クリステン・スチュワート最新出演作『愛はステロイド』を鑑賞。痺れるほどカッコいい女二人の突き抜けた愛が観る者の心を揺さぶる!
東京ウォーカー(全国版)
2025年8月29日より全国公開された『愛はステロイド』は、スタジオA24が新たに贈る、規格外のクィア・ロマンス・スリラー。公開前に試写で観た本作の感想を紹介(以下、ネタバレを含みます)。
【ストーリー】
舞台は1989年のニューメキシコの田舎町。単調な毎日を過ごしていたルー(クリステン・ステュワート)は、勤め先のトレーニングジムで逞しい筋肉を纏ったジャッキー(ケイティ・オブライアン)と運命的な出会いを果たす。
オクラホマ出身の彼女は、来月ラスベガスで開催されるボディビル大会に出場するため、経由地としてこの町に流れ着いたのだ。
男と殴り合いになったジャッキーを介抱するうちに彼女に惹かれはじめたルーは、ジムでまとめ買いをしているステロイドをプレゼントする。そして2人は熱い口付けを交わし、流れるままに身体を重ねるのだった。
ただ、ルーの家族には問題があった。“町の警察をも牛耳るほどの凶悪な一面を持つ父親”と“夫からのDVを愛だと盲信する姉”がいるからだ。やがてルーとジャッキーは、ルーの家族の犯罪網に引きずりこまれていくのだった…。
オスカーノミネート俳優と元ボディビル選手が恋人役で共演!
本作のメガホンをとったのは、自身で脚本も執筆したサイコホラー映画『セイント・モード/狂信』(2019年)で長編映画監督デビューを果たしたローズ・グラス監督。『セイント・モード/狂信』はトロント国際映画祭のミッドナイト・マッドネス部門でプレミア上映されたのちに、英国アカデミー賞2部門にノミネートされた。
そんなグラス監督とタッグを組んだのは、『トワイライト』シリーズ全5作品(2008年、2009年、2010年、2011年、2012年)で主人公ベラ・スワン役を務めて大ブレイクし、『アリスのままで』(2014年)やオリヴィエ・アサイヤス監督の『アクトレス 〜女たちの舞台〜』(2015年)などで俳優としてのキャリアを着実に築いたクリステン・スチュワート。
個人的には大好きな俳優ジェシー・アイゼンバーグとの初共演作『アドベンチャーランドへようこそ』(2009年)のキュートなクリステンが強く印象に残っていて、そのあとジェシーと再共演した『エージェント・ウルトラ』(2016年)で演じたCIAに命を狙われるダメ男(途中で最強エージェントとして覚醒する)の恋人役も最高だったので、こちらもおすすめしたい。
『パーソナル・ショッパー』(2017年)や『ロスト・エモーション』(2017年)、デヴィッド・クローネンバーグ監督の『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』(2023年)といったミニシアター系の作品からハリウッド大作『チャーリーズ・エンジェル』(2019年)まで幅広く挑戦するところが彼女の魅力で、第94回アカデミー賞主演女優賞にノミネートされた『スペンサー ダイアナの決意』(2021年)では、ダイアナ元皇太子妃を見事に演じきったクリステンのプロ魂に圧倒された。
そんなクリステンが本作で演じるのは、流浪のボディビルダー、ジャッキーと運命的な出会いを果たしたことをきっかけに、虚無的な日常から抜け出し、愛する者を守るために奮闘する女性・ルー。自分で切ったふぞろいなショートヘアにカットオフのTシャツ、タバコを加えて運転する姿など、とにかくクールでカッコいい。“こんなクリステンが見たかった!“というシーンがてんこ盛りの時点で100点満点の映画である。
ルーのパートナーとなるボディビルダーのジャッキーに抜擢されたのは、クリステンと同じくクィアであることを公表している元ボディビル選手で、現在は俳優として活躍するケイティ・オブライアン。
本作は彼女にとって初の大役となるが、マーベル映画『アントマン&ワスプ:クアントマニア』(2023年)や『ツイスターズ』(2024年) 、『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』(2025年)などの大作にも出演している。
正直、『アントマン&ワスプ:クアントマニア』や『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』での彼女の出演シーンはまったく覚えていないが、本作のジャッキー登場シーンに“どこかで見たことある顔だな…誰だっけ?”と、なぜか見覚えがあった。そしてすぐに調べたら、大好きなゾンビドラマ『ウォーキング・デッド』で救世主と呼ばれる残忍なグループに所属していたメンバーの一人だったことを思い出してスッキリ。『ウォーキング・デッド』でもあまり目立つ役ではなかったが、彼女のインパクトのあるビジュアルはなんとなく覚えていたのだ。
本作でケイティが演じたジャッキーはどこかミステリアスで、関わってはいけないと思わせる危険なオーラを冒頭からぷんぷん漂わせている。そんな彼女にどうしようもなく惹かれてしまうルーに共感できるのは、ケイティがジャッキーを魅力的に演じているからだろう。ただ、ステロイドを注入し始めてからのジャッキーは暴走気味でちょっと怖かった(笑)。
ジャッキーの暴走なんかかわいく思えるほど恐ろしかったのは、エド・ハリス演じるルーの父親ルー・シニア(主人公のルーと同名のため、呼び分けるためにルー・シニアと表記)だ。射撃場やトレーニングジムの経営者というのは表の顔で、実はメキシコに大量の銃を密輸して稼ぐ凶悪な犯罪者であり、昆虫愛好家というちょっと変わった趣味を持っているところも不気味。渋くてカッコいいおじいちゃん俳優なのに、本作ではロン毛のビジュアルでとても気持ち悪い人物をしっかりと作り上げていてさすがだった。
ルーに一方的な好意を寄せるデイジーを演じるのは、第89回アカデミー賞で脚本賞を受賞したケネス・ロナーガン監督の『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2017年)で映画デビューを果たしたアンナ・バリシニコフ。ルーを執拗に追いかけ、デートに誘おうとする姿がとても切なかった。
さらにルーの姉・ベスを『ハンガー・ゲーム』シリーズ(2013年、2014年、2015年)、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(2016年)などの話題作に出演するジェナ・マローン、ベスにDVを行うクズ夫のJJを『21ジャンプストリート』(2012年) 、『グランド・イリュージョン 見破られたトリック』(2016年)などに出演するデイヴ・フランコが演じている。個性豊かな俳優陣の演技にも注目してもらいたい。
ドキドキのサスペンス展開も楽しい最高&最強のレズビアン映画
80年代のアメリカの田舎町で、クィアということを周りにも知られているルーが自分らしく生きるのは大変だったと予想する。そんなルーとジャッキーが惹かれ合い、愛情を深めていく姿を繊細に、時には大胆に見せていくクリステンとケイティの芝居に心を大きく揺さぶられた。
物語の中盤からは、ジャッキーがとある事件を起こし、そこから一気にドキドキのサスペンス展開へと突入する。ジャッキーを命懸けで守ろうとするルーと、ありのままの自分でルーに全力でぶつかっていくジャッキー。カッコいい女二人の突き抜けた愛と、驚きのクライマックスに衝撃を受けること間違いなしの1本。
最高で最強のレズビアン映画『愛はステロイド』をぜひ劇場で鑑賞してもらいたい。
文=奥村百恵
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