第52回 おいしいものを追求する名古屋市東区の老舗「森田屋」

2018年1月26日 12:00更新

東海ウォーカー 加藤山往

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国道19号線から西へ1本入った通りに位置する「森田屋」
photo by 加藤山往/(C)KADOKAWA

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国道19号線、赤塚の交差点から少し南西に行くと見つかる「森田屋」は、1888(明治21)年に創業したそば・うどん店だ。道路が整備された現在では、大通りから1本入った場所にあたるが、国道が開通するより以前はメインストリート沿いの好立地だったという。

協力して店を営む3代目と4代目

「森田屋」の4代目主人、玉津 亮さんphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA

店の主人は4代目にあたる玉津 亮さんだが「今でも父と一緒にやっているので、継いだつもりはあんまりないです」と話す。亮さんは3代目の嘉人さん、母の美緒子さん、弟やパートの人らと店を切り盛りしている。

先代の嘉人さんは今も現役で、息子の亮さんと一緒に調理を担当しているphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA

2018年で創業130周年を迎えた「森田屋」だが、創業当時のことはほとんど分からないそうだ。「創業当時は山口町(国道19号線の東側)にあったそうです。90歳の祖母が生まれた時には今の場所にあったと言っていますから、おそらく90数年前にここへ移転してきたのでしょう」。

座敷とテーブル席がある店内はゆったりとしている。建物は40年ほど経過しているらしいphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA

「森田屋」を創業したのは亮さんの高祖父。それを曽祖父が継ぎ、祖父は継がなかったが、父が継いだ。亮さん自身は学生時代から継ぐつもりだったそうで、その前に世の中を見てこようと、一旦はサラリーマンとして就職した。そして店に入ったのは8年前のことだという。また今は全国麺業青年連合会および愛知県麺業青年会の副会長職も担っている。そうして情報収集に努めているそうだ。

変えるべきところは変える。しかし「おいしい」を追求する

うっすら黄色のツユが特徴の「白つゆ肉うどん」(880円)。信州産SPF豚肉を使用しているphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA

130年もの歴史を持つ「森田屋」だが「昔のものを守っていこうというつもりは特にないですね」と亮さんは話す。「使っている醤油など昔から変わっていないものもありますが、お客さんの好みは変化があります。おいしいと思ってもらえるものを出しているだけです。結局は、来てくれるお客さんが一番ですから」と。例えば「白つゆ肉うどん」(880円)は、小麦粉由来のさっぱりとしたツユに、ムロアジ、利尻昆布など折り重なったダシが香る。これに入る豚肉は、数年前から信州産SPF豚肉に統一している。

店舗の隣にある製麺室。他店ではあまり使われない特殊な機械を使用して麺を打っているphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA

また「森田屋」で出している麺は、3代目のころに手打ちから機械打ちの自家製麺に変更している。「手打ちではできないことが、機械を使えばできるという考え方です」と亮さんは説明する。「例えば麺を寝かすという工程が必要なのは、暴れるグルテンをおとなしくさせないと、手では伸ばせないからです。しかし、機械を使えば素早く作業ができ、グルテンが暴れる前に完了できる。同業者からは『そんなことできるはずない』『そんなやり方見たことない』と言われますが、うちはよそと違う機械を使っています。おいしい麺を作って、それでいて分量も多くというのを目指した結果です」。

【写真を見る】4種類の味噌をブレンドした「味噌煮込みうどん」(980円)のほか、「もち入り」(1080円)、「牡蠣入り」(1330円)などバリエーションもあるphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA

うどんも、そばも、きしめん(夏のみ)も、麺はすべて店の隣にある製麺室で作り、調理している。寒い季節にうれしい「味噌煮込みうどん」(980円)を例に挙げれば、麺にはまろやかな味噌が絡みつき、もちもちとした食感と合わせて堪能でき、なるほど専用に打たれた麺であることを実感できる。自家製麺を技術的に昇華した「森田屋」は、言わば融通のきく製麺所が店の中にあるようなものだ。

どれもが逸品と評される幅広いメニュー

信州産SPF豚をラードで揚げて、ダシをたっぷり染み込ませた「かつ丼」(880円)。photo by 加藤山往/(C)KADOKAWA

「森田屋」は、看板としてはそば・うどんの店だが、昔ながらの大衆食堂らしく丼メニューも豊富にそろっている。夏はそば、冬は味噌煮込みうどんという具合に、季節ごとの偏りはあるものの、丼ものも含めてまんべんなく注文されると亮さんは話す。一例として出してくれた「かつ丼」(880円)は、ラードでカラリと揚げたトンカツに、ダシをたっぷり効かせた卵がのる。豚肉は信州産SPF豚肉で、豚肉としてはやわらかく、きめ細やかな肉質が特徴。そこに麺の店らしい芳醇なダシが組み合わさる。家庭料理では再現の難しい「店屋物の味」そのもののおいしさだ。

店外に置かれた「通(とおり)蕎麦」の看板は、かつて商標登録したメニューの1つ。そばを釜揚したものでメニュー名としては「通そば」(850円)photo by 加藤山往/(C)KADOKAWA

ところで4代目の亮さんと話していると、店の歴史をほとんど意に介さず、今と未来を見据えているような印象を受ける。客が求めているのはなにか、そのためにできることはなにか。理路整然と本質だけを追求するような、求道者然とした人柄だ。そう本人にぶつけてみると「私はただのオタクですよ」と笑う。それが事実だとして、しかし他店と違う新しい力になることは間違いない。

店内で使われている木材は、旧店舗の廃材を再利用しており、ところどころにその面影が残っているphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA

創業130年の老舗「森田屋」は、老舗であることにあぐらをかかず、新しい技術やメニュー開発・改良にも積極的に取り組み、これからも「おいしいもの」だけを追求し続けていく。

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