第62回 “名古屋カレーうどん”の元祖、「本店 鯱乃家」。歴史を語る一杯を求めて
東海ウォーカー

味噌カツ、味噌煮込みうどん、手羽先など、名古屋の食文化を語るうえで欠かせない“なごやめし”。そのなかの1つに「カレーうどん」も挙げられるが、名古屋ならではという点で首を傾げる人も多いのではないだろうか。カレーうどん自体は明治末期の東京が発祥と言われ、名古屋独自の料理とは言い難い。ではなぜ、 “名古屋カレーうどん”と呼ばれる独自の食文化を築くことになったのか。その鍵を握る、「本店 鯱乃家」へと足を運んだ。
“名古屋カレーうどん”のルーツをたどる

「本店 鯱乃家」の創業は1976(昭和51)年。同連載で取り上げる店の中では新しい部類と言えるものの、その歴史には興味深いエピソードがある。「本店 鯱乃家」はかつて「若鯱家」の屋号を冠し、鶏ガラスープに数種類のカレースパイスをブレンドしたオリジナルのカレーうどんを名物メニューとしていた。若鯱家の名前を聞くと、関東や関西にまでチェーン展開を広げる有名店が頭に浮かぶ。つまり、名古屋カレーうどんの歴史は、この場所にルーツがあるのだ。

「創業者とはやり取りが途切れていて。なので、店の歴史ではっきりしたことは言えないんです」。そう話すのは、「本店 鯱乃家」の店主を務める種田秀光さん。「本店 鯱乃家」は創業から何度も店主が代替りしており、年数を重ねるごとに、店の歩みを正確に知る人が少なくなっていったそう。「実は、私が何代目の店主というのも正確に説明できないんですよ。それくらい複雑で…」と恐縮しながら話す種田さん。「こうだろう」と聞かされている話はいくつかあるも、きちんと説明できるほど信憑性は高くないと話す。

種田さんが知る限りの話を整理するとこうだ。現在の店は元々うどん店「若鯱家」としてスタートし、いつしか独自の製法で作り上げたカレーうどんが名物に。その後、1992(平成4)年に屋号を若鯱家より本店 鯱乃家に変更。チェーン展開という形で名古屋カレーうどんを内外に広めた「若鯱家」は残ったが、今日まで一切の関係を持っていない。
守り続ける元祖カレーうどんの味

店の経緯はもとより、大事なのは名物であるカレーうどんの味だ。「カレーうどんの味は創業時から受け継ぎ、今も守っています。カレースパイスの種類、鶏ガラと香味野菜のスープ、カツオベースの節系スープ、コシの強い麺、豚肉や油揚げなどの具材など、どれも創業者が考案したレシピ通り」と種田さん。複数のスパイスによる後引く刺激、コク深い旨味を生む2種類のスープ、食べ応えのある太麺が織りなす1杯こそ、「本店 鯱乃家」が作り上げた“名古屋カレーうどん”の完成形だ。

「お客さんのほとんどはカレーうどんを注文されますが、常連さんの中にはほかのメニューを注文する人も多いんですよ」と出してくれたのが、種田さんのイチオシだと言う「冷し肉うどん」(750円)。醤油で甘辛く味付けした牛肉と極太麺の組み合わせが何とも男らしく、大根おろしの辛味も手伝って1杯の満足感は大きい。

カレーうどん、冷し肉うどんと立て続けに味わったところで、こんなメニューも出してくれた。「意外に思われるかもしれませんが、メニューの中にはラーメンもあるんです。ぜひ、食べてみてください」と種田さん。醤油スープに縮れ麺、チャーシュー、茹でモヤシ、メンマ、ネギと、馴染み深いオーソドックスなスタイル。ひと口スープを飲むと、やさしい鶏ガラの風味が広がる。「カレーうどんに使っている鶏ガラと香味野菜のスープで割っています。どうです?おいしいでしょ?」と笑顔の種田さん。大げさではなく、素直に「おいしい」と感じるのは種田さんの真面目な仕事の賜物だろう。
“名古屋カレーうどん”の「今」を伝える

“名古屋カレーうどん”の元祖であるものの、決して目立つことなくその味を守り続ける「本店 鯱乃家」。歴史の道筋を正確に知る人は見つからなくとも、種田さんが受け継ぐカレーうどんの味は、それよりも大切なことを感じさせてくれる。「過去よりも今が大事」。明るく、前向きに語る種田さんの姿を見ていると、そんな言葉が胸に刺さった。
エディマート
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