震える文字で「ありがとう」突然倒れた父が見せた涙に衝撃!「ありがとう」があったから親子支え合うことができた【作者に聞く】
東京ウォーカー(全国版)
自身の体験をもとにしたコミックエッセイで共感を集めてきたキクチ(
kkc_ayn
)さん。「父が全裸で倒れてた。」は、母を看取ってから約2年後、今度は父の介護に向き合うことになった日々を描いた作品だ。頼れる家族がいないなかでの決断、そして“親の老いと向き合う現実”が、静かに胸に迫ってくる。
言葉を交わせなくても伝わるものがある
面会の場で、父は力強く手を握り返してきた。「病には負けない」と言わんばかりのその力に、言葉以上の意思が宿る。会話はできない。それでも父は、震える手でホワイトボードに言葉を刻もうとする。
そこに書かれたのは「ありがとう」。意識がはっきりしない中で、指先も思うように動かない状態で、それでも“伝えようとする”その姿に、キクチさんは強い衝撃を受けたという。「こんな状況で『ありがとう』が最初に出てくるのはすごいこと。自分なら目を合わせて手を握るので精一杯かもしれない」と振り返る。
涙をこらえる父が、初めて見せた“弱さ”
これまで父は、涙を見せるときも上を向きながらこらえるような人だった。「こんちくしょー!泣かされちゃったぜ!」と強がるように泣く姿が印象に残っている。しかしこのときは違った。ぽろぽろと涙を流す父の姿を見て、「さすがの父でも不安でいっぱいなんだ」と初めて実感したという。
その弱さに触れたとき、キクチさんは寄り添うのではなく、あえて鼓舞する言葉を選んだ。「やってやろうぜ!」「ファイト!」「100歳まで生きたおばあちゃんの息子なんだから遺伝子最強だろ!」その声かけに、父は少しずつ気持ちを立て直していった。
“良かれと思って”が通じない、それでも続ける理由
介護の現場では、善意がそのまま届くとは限らない。キクチさんは、母の介護時にレトルトの介護食を用意したものの、求められたのは「アイス」「フルーツ」「飲み物」ばかりだったという。結局、用意した食事はほとんど口にされず、自分が食べることになった。大きなテレビを用意しても、薬の影響で眠る時間が増え、ほとんど見られることはなかった。
今回も指差しボードを作ったものの、父にはあまり受け入れられなかった。それでも「やりたくてやっているだけ。見返りを求めているわけではない」と語るその姿勢に、介護という行為の本質がにじむ。
“無駄骨”でもいい、その積み重ねが支えになる
一見無駄に思えることも、積み重なれば確かな意味を持つ。うまくいかないことのほうが多くても、「あらら、仕方ないか〜」と受け止める。その軽やかさが、重くなりがちな日々を支えている。父の病状が劇的に良くなったわけではない。それでも、あの「ありがとう」と涙があったからこそ、前を向ける。親子が支え合うということの重みと温かさが、静かに伝わってくるエピソードだ。
日常のなかにある小さなやり取りの積み重ねが、かけがえのない時間になっていく。その一瞬一瞬を、ぜひ見届けてほしい。
取材協力:キクチ(kkc_ayn)
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