国立西洋美術館はみんなに開かれた場へ!新しい親子のアート体験「にぎやかサタデー」レポート&今後の企画展を紹介

東京ウォーカー(全国版)

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担当者が語るこれからの美術館と「にぎやかサタデー」

ーー「にぎやかサタデー」がどういう背景から始まったのか、教えていただけますか。
【美術館担当者】美術館といえば「静かに鑑賞しなければならない場所」というイメージが強いと思います。ただ、それがハードルになってしまい、美術館の使命である“広く作品を鑑賞する機会を提供する”ことが阻害されているのではないか、という課題意識が職員の間で共有されていました。そこで、誰でも気兼ねなく来ていただける日を設けることで、美術館へのハードルを下げたいと考えたのが出発点です。特に小さなお子さん連れの家庭は、来館するだけで気構えや準備が必要ですし、心が折れてしまうことも多い。そうした方々にとってのきっかけになればと企画しました。

国立西洋美術館で開催された「にぎやかサタデー」では、親子が気兼ねなく会話をしながら美術鑑賞を楽しんだ(c)国立西洋美術館


ーー「おしゃべりしてはいけない」というのは、あくまでイメージなんですね。
【美術館担当者】そうですね。美術館としては全くそういうルールはありません。ただ、どの館でも少しでもしゃべると「しーっ」とされる空気がありますよね。海外では子どもが床に寝そべってスケッチしながら楽しそうに話している場面をよく見ます。日本は特に「迷惑をかけてはいけない」という文化が強いのかもしれません。

ーーこれまで3回開催されていますが、進化してきた点はありますか?
【美術館担当者】1回目は親子連れを想定し、授乳室を仮設するなど設備を整えました。ただ実際には耳の遠い高齢の方や、重度の障がいを持つご家庭の来場もあり、美術館に来ることをあきらめていた方が「機会をいただけてうれしい」とアンケートに答えてくださったのが印象的でした。2回目は感覚過敏の方のために「クワイエットルーム」を設置。3回目の今回は絵本の朗読会を新しく取り入れました。作品鑑賞以外の体験を増やすことで、美術館そのものに親しんでもらえるよう工夫しています。

ーー人気のプログラムについて教えてください。
【美術館担当者】常設展で実施している「作品探し」です。ポストカードを持って対象作品を探す企画で、2〜3歳のお子さんでも楽しめます。大人も一緒になって盛り上がり、会話が自然に生まれるのが一番の狙いです。企画展では昨年から「ビンゴ」を導入しました。細部を切り取った絵を手がかりに探すのですが、昨年はとにかく難易度が高かったので、今年は切り取り部分を大きめにするなど調整しました。それでも探し当てるのは一苦労かもしれませんね。美術館側としては狙い通り、探す過程で会話が弾んでいて、楽しんでいただけています。

ーー通常時でも子ども連れが安心して楽しめる工夫はありますか?
【美術館担当者】企画展期間中に託児サービスを実施しています。常設展パスポートチケットを使えば「今日はこの1作品だけを見に行こう」といった利用も可能です。さらに冬には「BABYといっしょに ゆったりDAY」を予定しています。休館日に特別開館し、乳幼児連れでも安心できるようにします。無料・事前予約制です。

乳幼児連れのファミリーも安心して楽しめるよう、赤ちゃん休憩室も用意された

赤ちゃん休憩室には、授乳室やおむつ替えスペースなども完備されていた


ーー実際の来場者の反応はいかがですか?
【美術館担当者】「にぎやかサタデー」を始める前は「うるさいからやめてほしい」といった声が出るのではと正直不安でした。実際にはそうした意見はごくわずかで、大半は「こういう機会がうれしい」という肯定的な声です。小さなお子さん連れの方から「この日を毎年楽しみにしている」と言っていただけるようになり、定番化しつつあると感じます。耳の聞こえにくい方が大きな声で感想を言い合えたり、全く知らない来場者同士が「その作品どこにあった?」と自然に話し始める場面もあって、こちらが想定していなかった効果も生まれています。さらに、有料でもいいから回数を増やしてほしいという声も届いています。まだ3回目なので、来年以降にどういう形がベストかを検討していきたいです。

ーーご自身も子育て中とのことですが、親の立場で感じることはありますか?
【美術館担当者】子どもに配り物があると助かります。シールや紙でも、手にすると夢中になり、散漫さが少し減るんです。自分の体験ですが、他の美術館では、子どもにマグネット式のお絵描きボードを配っていて、うちの6歳児もずっと模写に集中してくれました。美術館は、筆記具の持ち込み制限があっても、マグネットなら問題なく描ける。親としても集中して作品を鑑賞できて、本当にありがたかった取り組みですし大変参考になりました。国立西洋美術館でも、もっと小さな子ども向けの工夫があるとありがたいと感じています。例えば企画展で配布しているジュニアパスポートは小中学生向けで少し難しい内容なので、未就学児でも楽しめる仕掛けがあれば親としてはとても助かります。

絵本にも登場した「あひるの子」と再会

「にぎやかサタデー」の日に限定で、彫刻作品の周りにはテープで立ち入り禁止エリアを表示。小さな子どもにもわかりやすいように工夫されていた

案内板も「にぎやかサタデー」の日に限定で登場


ーー今後、美術館が目指す姿や理想のあり方についてお聞かせください。
【美術館担当者】障がいのある方や特別なサポートが必要な方に向けた特別鑑賞会なども継続して行ってきました。美術館は誰にとっても開かれた場でありたいと考えており、さまざまなニーズに応えられるような企画を意識しています。その一つとして毎年冬に実施しているのが「美術館でクリスマス」です。

ーー冬の企画について具体的に教えていただけますか。
【美術館担当者】「美術館でクリスマス」は11月末から1カ月間行います。研究員が自ら声を届ける『冬季限定!音声ガイド「キュレーターズ・ボイス」』は昨年初めて実施し、とても好評でした。声優や俳優ではなく、作品研究に携わっている学芸員の“生の声”が新鮮だったようです。今年も新しい作品で制作中です。毎月第2日曜日は「Kawasaki Free Sunday」として常設展が無料開放されます。これは川崎重工さんとのパートナーシップによる提供です。12月には講堂(約100席)での「みんなのクリスマス・キャロル・コンサート」を開催します。昨年から後方にスタンディングエリアを設け、赤ちゃんを抱っこしたまま気軽に鑑賞できるようにしました。車椅子席も用意し、照明も少し明るめにすることで出入りしやすい雰囲気にしています。

ーーおすすめの見どころを教えてください。
【美術館担当者】現在、開催中のスウェーデン国立美術館展は素描の名品ぞろいで、人気は《眠る犬》。馬や雀をモチーフにした作品、人物画など、小さな作品が多く展示室も暗めですが、その分集中して見られます。ジュニアガイドも配布していて、鉛筆で線を描きながら鑑賞するきっかけになります。2025年10月25日(土)からは「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」。室内をモチーフにした作品が中心で、ルノワールの《ピアノを弾く少女たち》など、子どもや家族が多く描かれていて親しみやすい内容です。さらに来年3月の「チュルリョーニス展」では、リトアニアの芸術家で作曲家でもあるチュルリョーニスの作品を紹介します。音楽の様式を取り入れたものや、リトアニアの神話、宇宙の神秘を描いた作品もあり、科学好きや物語好きのお子さんも楽しめるはずです。

さらに、常設展は高校生以下は無料、大人も500円です。常設展パスポートチケットは1300円で、3回通えばお得になるチケットなので、子どもがぐずって帰ってしまっても安心ですね。ロダンの《考える人》や《地獄の門》、モネの《睡蓮》など教科書で見た作品が、いつでも鑑賞できるのも魅力です。

企画展「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」は10月25日(土)から2026年2月15日(日)まで開催される

リトアニアを代表する芸術家の生誕150周年を記念した企画展「チュルリョーニス展 内なる星図」は、2026年3月から開催


ーーありがとうございました。

夜まで開館、カフェやショップも楽しめる

金・土曜日は20時まで開館。夕暮れの展示室を歩くとゆったりとした時間が流れ、作品をじっくり味わえる。併設の「CAFÉ すいれん」も夜まで営業していて、軽い食事やお茶でひと息つけるのが魅力。ミュージアムショップも同じく夜まで開いており、お気に入りを探す楽しみも広がる。ライトアップされた外観を眺めてから展示室を巡り、最後にカフェやショップへ立ち寄れば、一日の締めくくりまでわくわく感が続く。

子どもに人気のお子様プレート(1200円)もイベント限定で登場。ハンバーグやオムライス、エビフライと人気のメニューが一皿に集まったランチプレート

おいしいごはんもアート体験も、きっと忘れられない思い出となるはず


アートをもっと身近に、そして楽しく味わえる場がここにはある。みんなで出かけて、特別なひとときを体験してみよう。

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取材・文・撮影=北村康行

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