「退職代行モームリ」が目指すのは“退職代行なんて必要ない世界”!?代表が明かす、透明性とデータで変える働き方の未来
東京ウォーカー(全国版)
新年度がスタートして1カ月が過ぎ、ゴールデンウィークという長期休暇のタイミングを含め、職場でのハラスメントや労働環境のミスマッチを理由に退職を考える人もいるかもしれない。

そんななか、注目を集めているのが退職代行サービス「退職代行モームリ」(以下、モームリ)だ。2022年3月15日にスタートしたこのサービスは、退職を希望する人たちの駆け込み寺として支持を集める一方、SNSなどで「偽善的だ」といった声も一部上がるなど、話題を呼んでいる。
だが、運営元である株式会社アルバトロスの代表取締役・谷本慎二さんは、「退職代行が必要ない世の中を作りたい」という驚くべき目標を掲げている。なぜ、サービスを提供する立場でありながら、そのサービスをなくすことを目指すのだろうか?
今回は、モームリ誕生の背景と利用者の特徴、そして今後の展望について、谷本さんに話を聞いた。
「退職という選択肢があることを伝えたい」モームリ誕生の経緯
ーーまず、モームリを立ち上げた経緯をあらためて教えてください。
【谷本慎二】モームリを始めたきっかけは、前職での経験です。10年間、サービス業に従事していましたが、労働環境はとても過酷でした。長時間労働や休日出勤が常態化し、同僚が次々と辞めていく姿を見てきました。
会社を辞めたあと、元同僚から「退職代行サービスを使った」という話を聞き、初めてその存在を知りました。「こんなサービスがあるなら、もっと多くの人が救われる」と直感し、モームリの立ち上げを決意。退職に悩み苦しむ方たちの力になりたいと思いました。

ーー前職での経験が、モームリのコンセプトにどう影響しましたか?
【谷本慎二】前職では、過酷な環境が当たり前だと刷り込まれていました。24時間労働していたこともありますし、数日帰宅できないこともありましたが、当時は「どこもこんなもの」とあきらめていました。辞めたあと、ネットやSNSでほかの職場環境を知り、「働きやすい場所がある」と気づきました。
この経験から、退職を考える方に「選択肢があること」を伝えたいと思い、モームリを立ち上げました。単に退職を代行するだけでなく、働き方の可能性を広げるきっかけを提供したいと考えています。
運営者の顔や名前を公開する「透明性」が強み
ーーモームリを立ち上げる際、どんな点を強みにしようと考えましたか?
【谷本慎二】退職代行業界を調べたとき、競合サービスの多くは会社情報や運営者の顔を公開せず、グレーな印象でした。社長の名前もわからない、どんな方が対応しているかも不明。それでも依頼があるのは、退職に悩む方のニーズが大きいからです。
そこで、モームリでは「透明性」を最大の強みにしました。運営者の顔や名前を公開し、どんな想いでサービスを提供しているかを明確に発信する。写真や動画、SNSでサービスの裏側をしっかり見せることで、安心感を与えたいと考えました。
透明性を重視した結果、「モームリなら信頼できる」と感じる方が増えていったのだと思います。
また、透明性は企業側にもメリットがあります。退職理由のデータを公開することで、企業が課題に気づき、労働環境を改善するきっかけを提供できる。これこそ、モームリならではの強みです。
ーーモームリのサービス名やブランドに込めた想いは?
【谷本慎二】サービス名は、退職を考える方のリアルな気持ちを代弁しつつ、親しみやすさを意識してつけました。ネーミングはブランドの第一印象を決めるので、刺さるもの、記憶に残るものであることを大切にしています。

認知拡大に伴い、警察沙汰レベルの相談も...
ーーモームリを利用する人の主な退職理由はどういったものになりますか?
【谷本慎二】最も多いのは「労務問題」と「ハラスメント」です。アンケートでは、約6割が労務問題とハラスメントを理由に挙げ、半数以上がサービス残業や休暇が取れないといった労務環境に悩んでいます。
ハラスメントでは、セクハラやパワハラが深刻で、身体的な接触、性的な発言、土下座の強要、上司からの過度な叱責や人格否定など、深刻なケースも報告されています。
以前は「退職代行で本当に辞められるのか」と不安に思う方が多かったですが、メディアやSNSで「モームリなら安心」と知られ、警察沙汰レベルの相談・依頼も寄せられるようになりました。
ーー特に深刻なケースとは?
【谷本慎二】女性の利用者から「職場で暴行を受けた」という相談が2〜3件寄せられました。また、違法な行為を強制され、「一刻も早く会社を脱出したい」と願う依頼もあったりします。
ーーそんなひどいケースもあるのですね...。
【谷本慎二】これまでにも警察沙汰レベルの深刻なケースは存在していたと思いますが、そうした方々は「退職代行サービスを使っても、本当に会社を辞められるのだろうか」と大きな不安を抱えていたのではないでしょうか。
そんななか、SNSでモームリの存在を知り、「ここに相談すれば退職できる」と安心して連絡をくれる方が増えてきたと感じています。
ーーモームリを利用される方の年齢層や男女の割合はどのようになっていますか?
【谷本慎二】男女比はだいたい半々です。年代でいうと、6割が20代、2割が30代と若い方が中心ですが、15歳から83歳まで、かなり幅広い年齢層の方々に利用していただいています。
ーー80代の利用者もいるのですね。
【谷本慎二】83歳の方は「辞めたいと言い出しにくい」、70代の方は「会社に感謝はあるが、体力的に限界で。それでも引き止められるので」というのが主な理由です。若年層とは異なり、肉体的な理由や人間関係のプレッシャーが背景にあるのです。

感謝の声も多数。ただ、どちらにも寄り過ぎないようにする
ーーこれまでの利用者からの反響で、特に印象に残っているものはありますか?
【谷本慎二】感謝の言葉をたくさんいただきます。退職直後はもちろん、一週間後、一カ月後に「新しい職場で幸せに働いている」というメッセージが届くこともあります。
事務所に手紙やプレゼントを送ってくれる方もいて、「人生を変える手助けができた」と実感します。印象深かったのは、20代の女性が「モームリのおかげでパワハラから解放され、夢の仕事に就けた」と手紙をくれたことです。こうした声がモチベーションですね。
ーー利用者の対応時に心がけていることは?
【谷本慎二】利用者の皆さんは大きな不安を抱えているため、常に親身な対応を心がけています。LINEや電話でのやりとりでは、相手の気持ちに寄り添い、安心していただけるよう努めています。一方で、企業とのコミュニケーションでは、公平な姿勢を厳守しています。
利用者の主張をそのまま伝えるのではなく、事実だけを客観的に伝えるよう心がけています。利用者にも企業にもそれぞれの正義がありますからね。

ーーサービスを通じて、企業が変わったケースはありますか?
【谷本慎二】ある大手企業では、サービス残業が常態化していましたが、モームリが本社に問題を伝えたところ、社内調査が始まり、残業代が全額支払われるようになりました。支店長クラスのハラスメントが問題だった企業では、管理職の教育が強化されたケースもあります。
大きい企業では現場の問題が本社に届かないことが多いので、モームリが橋渡し役になり、課題が明るみに出ます。ですが、モームリが利用されたから悪い企業というわけではありません。
パナソニック株式会社エレクトリックワークス社にて対談のご依頼をいただいた際、内部を見学させていただき、社員の方へヒアリングを行いましたが「ここなら私たちの出番はない」と感じるほどホワイトな環境でした。また、実際の離職率も教えていただきましたが、驚くほど低い数値でした。
対して、小規模な企業であっても、離職者が「自分に原因がある」と考えるケースもあり、企業側に問題がない場合も見受けられます。
SNSでの批判は想定済み。膨大なデータで労使間の溝を埋める
ーーSNSなどで見られる退職代行への賛否についてどう思いますか?
【谷本慎二】正直、賛否は覚悟していました。労働者側からは「退職は自由」、企業側からは「長く勤めるほうが成長につながる」という意見が出ますが、どちらも理解できます。
重要なのは、退職代行が「退職」を社会的に議論するきっかけになっていることで、これまで避けられてきた問題が表に出て、働き方を見直す機会になっているのは大きな進歩と言えます。
SNSで「退職代行を使う人は甘い」と言われることもありますが、ブラック企業で辞められず苦しむ方もいる。多様な現実を可視化し、フラットな議論を生むのがモームリの意義だと感じています。
偽善者と言われることもありますが、「やらない善よりやる偽善」だと思っていて。成果を出し、世の中の働き方が変われば批判は気になりません。
従業員や利用者の支えが大きく、SNSの叩きも広告効果になっています(笑)。中立な立場を貫き、企業と労働者の両方に寄り添うことで、恨みを買わずにすんでいるのかもしれません。
ーーモームリを通じて伝えたいメッセージや価値観は?
【谷本慎二】「若者はすぐに仕事を辞める」「忍耐力が足りない」といった批判に対し、退職代行を利用する人は全体の1%にも満たないことをお伝えしたいです。多くの若者は強い意欲を持って働いていますが、過酷な職場環境から抜け出せない人もいるのです。
SNSでは、こうした一部のケースが過度に注目されがちだと感じます。モームリを通じて、退職や働き方を偏見なく見つめ直し、誰もが自分らしい選択ができる社会を目指しています。
ーー具体的に、日本の労働環境をどのように変えていきたいとお考えですか?
【谷本慎二】進化する企業と停滞する企業の違いは、問題の責任を従業員に押し付けるかどうかです。退職代行を繰り返し利用される企業は「従業員に原因がある」と考えがちですが、変化を遂げる企業は退職の背景を真剣に受け止め、職場環境の改善に取り組みます。
モームリは、3万2000件を超える退職データと6万件以上の相談データを蓄積しており、退職理由を最も深く理解する存在だと自負しています。
このデータを企業に提供することで、こうした労使間の溝を埋めたいと考えています。最終的には、退職代行の必要性が減り、誰もが気軽に退職を選べる社会を実現したいですね。

目指すは、退職代行がなくなる未来
ーーでは、今後の取り組みや展望を教えてください。
【谷本慎二】モームリの認知度は高まってきたので、退職代行の枠を超えた展開を考えています。現在は、「セルフ退職ムリサポ!」に注力しています。退職代行を利用する前に、自分で退職を切り出せるようサポートするサービスで、問い合わせも増えています。
また、QRコードを記載した「お守り」を作成する計画を進めていて。これまでにも、モームリを心の支えとして利用してくださる方がいらっしゃいましたが、その思いを具体的な形にしたいと考えました。
「どんなときもモームリがそばにある」という安心感を提供しつつ、利用者ご自身が新たな一歩を踏み出す後押しをしたいと願っています。

ーー今後の広告戦略やSNSの活用については、どのように考えていますか?
【谷本慎二】これまで退職代行サービスではSNSの活用があまり進んでいなかったため、私たちは今後も積極的に情報発信を続けます。
さらに、2025年5月1日から、ムリサポ!を宣伝するアドトラックを走らせる計画です(※本インタビューは4月末日に実施)。同時に、「退職代行はいらない!」というメッセージを掲げたトラックも並走します(笑)。こうして相反するメッセージで話題を呼び、退職について考えるきっかけを提供したいですね。

ーー海外展開の可能性はありますか?
【谷本慎二】20カ国以上のメディアから取材を受けましたが、海外の方々からは「なぜ自分で退職の意向を伝えずに代行に頼むのか」と驚かれることが多いです。やはり、退職代行の需要は日本ならではのものだと実感しています。
日本の労働環境では、企業が強い立場にあり、労働者は比較的弱い立場に置かれがちです。一方、海外では「雇われているのではなく、働いてあげている」という対等な意識が根強い傾向があります。
類似のサービスが見られるのは韓国くらいで、これは徴兵制などを含め、厳格な上下関係が影響していると考えられます。海外展開は法律の壁もありますが、韓国など近い文化の国なら可能性はあるかもしれません。
ーー最後に、日本の今の労働環境を変えるのに、どのくらいかかると思いますか?
【谷本慎二】5〜10年で日本の働き方は大きく変わる可能性があると思います。大げさに聞こえるかもしれないですが、10年前と比べると、サービス業でも着替え時間も勤務時間にカウントされるなど、あたりまえのことですが、環境は確実によくなってきています。モームリのデータと影響力をフルに活かして、特にこの1〜2年が勝負の時期だと感じています。
企業からの講演依頼なども増え、企業側の意識も徐々に変化しているのを実感しています。「お前たちに何ができるんだ」と批判されることもありますが、私たちは膨大な退職理由のデータを事実として持っており、それを伝えるだけで企業に変化を促せるのです。
すでにモームリの取り組みが成果を上げていると実感していますが、この勢いを維持できれば、ホワイトな職場が当たり前の社会に近づけるはずです。
取材=浅野祐介、取材・文=西脇章太(にげば企画)
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