【第46回】名鉄堀田駅から少し歩けばたどり着く、長屋の居酒屋「どての品川」
東海ウォーカー

名古屋市瑞穂区下坂町は、かつて路面電車が走っていた時代には終点駅があり、にぎわいを見せていた地域だ。今ではすっかり住宅地になっているが、往時と変わらぬたたずまいで営業を続け、多くの常連客に愛されている居酒屋がある。どて煮込みを看板メニューとする「どての品川」だ。
伊勢湾台風の年に創業、先代も現役で働く

「どての品川」が創業したのは1959(昭和34)年のこと。創業者である大田熊吉さんはかつて、馬が履く蹄鉄の職人だったのだが、馬車が減りトラックが増えた社会的変化に応じて商売を変えることにした。当時、親戚が広島県の宮島で居酒屋を営んでおり、それにならった形だったそうだ。品川という店名は“飲食店だから口を多く、そして口へ流れるように”との願いを込めて、熊吉さんが付けたという。

創業から時が過ぎ、創業者の息子である裕美さんが店の2代目を継いだ。裕美さんは25歳から某百貨店にあったバーでバーテンダーとして8年間勤め、それから家業に入ったという経歴を持つ。居酒屋とバーでは雰囲気がずいぶん違うものの、飲食や接客という意味では同じ。創業時のレシピをもとに、今も愛されている味に整えたのは、2代目である裕美さんだ。

そして現在、3代目として店の主人を務めるのは、裕美さんの息子、修二さんである。とはいえ85歳を数える先代の裕美さんは、耳こそ遠くなったものの元気そのもの。今でも仕込みから営業まで、修二さんと一緒に店を支えている。「父はうちで働く誰よりも元気なぐらいで、すごく助かっています」と修二さんは笑顔を見せる。6年ほど前から修二さんの甥、森綾斗さんも店で働くようになり、この3人とアルバイトのスタッフで店を切り盛りしている。
毎日仕入れる新鮮なホルモンは、クセがないと好評

「どての品川」の仕事は、朝挽きされたばかりの新鮮なホルモンが店に届いてから始まる。昼頃に到着した肉を切り分けて、必要に応じて加熱し、串に刺す仕込みの作業を、1メニューあたり多いもので400本から500本単位で行わなければならない。3人で仕込み作業を分担して行っているが時間はギリギリ。しかし、そうして新鮮なホルモンを使うからこそ、特有の臭みがなく、客からおいしいと喜ばれる。「“よそでは食べられないけど、品川のホルモンなら食べられる”と言ってくださるお客さんもいますよ」と修二さんは話す。

どて煮は真っ黒な見た目にも関わらず、味噌の味は抑えられている。ザラメも入っているそうだが、それほど甘くは感じない。だから、看板メニューである「どてやき」(1本90円)は、新鮮なホルモンを主役として、味噌が引き立て役に回っている印象だ。片や、もう一方の鍋で煮込まれている醤油ダレはずいぶん甘い。片栗粉でとろみをつけたタレは肉によく絡み、その鍋で味付けされる「とんやき」(1本90円)を口にすれば、最初はタレの甘味を感じ、噛んでいるうちに肉の旨味が訪れる。どちらも酒の肴に丁度いい、見事なバランスだ。

揚げ物を担当する裕美さんが、ラードで揚げた「串カツ」(1本90円)をバットに置く。カウンターの客はわざわざ注文しなくても、これを勝手に取っていい。味付けには、備え付けのウスターソースをつけるか、目の前にある2種類の鍋のどちらかにドボンと漬ける。つまり、味噌味、醤油ダレ味を合わせて3種類の味が選べる。修二さんは「どちらの鍋も、創業時からの継ぎ足しで、肉の旨味がたっぷり出ていますよ」と、鍋を見守りながら笑顔で勧めてくれる。
昔ながらのスタイルを変えず、愛され続ける店

「どての品川」の店内は、古い家屋の居間をそのまま使ったような空間だ。テーブル席と座敷席が設えてあり、奥には創業者の遺影が飾られている。そして店前にはカウンター。常連客は店内の着座席が空いていても、カウンターでの立ち飲みを好むそう。理由は鍋に近く、できたての料理が食べられるから。名古屋市では珍しい、立ち飲みの雰囲気もまた心地よいのだろう。この店構えは創業当時から変わらず、仕事が終わってから飲みに立ち寄る利用客を中心に、この店で見られる変わらぬ光景だ。

店での飲食だけではなく、串メニューのテイクアウトにも応じている。特に土曜は持ち帰りだけの利用客が多いそうで、それを考慮して仕込みの本数がとりわけ多くなる。また、店で飲食する場合でも、慣れた客は多めに注文し、食べ切れなければ包んでテイクアウトにする。なお、価格は消費税に連動してやむなく値上げをしているが、ほとんどの串が1本90円というリーズナブルさで、利用客のほとんどは2000円程度の会計で終わるという。

客層について聞くと「地元の人や付近で働く人が半分、遠くからわざわざ足を運ぶ人が半分ぐらいですね」と修二さん。店は多くのメディアで紹介される機会があり、出張で名古屋を訪れた人が電車を乗り継いだり、タクシーを利用したりして足を運ぶ。なかには店を目当てにわざわざ北海道から来た客、台湾から来た客までいるという。「どての品川」は、時代、場所、国を超越して愛され続ける存在なのだ。【東海ウォーカー】
加藤山往
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