第60回 多くの有名人が舌鼓を打った伊勢うどんの老舗「ちとせ」

東海ウォーカー

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伊勢豊受稲荷神社の南側すぐにある「ちとせ」photo by 加藤山往/(C)KADOKAWA


三重県伊勢市、宇治山田駅の近くにある「ちとせ」は、伊勢うどんの店が多いこの地域で、とりわけ長い歴史と老舗らしい佇まいを残している店だ。

有名人に愛された「ちとせ」の味


店の奥で大切に保管されていた古い写真には、創業当時の店が写っているphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA


「ちとせ」の創業は1917(大正6)年だと伝わっている。5代目主人は岡部好男さん。2017年の3月に母を亡くし5代目を継いだばかりだが、岡部さん自身は22歳から店で働いており、現在は51歳を数えた。「当初は『地登勢』という店名だったそうです」と岡部さんは古い写真を見せてくれた。この当時の店構えに「伊勢うどん」という料理名は見当たらない。店内に貼られた古い新聞記事によれば、「伊勢うどん」と呼ばれるようになったのは1965(昭和40)年ごろからだそう。

来店した有名人との記念写真が多数店内に飾られているphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA


そして、火災によって現在の場所に移転したのが1930(昭和5)年のこと。それからずっとこの場所で営業を続けてきた「ちとせ」は、地域にある観光文化会館が近いということもあって、催しなどで伊勢を訪れた有名人に出前を持っていくことが多かったという。「ほとんど専属みたいな形で注文をいただいていました」と岡部さんは話す。それを機会に惚れ込んだ有名人が、店へ足を運んでくれるようになったというわけだ。

母と一緒に店で働いたが、直接教えてはもらえず見て学んだという岡部さんphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA


「ちとせ」の人気メニューは「伊勢うどん」(500円)だが、その大きな特徴はタレにある。同店ではタレを3日かけて仕込んでおり、そうして完成した奥深い味わいが、多くの客を夢中にさせる。カツオ節、サバ節、昆布、煮干しを使用し、どれが強いということもなくバランスよく仕上げている。「特別なことをしているつもりはなくて、当たり前のことを当たり前にしているだけです」と岡部さんは照れながら謙遜する。

時代を先取りした伊勢うどん


【写真を見る】名物の伊勢うどんに、日替りでおかずが付く「伊勢うどん定食」(750円)photo by 加藤山往/(C)KADOKAWA


「ちとせ」の伊勢うどんは選択肢が多い。「伊勢うどん定食」(750円)は、自慢の伊勢うどんにおかずが付いてくるもので、取材当日は天ぷらと味付けご飯が付いた。伊勢うどん以外の付け合わせは日替りになっており、常連客でも飽きずに食べられる。うどん1杯では物足りないという人に打ってつけだろう。

「肉伊勢うどん」(750円)は40年ほど前からメニューにある。当時は物珍しさから反発もあったそうphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA


「肉伊勢うどん」(750円)は歴史も長い。「うちで伊勢うどんに肉を入れるようになったのは1975(昭和50)年ぐらいからです。その当時は『伊勢うどんに肉を入れるなんて、ありえない』とずいぶん言われたそうです」と岡部さん。最近は伊勢うどんにあれこれ具をトッピングできる店が増えてきた。「ちとせ」は時代を先取りしていたというわけだ。

上等な鶏肉を使用している「親子丼」(650円)photo by 加藤山往/(C)KADOKAWA


「ちとせ」は当初、そば・うどんの店として創業したのだが、多くのそば・うどん店がそうであるように、1955(昭和30)年ごろからメニューの幅を増やして丼料理も出すようになったという。その一例である「親子丼」(650円)は、とりわけ上等な鶏肉を使用していると岡部さんは胸を張る。「昔から鶏肉専門の業者さんから仕入れていて、そこは焼鳥店向けに卸しているところです。うどん屋さんで仕入れているのはうちだけらしいです」。新鮮で上等な鶏肉に、そば、うどんの店らしく芳醇なダシのきいた卵とじがのる。おいしいと評判だという話も頷ける。

継承した味に自分の感性をのせて


バリエーション豊かな伊勢うどんのメニューが「ちとせ」の特徴photo by 加藤山往/(C)KADOKAWA


岡部さんは、22歳から父母が営む店の手伝いを始めたのだが、料理を直接教わってはいないと打ち明ける。「父が早くに亡くなって、母が20年ほど守っていましたが、作り方を教えてくれなかったんです。『考えてやりなさい』って。だから見て学ぼうとするのですが、じっと見てると怒るんです」。しかし間近で見ていれば、何を使ってどう調理しているかはわかったと続ける。「味を比べながら作りましたから、それほど違わないはずです。お客さんの評価も参考にしながら調整して、全体的なまとまりは同じようになっていると思います」。「ちとせ」はきっと、こうして代々の味が継承されてきたのだろう。

主人の岡部好男さん(中央)、パートスタッフのリーナさん(左)とアライサさん(右)はフィリピン出身だが日本語に堪能で客と世間話もするphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA


取材中、岡部さんは少しだけ寂しげな表情を見せた。先代である母を亡くして1年足らずで、客にその案内をしている最中だという。「母は身体を悪くしても車椅子に乗って、店でお客さんの相手をしていました。お客さんも『お母さん来たよ』と声をかけてくれて。急に亡くしたものですから、まだそれを皆さんに伝えているところです」。母は先代というだけでなく、店の看板娘でもあった。それが急にいなくなったのだから客からしても聞きにくい。母を気にかけてくれた長年の客に、岡部さんも話さないわけにはいかない。

1930(昭和5)年に現在地へ移転して、それから大規模な改装は行っていないというphoto by 加藤山往/(C)KADOKAWA


「ちとせ」の舵取りは5代目に移った。しかし店の佇まいとおいしさは変わっていない。岡部さんが父母から受け継いだ味は、これからも多くの客を満足させてくれるはずだ。

加藤山往

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