SNSで万バズした注目の子育て支援サービス。育児のSOSに駆けつける「育児119」が“保護者の心のケア”にこだわる理由
東京ウォーカー(全国版)
「育児って幸せだけじゃない」。子育て支援サービス「育児119」を運営する株式会社なつのそら・代表取締役で、2児の父でもある石黒和希さんはそう語る。第一子が生まれ、夜泣き対応などを経験し、「幸せなものでしかない」と思っていた育児へのイメージは、大きく変わったという。こうした石黒さんの実体験と、SNSの声をもとに誕生したのが「育児119」だ。
「育児119」は、子育て世帯の「今、助けてほしい」に応える駆けつけサービス。生後0カ月から小学6年生の子どもがいる家庭を対象に、“頼ってさん”と呼ばれるベビーシッターを24時間365日、手配している。電話またはLINEからの連絡で即日利用できる他に類を見ないサービスで、駆けつけた“頼ってさん”による現場での傾聴や電話でのアフターフォローなど、保護者の心のケアに重きを置いている点も特徴だ。
2025年1月に本格始動した「育児119」は、現在依頼が急増中。1日平均6、7件の依頼があり、合計1000件を突破した。10月17日現在、駆けつけサービスは首都圏で実施されているが、まもなく福岡が対象地域に加わり、全国展開に向けた準備も始まっている。事業にかける想いや、迅速なサポートを可能にする運営体制、“頼ってさん”として活動するための認定カリキュラムなど、石黒さんに幅広く話を聞いた。
「育児119」立ち上げのきっかけは1人のママの投稿
――まずは「育児119」の事業概要を教えてください。
「日本から孤独な子育てをなくすこと」が「育児119」のミッションであり、保護者の「今、助けてほしい」に迅速に応えるという行動指針を掲げています。メインの事業となる駆けつけサービスは、保護者の心を救うことに重きを置いていまして、当日のご依頼は電話1本で、翌日以降の場合はLINEで簡単にご予約いただけます。もうひとつ、「育児119」では電話相談も行っています。現在、駆けつけサービスは首都圏が対象ですが、サービスが始まっていない地域で話を聞いてほしいという需要がかなりありまして。1番が駆けつけサービス、2番が電話相談というふたつの軸で展開しています。
――「育児119」はどのようなきっかけで始まったのでしょうか?
私自身、2児の父親なのですが、実際に育児をする前は、子育ては幸せなものでしかないと思っていました。しかし実際はそう簡単なものではなく、泥臭く、うまくいかないことの連続で。育児って幸せだけじゃないと実感しました。そんな中、SNSを見てみると、世のお母さんの悩みやお父さんへの不満があふれていて。そこで、自分の育児経験を日記のような形で発信することで、何か役に立てるかもしれないと思ったんです。
その時はフォロワー数を増やしたいとか、何かやりたいという目的意識があったわけはないのですが、パパ目線の投稿が注目を集めて、どんどんフォロワーさんが増え、いろいろな悩みが届くようになりました。「育児がつらい」「子どもと一緒に消えてしまいたい」「自信がない」「母親として失格だ」。多い時は1日に十何件、長文で届いて。悩んでいる人がこんなに多いことを知り、大きな社会問題だと感じました。
当時、私はサラリーマンだったのですが、何かできることはないかと考えていた矢先、「『今助けて』に応えてくれるようなサービスが世の中にあったら助かるのにな」という1人のお母さんのポストを拝見し、雷に打たれたような感覚を覚えました。実際にそうしたサービスをやっている人はいるのか調べたら、今の世の中にはなさそうだと。よし、これをやろうと決意したその日から動き出し、「育児119」を立ち上げました。
――多くの親御さんが悩み、苦しんでいる原因は、どこにあるとお考えですか?
これは私の主観なのですが、共働きや核家族化で、自分1人で育児を頑張らないといけないような社会構造が背景にあるように感じます。「頼ることは悪」という固定観念も、まだまだ根強いように思いますね。「民間のベビーシッターは予約や手続きが複雑」「行政のファミリーサポートもハードルが高い、予約できるのは1カ月後」といった声も多く聞こえたので、即日利用できる育児サービスはニーズがあると感じました。
ママパパの笑顔が子どもの笑顔につながる
――駆けつけサービスでは、どのようなことをお願いできるのでしょうか?
まずコンセプトとして、「家事代行ではない」ということは、公式サイトでもはっきりお伝えしています。お子様の保育に関しては、病児保育を除いて幅広く対応しています。例えばお母さんが美容院に行きたいときは母子分離もできますし、同じ部屋で一緒に子どもを見てほしい、別の部屋で仮眠をとりたい、といったことも可能です。
また、一般的なベビーシッター会社との違いとして、“頼ってさん”は保育や見守りに加え、保護者の不安を和らげたり自己肯定感を上げたり、保護者の心とも向き合う点がメインで挙げられます。自分の育児に自信を持てないお母さんも多いと思うのですが、“頼ってさん”が駆けつけ、「これまでやってきたことは何も間違っていない」と肯定することで、お母さんに自己肯定感を高めてもらうなど、保護者の心のケアを大切にしています。これは「育児119」の強みでもあります。
――仕事の内容は結果的にベビーシッターであっても、目的はそこではないということでしょうか?
そうですね。保護者の心に余裕がない、自信がないという状態になってしまうと、その矛先は子どもに向かうと思っていまして。心に余裕や自信が生まれたら、子どもにもっと優しくなれたり、明日からまた頑張ろうと思えたり。最終的に子どもの利益になるものってなんだろうと考えたとき、それはお母さんやお父さんの笑顔だと思うんです。お母さんお父さんが笑っていたら、子どももうれしいですよね。
――“頼ってさん”が置き手紙をしてくださるそうですね。
はい。希望される親御さんにはもちろんアドバイスを伝えますが、基本的には「あなたの育児は間違っていないよ」という自信を言葉で届けたい思いで、置き手紙をしています。また、ご利用後1週間ぐらいを目処にお電話をして「その後どうですか?」とお尋ねするアフターフォローも行っています。利用した直後は一時的に心に余裕ができても、また3日後ぐらいに元通りになってしまうこともあると思うんです。今AI時代なんて言われていますけど、最終的に人の心と心が大事なんじゃないかと思っていて。人の温度感を感じてほしいなと思って、電話させていただいています。
緊急のSOSからリフレッシュ目的まで幅広く対応
――自宅だけではなく、外出先からのSOSにも駆けつけていただけるのでしょうか?
例えば、ショッピングモールで子どもが言うことを聞かなくなってしまい、床で寝そべって泣いている。周りからは白い目で見られて、一番泣きたいのはお母さん。もう家に帰れませんというSOSも実際にあり、30分ぐらいで駆けつけました。そういった外での対応も最近は増えています。
――そのような場合、“頼ってさん”はどのようにサポートしてくださるのですか?
泣いている状態で初対面の“頼ってさん”が来て、お子様も最初は「誰だこの人?」となると思うのですが、“頼ってさん”は子どもとの距離の詰め方もプロなので、安心してお任せください。「お母さん1人じゃないから一緒にここ乗り越えて行こうね」というスタンスで、臨機応変にご希望に合わせて対応しています。
――「育児119」という名前から、緊急性のある依頼をイメージしがちですが、そうではない場合も、利用できるのでしょうか?
「育児119」と名前がつくぐらいですから、涙ながらに勇気を振り絞って頼ってくれたというケースも多く、「育児119」が行かなかったら、お母さんの命が危なかったかもしれないという案件も過去にありました。一方で「美容院に行きたい」「ちょっとカフェに行きたい」という目的で利用される方もいらっしゃいます。あと、最近すてきだなと思ったのが、“頼ってさん”に子どもを預けて、夫婦の記念日に2人でランチに行ったり、サッカー観戦して久々に手をつないで歩いたり。子どもが生まれると、夫婦の時間を作るのも大変ですよね。病児保育は対応していませんが、どんな理由であれ、親御さんに心の余裕ができるのであれば、我々は大歓迎です。また、緊急ではなくても、自分がちょっと子どもから離れたいなと思ったらSOSのサインだと思うので、近所の知り合いやママ友に頼るぐらいの感覚で頼ってほしいなと思います。
――次に、もうひとつの事業である電話相談について教えてください。
電話相談の受付はLINEで行っています。LINEには、相談内容をざっと箇条書きに、ご希望の日時も第3希望まで書いていただきます。LINEが運営に届いたら、すぐに“頼ってさん”に連絡し対応可能な方にお願いしています。相談の内容によっては、専門的な資格を持つ“頼ってさん”にお願いすることもあります。使用するのはビデオ通話アプリの「Google Meet」です。利用者様は顔出しなしでもOK、“頼ってさん”は原則顔出しで、オンライン通話で対応しています。電話相談も迅速に対応していまして、依頼が来て3分後に相談スタートという場合がほとんどです。
相談内容はさまざまですが、「とにかく話を聞いてほしい」「育児がつらい」といったものから、「生まれたばかりの赤ちゃんがなかなかミルクを飲んでくれない」など専門的な内容もあります。夫婦関係の相談もたまにありまして、「ママの気持ちがわからない。頼ってさんに聞いて勉強したい」というお父さんからの相談も、最近は増えています。
SNSを活用し広告費ゼロ!260人以上の“頼ってさん”が活躍中
――駆けつけサービス、電話相談ともに、そこまで迅速に対応できるのはなぜなのでしょうか?運営体制や“頼ってさん”の人数も教えてください。
運営体制としては、関東圏は私を含め7人で運営しています。“頼ってさん”の手配担当、面接と研修の担当など分担していまして、私は外回りをすることが多いですが、深夜に電話を受けることもあります。いつでも対応できるような運営体制と“頼ってさん”のご協力で、迅速な対応を実現しています。“頼ってさん”の人数は、一昨日の時点(2025年10月6日)で265名。毎月50〜100名ぐらいずつ増えていて、今月中に300名になると思います。
――“頼ってさん”は、何をきっかけに応募してくるのでしょうか?
“頼ってさん”の皆さんは、基本的にSNSを見て「育児119」の理念やミッションに共感し、集まってくださった方々です。世の中のお母さんを助けたいという強い想いを持っている方は、全国にたくさんいらっしゃいます。
――石黒さんご自身、SNSの総フォロワー数は14万人超えで、2025年6月に開始された「育児119」の公式X(旧Twitter)も、10月時点で1万人超えとフォロワー数が急増している印象です。SNSの影響力をどう感じていらっしゃいますか。
今の子育て世代の方々はXやInstagramをすごく見ているな、というのは感じていますね。また、お母さんたちの口コミが持つ影響力も実感しています。資金的に大きな額を広告費にかけることはできなかったので、無料で利用できるSNSを使い、どう広げていけるかというのを徹底的に分析しました。
専門家監修のカリキュラムに充実した研修も
――“頼ってさん”に話を戻しますが、どのような方が活躍されているのでしょうか?資格など応募条件や、採用で重視しているポイントも教えてください。
今年6月までは、保育士さん、幼稚園の先生、助産師さん、看護師さん、東京都の認定ベビーシッターさんなど、有資格者に限定していたのですが、これから「育児119」を全国に広げていくとなると、人手不足な世の中で難しいだろうという現実がありまして。そんな中、資格を持たない子育て経験のある方から「今度は助ける側にまわりたい」という声が後を絶たなかったんです。そこで専門家監修のもと「育児119」認定カリキュラムを作成し、そのテストに合格した方は“頼ってさん”になれる仕組みを作りました。
採用で重視しているポイントは、一番は保護者の心に寄り添える人材かどうかということ。あとは、例えば保育園の先生ならば、どんな保育を重視しているのかといった細かい部分も見させていただいています。また、ご利用者様には、お伺いする前に“頼ってさん”のプロフィールを顔写真付きでお送りしています。
――独自の認定カリキュラムは、具体的にどのような内容なのでしょうか?
1回2時間半弱、全5回のビデオ研修で、カリキュラムがひとつ終わるたびに都度テストがあって、合格したら次に進める仕組みです。オンラインで受講可能ですので、それぞれのペースで進めていただけます。また、独自の研修とは別に、東京都の居宅訪問型ベビーシッター研修というものがありまして、それを随時案内し、受講をお願いしています。最初の研修で終わらせず、しっかり情報や知識をアップデートしていくことも大切にしています。
――国家資格などを持つ方とそうでない方で、お願いするお仕事の内容に差はあるのでしょうか?
資格の有無で仕事の内容が大きく変わることはありません。資格も大切ではありますが、私たちは、実際の子育て経験や相手の気持ちに寄り添える温かい心を何よりも大切にしています。例えば、話を聞いてほしいという依頼であれば、なによりも「共感して受け止められるか」が大切になります。もちろん、お子さまの発達などに関するサポートが必要な場合は、経験や知識を持つ、より適した“頼ってさん”を手配するようにしております。「育児119」の認定カリキュラムで子どもの発達理解や緊急時対応などを基礎から学んでいただいていますので、どの“頼ってさん”であっても、利用者の皆さまには安心して活用いただける体制を整えています。
――“頼ってさん”の年齢層を教えてください。
30〜40代の方が1番多いです。お子さんの育児が落ち着いた50〜60代の方も2〜3割いらっしゃいますね。
全国展開、行政との連携…「育児119」が目指す未来
――利用者からの感想で、印象に残っているものはありますか?
最近は「このサービスを全国で使えるようにしてほしい」「これは本来国がやるべきことだと思う」「なんとか継続してほしい」といった声がとても多いです。ご利用いただくには、料金面のハードルもあると思います。「お金をかけてまで自分の時間を作るなんて」という考えもまだまだ根強いので。このようなお声をいただくと、今以上に運営体制を整え、行政を巻き込み、継続していかなければいけないという使命感に駆られます。
――課題をどう解決していくのかという点を含め、今後の展開や目指す未来を教えてください。
関東圏で実施してきた駆けつけサービスをまずは福岡で開始して、その後全国で展開することを目指しているのですが、大阪、名古屋、さらにほかの地域へ…と考えていくと、時間が足りません。ですが、これだけ求められている声があり、私たちの熱量に共感してくれる“頼ってさん”も全国にいる。
そこで、21都道府県で支部を立ち上げました。これらの地域でも駆けつけサービスを始め、実績を作り、行政を巻き込んでいくという流れです。いま審査を受けている東京都ベビーシッター認定事業者の認可が下りれば、東京都が認めた事業者として東京都のベビーシッター補助の対象になるので、ご利用者様の金額的な負担も軽減できる予定です。
私の出身地である八王子市との連携に向けても動いています。現場の“頼ってさん”を連れて市長さんと面会して、「育児119」のようなサービスを行政で進めていく必要性をお伝えしました。全国への展開とあわせて各自治体との連携も進め、私たちがハブとなって、民間と行政のすき間を埋める仕組みも作っていきたいと考えております。
また、母子手帳に載ることも目標です。「育児119」には、お守り的なコンセプトがあって、何かあったときに頼れる先があると思うだけで、心に余裕ができると思うんです。そんな存在になりたいですね。
――子育て中のお母さんお父さんに、周りの人ができることはあるのでしょうか?どうしたらもっと子育てしやすい世の中になると思われますか。
友達だからこそ言えることと、言えないことってあると思うんですよね。距離が近いからこそ気軽に頼める方もいれば、距離が近いからこそ申し訳ないなと思ってしまう方もいるかなと。例えば私の周りで、こんなエピソードがありました。とある子育て経験のない女性が「子どもがいる友人に何かしてあげたいけれど、彼女のほうから頼ってもらうのはハードルが高いのではないか」と考え、友人のために自分でチャイルドシートを買って車につけて、頼ってもらいやすい状況を作ったそうなんです。なかなかできることではないと思いますが、こういうことが当たり前になったらいいですよね。
あと、スーパーでてんやわんやしているお母さん、いらっしゃるじゃないですか。声をかけたら迷惑かなって思いがちですけど、ちょっと勇気を出して「大変ですね。何か持ちましょうか?」とか。「大丈夫です」って言われる可能性も高いですが、ひと言かけてもらえるだけでもうれしいんじゃないかと。そんなささいなところから子育てしやすい社会、空気感は作れるんじゃないかなと思います。
――ここまで熱い想いをたくさんお聞かせいただき、ありがとうございます。石黒さんを突き動かす原動力は、何なのでしょうか?
Instagramに「育児119を世の中に出したい」という投稿をしたとき、「いいね」が7万ついて、コメントが1500件、DMが2000件届いたんですよ。それを見たとき、今絶対に必要なサービスだと確信に変わったんです。育児に家事に忙しく、共働き家族であれば仕事もあって。お母さんたちの心の余裕を生んであげるためにも、「育児119」をとにかく全国に広げて、誰もが利用できる選択肢にすることが、生きていくうえでのミッションだと思っています。
――最後に、毎日育児に奮闘しているパパママに、メッセージをお願いします。
「育児119」は、あなたの育児を正そうとか、こうしたほうがよいと諭そうとか、そういうつもりは全くありません。毎日頑張っていらっしゃると思います。でも、何かあったときは「育児119」を思い出してみてください。連絡には勇気が必要かもしれませんが、勇気を出した先に自分の時間や余裕が生まれる。「育児119」は、いつでもそばにある“心のお守り”でありたいと考えております。そしてあらためて、毎日頑張っていて本当にすばらしいと称賛を贈りたいです。
取材=澤田麻依
取材・文・撮影=水野梨香
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