「幻の橋」タウシュベツは今、震えている~写真が伝える冬の北海道の魅力~
北海道ウォーカー
北海道・十勝地方の北部、大雪山国立公園内にある糠平湖(ぬかびらこ)。そこに、限られた時期にだけ姿を現す「幻の橋」があるのを知っていますか? 「タウシュベツ川橋梁」は、北海道遺産にも認定されている旧国鉄廃線跡のコンクリートアーチ橋の一つで、湖の季節による水位変動により見え隠れするのが、幻と呼ばれるゆえんです。完成から80年以上がたっていることもあり近年では劣化が進み、いつ崩落してもおかしくないと言われています。
大自然の中にポツンとたたずむ、いつなくなるかわからない橋。そんな構図に惹かれて全国各地から多くの方が訪れる人気スポットですが、寒さの厳しい冬にはその魅力がより伝わってきます。

そんな光景を記録し続けているのが、写真家・岩崎量示(いわさき りょうじ)さん。地元で10年以上もタウシュベツ川橋梁を撮り続けています。この写真の、一面に広がる雪という大自然の中にうっすら見える橋という構図が、その現実をよりリアルに伝えています。
「大自然の中にある人工物が、不思議と周囲に違和感なく溶け込んでいる様を残したいと考えて撮り続けていますが、景色の輪郭があいまいになる雪の日には、特にそれが表現されると思います」と語る岩崎さん。ときには寒い冬の夜など、タウシュベツ川橋梁の魅力を日夜撮り続けています。
氷点下20℃を下回ることも珍しくない冬の糠平湖で、大粒の雪の中にたたずむタウシュベツ川橋梁。この写真を見るとどこか寒さに震えているようにも見えます。岩崎さんによると、実際、冬は橋にとって厳しい季節なのだそう。というのも、水力発電用のダム湖である糠平湖では、冬の電力需要をまかなうために冬の初め頃に満水となり、橋は完全に水に沈みます。
「その後、湖が結氷し、4月頃にかけて水位が一日数十センチの速度で下がっていく過程で、重い氷が橋に乗ったり、橋の表面を削り取ることで強度が落ちていきます。またコンクリートに染み込んだ水は、寒さで内部で凍結して膨張し、コンクリート内の隙間がわずかに広がります。氷が解けるとそこが空間となるので、コンクリートがいわばスポンジ状となって強度が落ちてしまうんです。」
水の凍結と融解によるコンクリートの劣化は珍しくないそうですが、厳寒地であることと水に沈んだ状態で冬を迎えるという条件が、劣化を一段と早く進める理由のようです。タウシュベツ川橋梁はこれからの季節が特に闘いの日々です。

タウシュベツ川橋梁を10年以上撮り続けている岩崎さんは、実は埼玉出身。しかもカメラも未経験でした。「もともと北海道好きで、数年間キャンプをしながら国内を旅した末、2005年に自然の多い糠平に移住しました。そのときにタウシュベツ川橋梁に出合ったんです。当時から地元では“あと2、3年ももたない”と言われていて、誰かが記録しておいた方がいいという気持ちで、未経験ながらも撮影を始めました」。
そうして撮り始めたタウシュベツ川橋梁の写真は、やがて多くの人の注目を集めるようになり、よりその魅力を伝えたいという思いからクラウドファンディングによる資金調達で記録集を2冊製作。今では写真家として十勝の冬の光景などを撮るようになった岩崎さんは、2018年1月についにタウシュベツ川橋梁の写真集も出版します。
「“橋が壊れてなくなるまで”を記録するつもりで撮り始めたこともあり、12年が過ぎたとはいえ、まだそのプロローグが続いている印象ですね。ですので、橋が壊れて土地に還っていく過程をこれからも撮り続けていければと考えています。」

他にも冬の糠平湖では貴重な「キノコ氷」も見られると岩崎さんは言います。「水位変動が大きく、冬に厚く氷が張り、湖底に切り株があるという条件が整うことでできる、全国的にも珍しい自然現象なんです。これも厳寒と水位変動という条件がそろう、冬の糠平湖ならではの光景ですよ」。
冬ではスノーシューを用い氷結の糠平湖を横断するツアーなどで、タウシュベツ川橋梁を間近で見ることもできます。気温が氷点下20℃を下回る日も珍しくない十勝地方ならではの自然が生み出す光景の数々を、糠平湖で一度見てみませんか?
浅野陽子
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