ブロック大会にて成長した演技を観ることができたのでご紹介したい。
彼女は元々、東伏見の大石コーチのチームに属していた。それが昨年の秋、関コーチのチームに移り、コーチのカナダ行きに合わせて拠点を変えることになったのだが、私は今まで、カナダ行きを前提にチームを移籍したものだとばかり思っていた。ところが、
「元々は、ステップ、スケーティングなどもっとレベルアップしたい、との思いから関コーチのチームに移籍したんです。その時点ではカナダに行く話はありませんでした。移籍して2か月後、『カナダに行くことになったから』とコーチから言われ、私も行くことにしたんです」
この状況で、良くカナダに行くことを決断できたものだと思う。
「兄は既に就職していて、私も独り立ちしたい、との思いが強かったんです」
とはいうものの、当時は中学2年生。両親はカナダにはついていかず、一人でホームステイしているという。ホームステイ先はスケーターの家族で、スケートに理解のある家庭であることが幸いしているようだが、当初は英語での会話もままならずに苦労したようだ。さらに以前通っていた学校からはスポーツ留学を認めてもらえなかったため、青森山田中学校に編入することになったのだ。
カナダではバンクーバー近郊にあるエイトリンクスをホームリンクにしている。リンクのボスからは全日本選手権に出場することを厳命されているそうだが、その理由が「リンクのボスが全日本のパーティーに出てみたい」ということのようだ。半ば冗談なのだろうと思うが、ボスの願いを叶えるためにも、全日本ジュニアでの6位以内を目指している。
彼女のジャンプのベースは大石コーチが作り上げたものだ。関コーチに移ったことでの影響を聞いてみたのだが「教え方は全然違います。大石先生は感覚で教えるタイプ、関先生は理論で教えるタイプだと思います。けれど伝え方が違うだけで、目指しているところは共通しているのだと思います」と、意外と苦労はしていない様子。実際、東北・北海道ブロックでは、ショート、フリー共にノーミス。練習からほとんどミスをしない安定したパフォーマンスを披露してくれた。そして久し振りに会って最も驚いたこと。背が随分と伸びていた!「昨年は140cmでしたが、今は145cmです!」と本人も嬉しそうに話してくれた。そしてスケート自体も、以前の小さな体でアグレッシブな演技を披露していた時期と比べ、より丁寧に、より綺麗に見せることを心掛けるようになったそうだ。さらに彼女は現在、トリプルアクセルに挑戦中だ。
「トリプルアクセルは、1日に2回はクリーンに降りられる状態です。最近、靴をジャクソンに変えたんですが、それが私には合っていたようです」
トリプルアクセルはフリーの後半に入れる予定だという。関コーチの判断次第だが、東日本ジュニア、全日本ジュニアで挑戦したいという。「今回のブロックでノーミスが出来たので、先生の許可が出るかもしれない」と期待しているとのこと。慣れない時差ぼけには苦労しているようで、「試合前のウォームアップで寝そうになった」というが、それでノーミスは立派なものだ。ブロック大会のあとは、カナダへの帰国前に青森に行き、学校の行事に出席したそうだ。今後も苦労はあるだろうが、それを乗り越え、昨シーズンの雪辱を晴らしてほしい。
トリプルアクセル挑戦だけでなく、全体の完成度で勝負する、横井ゆは菜

横井ゆは菜も、トリプルアクセルに挑戦し続けていることで知られている選手だ。ただ昨シーズンは、トリプルアクセルに挑戦することでプログラムを壊してしまうケースも多く、なかなか結果に結びつかなかった。
今季も、戦略としては昨年と同様だという。トリプルアクセルへの挑戦を続け、同時に他のエレメンツでのミスをなくす。ハイリスクなことに挑戦する以上、他をまとめる力がないと高得点は覚束ない。なかなか目指している演技ができずに苦心している様子だが、それでも今季はジュニアグランプリへの出場を果たし、ルッツのエッジエラーも克服しつつあり、着実に進化しているように感じる。トリプルアクセルも徐々に良くなっているようだ。
「全日本ジュニアなど、順位が重要になってくる大会でもトリプルアクセルに挑戦したいと思います。よほど調子が悪ければトリプルアクセルを外すかもしれませんが、今のところは挑戦したい気持ちが強いんです」
練習を積み重ね、不安なくいい緊張感を持って試合に臨めるようにしたい、そう話す横井選手。納得の行く会心の演技を、そろそろ見せてもらいたいものだ。
ファイナル出場は逃したものの、国際舞台で大きな飛躍を遂げた、山下真瑚

今季の山下真瑚の印象。一言で言って、演技が大きくなったと感じる。スケーティング、表現、双方が進歩した印象だ。ただ、氷上ではその演技で雄弁に表現する山下真瑚選手だが、取材での受け答えはあまり得意ではないようだ。それでも蝶々夫人の表現については、「蝶々夫人の力強さ、そして悲しさ、このメリハリを表現したい」と表現の意図を話してくれた。そしてスケーティングでしっかり押しても体力が持つよう、心掛けて練習しているそうだ。これが表現力の向上にもつながっているのだろう。ジュニアグランプリでは惜しくもファイナル進出に届かなかったのだが、その伸びのある、流れの良い大きな演技は、間違いなく世界に向けて大きなアピールとなった。
今季、ジュニアの台風の目となる存在!荒木菜那

今年2月、全国中学校大会で素晴らしい演技を披露。熱心なファンに名前を知られることとなったのだが、それからわずか数か月でジュニアのトップ選手の一角を占めるまでになった。ジャンプを始め、全ての要素がしっかりとした、正統派の演技が持ち味だ。今季は3フリップ+3トウなど、高難度のジャンプが武器となっている印象だが、本人はスピン、ステップの改善に力を入れているようだ。
「スピンのスピードを改善したいんです。ステップでもレベル3を常に取れるようにしたい」
ステップでは、クラスター(難しい種類のターンを3つ、一連の動作として片足で行うこと)が飛んでしまうことがあるそうで、このミスをなくすことを心掛けているという。短期間で注目選手となったが「いい演技をすると歓声が上がるようになったことが嬉しい」と、プレッシャーよりも嬉しい気持ちの方が勝っているようだ。「自分ではメンタルが弱いと感じています」というが、ジュニアグランプリでは堂々たる演技で初戦から2位に入賞。素晴らしいデビューを飾った。彼女も山下選手と同様、惜しくもファイナルに届かなかったが、しっかりと世界に名前を売り込むことが出来た。
昨シーズンの活躍を再び!鈴木紗弥

昨シーズン、推薦出場の全日本選手権でも活躍した鈴木紗弥。しかしシーズン後に大きな故障を抱えてしまい、今季は復活を目指すシーズンとなった。
「3月の愛知県大会の直後に股関節を故障し、そこが良くなって練習を再開したところ、今度は左膝を故障したんです」
2か月間は氷に乗れず、ひたすらウォーキングをしてリハビリに努めたという。ただそのリハビリもやり過ぎたようで、「1日3時間ウォーキングをしたら、お医者さんから叱られました」と笑う。頑張り過ぎなほどに頑張る性格の持ち主だ。「先生達を始め、周りの人達が私の復帰のために応援してくれて、自分も頑張らなきゃ、という気持ちでリハビリに取り組めたんです」と涙ぐみながら話す姿が印象的だった。このコメントを聞けたサマーカップの折には順調な回復具合を見ることができたのだが、その後、怪我をした個所に再び痛みが出たようで、しばらくジャンプ練習を休むこととなり、中部ブロックは悔しい結果となってしまった。
「怪我を言い訳にしたくない」と気丈に振舞うが、練習量の不足は試合になると如実に表れてしまう。練習では跳べても、本番になると決まらない。そして練習不足からくる不安な気持ちもパフォーマンスに影響してしまったようだ。順調さを欠いたシーズンの入りになってしまったが、挽回のチャンスはまだまだある。まずは西日本選手権で元気な姿を見せてもらいたい。
名古屋から現れた期待の新星!前野空

今季、名古屋で急成長を遂げた選手がもう一人いる。前野空。既に名古屋のメディアからは注目を集める存在となりつつあるが、まだ全国的には知られていないだろう。昨シーズンも、上手な選手であることは間違いなかったのだが、同時にミスも目立ち、なかなか上位に進出することができなかった。それが今年はミスが減り、笑顔で元気一杯の、観客を魅了する演技ができるようになったのだ。
「試合本番では、練習でやっていることが出ると思います。最近は練習でノーミスができる回数が増えてきて、それが試合につながっているんだと思います」
そして、今季の目標はかなり高いところを設定しているようだ。
「全日本ジュニアで表彰台に立って、シニアの全日本に出たいんです」
現在のジュニアの顔ぶれを考えるに、これはかなりハードルの高い目標だと感じるが、本人はそれが夢ではないと信じ、それを可能とする練習を積んでいるのだろう。この先、ジャンプ構成の難度を上げ、もう一つトリプル+トリプルを入れる予定もあるそうだ。楽しみな選手が現れた。
「ジュニア女子・後編」へ続く 【東海ウォーカー】
中村康一 (Image works)
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