若手の「びっくり退職」を防ぐ鍵は“AIとの対話”?気持ちを整理する新アプリ「Stockr」とは
東京ウォーカー(全国版)
新卒で入社したばかりの社員が、突然退職してしまう──。今、そんな“びっくり退職”が企業の悩みのタネになっている。「思っていた仕事と違った」「人間関係がうまくいかない」など理由はさまざまだが、背景には“自己理解の不足”が潜んでいるのだとか。
そんななか、「退職代行の前に、まず“自分の気持ち”を整理してみませんか?」という新しいアプローチが注目を集めている。それが、AIを活用して日々の振り返りをサポートするアプリ「Stockr(ストッカー)」だ。「辞めたい」と思う前に、“なぜそう感じるのか”を見つめ直すきっかけをくれるツールだというが、具体的にどのような仕組みになっているのか。
今回は「Stockr」を提供する株式会社ビルディットの代表取締役・富田陽介さんに、「びっくり退職」の実態や「Stockr」の特徴などについて話を聞いた。
「びっくり退職」とは?若手社員が突然辞める理由
「“びっくり退職”の主な原因は、人間関係と“期待とのギャップ”です」と富田さんは語る。
「例えば、上司とのコミュニケーションがうまくいかない、想像していた仕事内容と違う、給与や待遇にズレを感じる。こうした不一致が積み重なって離職につながります。特に入社前のすり合わせ不足が大きいですね」
昨今、企業は早期内定を出す傾向が強まり、入社まで1年以上空くケースも珍しくない。その間に社会情勢や企業の状況が変わることもある。「内定時にはリモート勤務だったのに、入社後に出社が増えた」「職場の雰囲気が想像と違った」。そんな“ズレ”がストレスになるのだ。
「リモートワークは便利な一方で、若手社員が自分のストレスに気づきにくくなっている側面もあります。『誰にも相談できないまま限界を迎えてしまう』というケースが増えました」
さらに、20代の若手は「相談する」という行動自体を取らずに退職してしまう傾向があるという。「上司や人事に話す前に、もう辞めようと決めてしまうんです。結果として、企業も本人ももったいない別れ方をしてしまうんですよね」と話す富田さん。
「辞める前に、自分を知る」AIが支える振り返りの力
では、どうすれば“びっくり退職”を防げるのか。富田さんが着目したのは、「自己理解」と「対話」の間を埋める仕組みだ。
「Stockr」は、AIが日々の思いや行動を“フィードバック”してくれる振り返りアプリ。2021年にリリースされ、個人の成長支援ツールとして利用が広がっている。
「当初はシステム開発会社としてクライアント支援をしていましたが、コロナ禍で環境が激変しました。そこで、自分たちの力で“人の成長を支えるプロダクト”を作ろうと考えたんです」
アプリの仕組みはシンプル。ユーザーが「今日のできごと」や「感じたこと」を書き込むと、AIが内容を分析し、共感的なコメントや前向きな視点を返してくれる。「今日はミスが多かった」「上司との会話がうまくいかなかった」という小さな気づきが、次第に自分を客観的に見る“鏡”になるのだ。
「人間って、自分の感情を言語化するだけでも冷静になれます。AIはそれを支える“聞き役”として、ポジティブな気づきを促してくれるんです。実際、ユーザーさまからは『落ち込んでいたのに、AIの返答で少し元気が出た』『小さな成長を実感できた』といった声も多いです」
法人向けサービスも進化中。チームの価値観を“見える化”
2023年には法人向けサービスもスタート。個人の振り返りデータを分析し、組織の“価値観の傾向”を可視化できる機能が加わった。
「個人のプライバシーは守りながら、AIがデータを分析し、チーム全体の意識や傾向を『挑戦』『協調』などのキーワードで示します。これにより、組織の“見えない空気”をデータで把握できるようになりました」
実際に導入が進むのは、飲食業界や営業部門など。具体的には、調理系専門学校の卒業生を採用する飲食店では、早期離職が課題だったという。
「ある飲食店では、従来の“手書き振り返りノート”を『Stockr』に置き換えました。結果、日々の業務の棚卸しがラクになり、離職前に“モヤモヤ”を共有できるようになったそうです」
営業職のマネージャーが個人利用から始め、チーム全体に導入したケースも。「自分の感情を言葉にすることで、メンバー同士の理解が深まった」と好評だそう。一方で、「感情や人間関係なんて、AIにわかるの?」という疑問もあるだろう。富田さんは、こう答える。
「AIが人を“理解”するわけではありません。けれど、AIが“言語化を助ける”ことで、自分自身が気づけるようになるんです。たとえば“最近つらい”という一言から、AIが『何が一番しんどいですか?』と返すだけで、対話のきっかけが生まれます」
つまり、AIは“答えを出す相手”ではなく、“考えるきっかけをくれる相棒”と言える。続けて、富田さんは「AIとの対話を通じて、自分の気持ちを客観的に整理できる。それが退職という極端な選択を防ぐ第一歩になる」と語る。
データが描く未来。個人と組織をつなぐ“自己理解”の文化へ
現在、「Stockr」は数万人が利用しており、累計で60万件以上の振り返りデータが蓄積されている。今後は100万件を目指し、AIの解析精度をさらに高めていく予定とのこと。
「世代ごとに“何を大切にしているか”を分析すると、おもしろい傾向が見えてきます。たとえば、20代は『挑戦』や『成長』、30代は『バランス』や『信頼』といった価値観を重視しているんです」
こうしたデータをもとに、企業の組織設計や教育にも活かせる可能性があるという。実際、事業承継の場面で「Stockr」を使い、社員の意識変化を可視化する取り組みも始まっている。
「創業者のカリスマで成り立っていた企業が、次の世代にバトンを渡す際、“どんな価値観が組織に根付いているか”を見える化できれば、スムーズな継承ができるかもしれません」
最後に、富田さんに「Stockr」が目指す未来を聞いた。
「私たちは“振り返り”を、特別な人だけの習慣ではなく、誰にでも身近なものにしたいんです。一日数分でも自分を振り返ることで、人生の満足度は確実に変わります」
さらに将来的には、教育や子育ての現場への展開も視野に入れているという。「先生や親が“子どもの振り返りデータ”を参考に、より適切な声かけができるようになる。そんな社会をつくりたいと思っています」と意気込む富田さん。
AIと人との間に生まれる“内省の時間”。「Stockr」は、単なるアプリではなく、“自分と向き合う文化”を社会に広げる挑戦なのかもしれない。
日々の忙しさに流され、つい後回しにしてしまう“自分の気持ち”。もし「もう限界かも」と感じたら、一度「Stockr」を試してみては?
文・取材=西脇章太(にげば企画)
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