秘密はかかとにあり!立ったまま履ける「スパットシューズ」がシリーズ累計340万足突破の快進撃を続ける理由
東京ウォーカー(全国版)
靴にまつわる悩みはさまざまあるが、その中でも大きいのが株式会社チヨダ商品統括本部 商品企画開発部(現在は生産管理部)バイヤーの吉田博隆さんによれば「手を使わなければならない煩わしさ」と「ニオイ」なんだそう。吉田さんは手を使わずに立ったまま履ける「スパットシューズ」を企画・開発をしたヒットメーカー。「スパットシューズ」は2022年に誕生し、当初はメンズのみの展開だったが、その後レディース、ジュニアとカテゴリーを拡大している。手を使わずに履けるというハンズフリーの靴は複数の会社・ブランドが販売しているが、チヨダの「スパットシューズ」が支持される理由はどんなところにあるのか話を聞いてみた。

「靴に靴べらをつければいい」という発想から誕生
現在、チヨダのプライベートブランドで商品開発に携わる吉田さんだが、以前は中部地区の地区バイヤーとして働いていた。
「10年間バイヤーとして働いていました。お客様のニーズを叶える靴探しをしていたのですが、そうした中でハンズフリーの靴への需要は非常に感じていました。5年前に商品開発部へ異動になって、作り手という立場になりました。お客様の求める物を作りたいということで、ハンズフリーシューズの開発に挑むことになりました」
手を使わずに履けるハンズフリーシューズを初めて出したのはアメリカの「キジック(Kizik)」というブランド。同社独自の“スプリングバックヒール”構造により、足を靴に差し込むと、かかと部分が一時的に潰れ、すぐに元の形に戻って足をしっかりホールドする仕組みだ。
「この技術は特許取得されているので、私たちは使えない。では、どのようにしたら手を使わずに履けるのか。単純な発想で『靴べらをつけたらいいんじゃないか』ということで、1年をかけて製品化にこぎつけました。具体的にはかかとの部分を外側に張り出させ、滑り台のように角度をつけることで足を差し込んだ時に、スッと入っていくようにしました」
かかと部に靴べらの役割をしてもらう、という発想は比較的すんなりと決まったが、安全に履いてもらえるかかとを実現するためには、かなりの試行錯誤があったのだそう。


「履きやすい、かつ歩いていて脱げにくい、そこが両立できる形に行き着くまで修正を繰り返しました。滑りをよくするために、かかと部を尖らせすぎると歩いた時にかかと部が刺さって痛くなってしまいますので、どんな角度にすればよいのか、かかと部の高さをどこまで出すのか何度も調整をしていきました。一番苦労したのは安全性の確保です。強度も必要ですから厚みをどうするのか、という問題もありました。芯になる素材もプラスチックのようなものを使うと割れてしまった時にお客様に怪我をさせてしまう危険性があるため、ここには耐久性と軽量性に優れたポリプロピレンを採用しています。非常に強く固めることで強度を出しています」
歩いている時の脱げにくさはどこで実現しているのだろうか?

「かかと周りにパッドをつけることで、ホールド感を出していますね。靴のデザインによってパッドの厚さや形状は変えています。たとえばレディースの靴の場合、よりデザイン性を求められることもありますから、パッドが悪目立ちしないようにバランスを見ています。ある1足のパッドを他デザインの靴に使いまわせるというわけではないので、きめ細やかに対応しています」
そうして販売がスタートしたスパットシューズは、初年度売り上げ目標10万足に対し15万足とヒット。シリーズとしてデザイン・カテゴリーを増やしていく中でさらなる改良を施している。

「“履きやすくて脱げにくい”に加えて、“脱ぎやすい”という要素を加えていきました。以前はソール部分はフラットなデザインにしていたのですが、今のソールではわざとここに出っ張りを作っています。ソールがフラットな時は脱ごうとした時にアッパーと言われるつま先の内側部分に引っ掛けていたんですが、そうするとどうしてもアッパーが破れやすくなってしまうんですね。なので、ソールのところに出っ張りを作って、ここに引っ掛けてもらって脱ぎやすいという形にしています」
スパットシューズはビジネス、ジュニア、作業靴など幅広い分野に進出
スパットシューズは売り上げ好調を維持し、2025年度は220万足という目標に対し、順調に推移している。吉田さんにとってこの市場反応は予想通りだったのだろうか?
「私個人としては売れるだろうと感じていましたね。社長の町野からも『これは売れる』と話をしてもらっていました。ただ、社内では半信半疑という反応もありましたね。それはお客様にとって手を使って靴を履くことがそこまで不満であるということを知らないからというのもありましたし、靴専門店としては紐できちんと調節して自分の足にあった形で履いてほしいという思いもあるからだと思います」
足が未成熟な子どもが靴を履く時、一般的にかかとをトントンと打ち付け、そのうえでベルトをしっかりと締めるように履くことが望ましいと言われる。スパットシューズの場合、そうした調整をしないで履くことになるので、ジュニア向けのアイテムに対してネガティブな見方をされることはなかったのだろうか?

「おっしゃる通り、その点がジュニアカテゴリーの開発に時間がかかった理由ですね。ジュニアカテゴリーは2024年3月から販売をスタートしています。スパットシューズもお子様の足に合った状態で履いていただきたい。靴専門店としてチヨダにはシューフィッター資格者が多数在籍しています。なので、そうした人たちと連携をとりながら、ジュニアカテゴリーの靴はどういう形がいいのか、ホールド感をどう出していくのか詰めていきました。激しい運動には向いていませんが、日常の軽い遊びでは問題なく履いてもらえます。それに、ハンズフリーではない既存靴に対しスパットシューズが優れている点もあるんです。お子様ってかかとを踏んでしまって潰してしまうということがありますよね。スパットシューズはかかとを踏んでも潰れないので、崩れない。その点では従来の靴よりもかかと部分のホールド感を持続できる靴だと言えます」
2024年11月には「プロテクティブスニーカー(軽作業靴)」をリリースしている。
「日本は地震が多いですから、そうした時に簡単に履けるスパットシューズはメリットがあります。なので、防災シューズや安全靴といった分野も企画していきたいと考えていた中で、大手引越し会社からオリジナルの作業靴を開発してほしいとご依頼をいただきました。シューズの先端に鋼製先芯を搭載してつま先を保護。アッパーにははっ水加工を施したり、滑りにくいソールを採用したりして、(公社)日本保安用品協会が定める『JSAA B種』の基準をクリアしています。仕事用としてだけでなく一般向けにも販売している形です」

かがまずとも履けるというメリットは高齢者に対しても非常に有効だ。今年7月にはより足に優しい機能を備えたサポートシューズが登場。左右兼用でどちらを履いてもよいユニバーサルデザインのものや、4Eのゆったり幅で足にむくみなどがあっても履きやすいタイプのものを用意している。入院生活やリハビリ・介護現場にも需要が見込めそうだ。さまざまなタイプの靴に応用されているスパットシューズだが、さらなる可能性もあると吉田さんは話す。


「私たちが見えていないお客様のニーズというのもまだたくさんあるのではないかと思っています。なので、可能性はあると考えていますね。先ほど話にあがったプロテクティブスニーカーは法人営業部からの話がきっかけで開発され、一般販売にもつながっていきました。ワーカーの方にスパットシューズのメリットが求められているという需要は私個人では気づけなかったところです。なので、社内の力を合わせて、お客様のニーズに応えていく商品開発をどんどん進めていきたいですね」
ハンズフリーシューズ市場は世界規模でこれからも拡大していくと言われている。その中で、日本発のスパットシューズがどのように進化していくのか注目だ。
取材・文=西連寺くらら
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