運動中に“聴く”だけでガンマ波増大?病院の外で広がる手軽な認知症予防へのアプローチ
東京ウォーカー(全国版)
9月は、WHO(世界保健機関)と国際アルツハイマー病協会(ADI)が定めた世界アルツハイマー月間。日本でも、2024年に施行された認知症基本法の中で9月21日を「認知症の日」、9月を「認知症月間」と定め、全国各地でさまざまな認知症啓発活動が行われている。
そんななか、2025年9月19日に東京・新宿区の「健脳カフェ」で、“ガンマ波サウンド”を取り入れた認知症予防のアクティビティが開催された。認知症に対し病院の外で行われるアプローチとして、その模様をお届けする。
体操中のBGMに“ガンマ波増大”の期待
健脳カフェは、認知症予防・治療を専門にしたアルツクリニック東京が監修する施設。カフェ内でのプログラムや交流を通して個別プログラムでの認知症支援を行うかたわら、精神医療の専門医が常駐し、認知症についての相談にアドバイスなどを行うのが目的だ。
一見するとデイケアサービスのようだが、認知症や軽度認知障がいの当事者だけでなく、その支援者や認知症予防に興味がある人、物忘れが気になり始めた人など、幅広い層が施設を活用している。
同施設で毎週金曜日に行われているのが、体力のない人でも筋力向上ができる運動プログラム「ラクティブ」だ。高齢者の場合、転倒による寝たきり状態から認知症の発症・悪化に繋がるケースが多いためその予防として、また、“突き出た大脳”とも呼ばれる手を使った運動で脳に刺激を与えることも狙いとなっている。
健脳カフェでは、インストラクターの指導のもとマシンを使わず自重を活用した運動で約1時間体を動かし続けるプログラムに、ガンマ波サウンドスピーカー「kikippa」を導入。ガンマ波は、集中力や記憶力に関連しているとされる脳波の一種だ。アルツハイマー型認知症患者の脳の活動を見ると、このガンマ波が減少しているという。マサチューセッツ工科大学の研究では、40ヘルツ周期の断続音をマウスに聞かせると脳内にガンマ波が発生したことから、ヒトへの応用の可能性に注目が集まっている。
「kikippa」は、テレビや再生機器の音声信号を加工し、40ヘルツ周期のガンマ波サウンドを日常生活の中で発生させるというもので、スピーカー越しの音声を聴くことで脳内のガンマ波増大が期待されている。
何やら大仰なことにも聞こえるが、ラクティブの時間中は、「kikippa」を通してBGMがかかっているというだけ。ラジオ体操のように運動のレクチャーが流れているわけでもないので、体を動かすのに集中していれば音楽が流れていることも忘れてしまうだろう。筆者もプログラムの合間、参加者同様イスに座ってラクティブを試してみたが、見た目よりも複雑かつハードな運動で、あまりほかのことを意識する余裕はなかった。
だが、それこそがポイント。ガンマ波サウンドは、必ずしも聴くことに集中している必要はないそうだ。スピーカーの音を気にせず、しかもまとまった時間にガンマ波を浴びられるという体操プログラムとのコンビネーションは、日常生活の中に溶け込む認知症予防への補助的なアプローチと言えるだろう。
同プログラムでインストラクターを務める金子さんによると、選曲にも工夫があるのだとか。というのも、「kikippa」は通常の音声を加工して再出力しているので、音源によってはビリビリとしたノイズがかかる部分が多くなってしまうのだ。金子さんの見解としては「BPM100~110程度でリズムがシンプル、そしてボーカルがないか控えめ」な楽曲は音声の違和感が少ない傾向にあるそうで、今回のプログラムでもレゲエ調のBGMを活用していた。
「未病の段階から予防」の重要性
順天堂大学医学部名誉教授でアルツクリニック東京院長を務める新井平伊さんは、「認知症の患者が年々増加を続け、2025年には“65歳以上の5人に1人が認知症になる”と推測されています。認知症の発症や進行を遅らせること、発症の予兆を察知したうえでリスクを下げる“未病の段階から予防を目指す”先制医療的な取り組みの拠点としたいという想いから、病院とは異なる日本初の試みとして健脳カフェを立ち上げました」と語る。
新井さんは、健脳カフェに「kikippa」を導入した経緯について「五感の刺激による認知症予防の可能性は以前から注目され、多くの研究がされており、特に視覚的刺激は記憶との関係でも以前から注目されていました。そこに逆転の発想で、認知機能に関係するとされる脳波であるガンマ波が、聴覚から神経細胞を活性化できると世界的な論文で発表・確認され、予防や治療的介入への可能性を感じました」とコメント。
続けて、「マウスを使ったMITの研究によると、40ヘルツの音を聞くことで脳内にガンマ波が発生し、脳の神経細胞を活性化してアミロイドβを減らすため、認知機能が改善する可能性があるとのこと。健脳カフェでは、ガンマ波サウンドが聴けるお部屋を用意しております」と話した。
健脳カフェではガンマ波サウンドのほか、卓球や健康麻雀、カラオケといったアクティビティを利用者が思い思いに楽しむなど、日常生活のさまざまな刺激で認知症を未然に防ぐ取り組みを行っている。認知症の予防や先制的な治療の意義については、どのように考えているのだろうか。
「健常者と認知症の間には、生活は普通にできるものの物忘れを自分だけが感じている『主観的認知機能低下』や、周囲にも気付かれ始める『軽度認知障害』といった段階があります。これらの症状は、適切な対応を行うことで認知機能を回復させることができます。さらに認知症予防の中にも、発症させない一次予防、発症を遅らせる二次予防、進行を遅らせる三次予防の3つの考え方があります。今は認知症になる前に見つけられる手段が増え、認知症の前段階で早期の予見・早期予防に繋がるようになってきました」
健脳カフェが提供するさまざまなアクティビティを体験すれば、予防や改善ができるだけでなく、認知症への理解も深まるだろう。今後の展開にも注目したい。
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