高橋一生と巡る、特別展「運慶 祈りの空間―興福寺北円堂」に行ってきた
東京ウォーカー(全国版)
約60年ぶりに寺外へ姿を現した国宝・弥勒如来坐像。その舞台は東京国立博物館だ。特別展「運慶 祈りの空間―興福寺北円堂」では、普段、非公開の北円堂を思わせるように、無著・世親菩薩立像や四天王立像を含む国宝7軀が一堂に会する。その並びに足を踏み入れると、凝縮された“祈りの空間”が広がり、まるで鎌倉時代へとタイムスリップしたかのような迫力を味わえる。開幕に先立って行われたプレス内覧会には、本展のアンバサダーを務め、さらに音声ガイドのナレーションも担当する俳優・高橋一生さんが登壇。その特別なひとときを取材してきた。
興福寺北円堂とは
奈良・興福寺の北円堂は、藤原不比等の追善供養のために721年に建立された八角円堂。度重なる災禍を乗り越え、鎌倉時代には運慶と一門によって再建され、今も静かに歴史を刻んでいる。内部には国宝の弥勒如来坐像を中心に、無著・世親菩薩立像、四天王立像(今回展示の四天王立像とは異なる)が並び、祈りの空間を形づくってきた。しかも北円堂は通常非公開。かつて平城京を一望する高台に建ち、日本に現存する八角円堂の中でも最も優美と称えられる建築である。その外観だけでも特別な存在感を放つが、荘厳な内陣を実際に目にできる機会はほとんどない。
寺外公開は約60年ぶり!東京国立博物館だけの特別な展示
今回の特別展では、興福寺北円堂に安置されている本尊・弥勒如来坐像が修理を終え、約60年ぶりに寺外公開される。
そこに並ぶのは同じく北円堂の無著・世親菩薩立像、そして現在は興福寺・中金堂に安置されている四天王立像だ。
この四天王立像は、研究の積み重ねにより、鎌倉復興期の北円堂に安置されていた可能性が高いとされている。かつての配置を想起させる像群が、7軀の国宝仏として一堂に集うのはまさに奇跡。しかも北円堂は通常非公開で、現地でもこの光景に出合うことはない。だからこそ、東京国立博物館での展示は“祈りの空間”そのものを現代に再構成する、またとない機会となっている。
国宝7軀がそろう北円堂の空間
展示はあえてシンプル。正面に座るのは本尊・弥勒如来坐像。鎌倉時代に運慶と一門が彫り上げた堂々とした姿で、修理を終えて約60年ぶりにお寺の外で公開される。まさにこの瞬間しか出合えない貴重な姿だ。
その両脇には無著・世親菩薩立像が並ぶ。インドの高僧をモデルにした兄弟像で、無著は年老いた姿で深い精神性を、世親は若々しい姿で未来を見据えるまなざしを示している。人に近い雰囲気が漂い、思わず引き込まれるように見入ってしまう。
そして周囲を取り囲むのが四天王立像。本尊と菩薩を四方から守り、堂内を結界のように包んで邪を払う役割を担う。現在は中金堂に安置されているが、鎌倉時代に北円堂に置かれていたと考えられている像だ。静かな弥勒や菩薩と対照的に、四天王は激しい動きと力強さを放ち、場をきりりと引き締める。国宝7軀だけで構成された展示だからこそ、一体一体の存在感が際立ち、訪れる人を鎌倉復興期の北円堂へと誘ってくれる。
高橋一生さんが語る、祈りの空間の特別さ
開幕に先立って行われたプレス内覧会には、本展のアンバサダーを務め、さらに音声ガイドのナレーションも担当する俳優の高橋一生さんが登場し、一足早く展示を体験した。目の前に広がるのは、凝縮された“祈りの空間”。その瞬間にまず感じたのは、この場に身を置けることへの喜びだったそう。
「非常に凝縮された美しい祈りの空間にいさせていただいているなと、特等席で見させていただいて、広報大使に任命いただけたことを心より幸福に思いました」
視線は自然と奥に立つ二体へ。人間らしさを感じさせる無著と世親の存在に言葉が弾む。
「想像以上でしたね。非常に人に近いと言いますか、運慶の造形と相まって、玉眼(ぎょくがん)をぜひ皆さんに見ていただきたいなと。ほかの仏様にはない造形が、無著と世親には施されていて、兜率天の教えから人間のように教えを広めるために、人に限りなく近い状態でいるこの二人の兄弟の姿が、とても印象的に映るはずだと思います」
さらに語られたのは、この展覧会ならではの特別な視点。普段は決して見られない角度からの弥勒如来坐像だ。
「光背がない状態の弥勒如来坐像は、なかなか見られるものではないと思います。なかなかどころか、本当に見ることができないんじゃないかなと。で、後ろに回らせていただいたときにですね、無著と世親とこの弥勒如来の配置もさることながら、弥勒如来のこの世界に向けている目線みたいなものが背中越しからも感じられ、非常に印象に残っております」
音声ガイドの収録秘話にも触れながら、その声に込めた思いを明かした。
「できる限りあの、これを見られる方たちの、邪魔にならないような、声の運びだったりとか、リズムだったりとかっていうものを意識させていただいております」
最後には来場者への願いを込めた温かなメッセージ。
「涙を蓄えているように見える無著の玉眼(ぎょくがん)だったり、世親の眼差しだったりとかっていうものを、これほどまで静かで落ち着いた空間で感じていただけるっていうことはまたとない機会だと思います。この貴重な体験をぜひしていただきたいなと思っております」
高橋一生さんのコメントからは、ただの展示以上に濃密な体験が伝わってくる。言葉に導かれるように、実際に足を運び、静寂の中でその迫力を全身で味わってほしい。
心をくすぐる、限定ミュージアムグッズの魅力
会場のショップには、本展ならではのユニークなアイテムがずらり。四天王立像をコンパクトに並べたアクリルスタンド(1650円)は、デスクや本棚にちょこんと飾れば迫力ある守護神がいつでも見守ってくれる心強い存在。
さらに、仏像愛で知られるタレント・みほとけさんとコラボした四天王イラスト入りプロテインシェイカー(2200円)は、トレーニングのお供に使えば毎日の習慣がちょっと特別な時間に変わりそう。
遊び心とご利益を兼ね備えたラインナップで、思わず手に取りたくなるグッズばかりだ。さらに奈良市の老舗、砂糖傳増尾商店や横田福栄堂のお菓子も並び、展覧会の余韻を甘い味わいとともに持ち帰ることができる。
展覧会のあとは、間近で感じるVR阿修羅体験を
一方で、本展とは別に楽しめるコンテンツも用意されている。東洋館の「TNM & TOPPAN ミュージアムシアター」では、VR作品『興福寺 国宝 阿修羅像』がすでに再上演中だ。
2009年の興福寺創建1300年記念『国宝 阿修羅展』をきっかけに制作され、2014年以来およそ10年ぶりの公開となる。興福寺ゆかりの特別展に合わせて帰ってきた映像体験で、三面六臂の阿修羅像をあらゆる角度から至近距離で鑑賞できる。実物展示では見ることが難しい後ろ姿や細やかな造形、脱活乾漆造と呼ばれる制作技法の秘密まで映し出される。
さらに八部衆の中での位置づけや、光明皇后が建立した西金堂にまつわる物語も盛り込まれており、阿修羅像が歩んできた1300年の歴史に深く触れられる。特別展と合わせて鑑賞すれば、興福寺が守り伝えてきた信仰と美の広がりをより立体的に感じられるだろう。
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取材・文・撮影 = 北村康行
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