染谷将太「お芝居というより、布教しに行く感覚」主演映画『廃用身』で挑んだ“倫理観を問う”難役への覚悟

東京ウォーカー(全国版)

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2025年はNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』での幻の天才絵師・喜多川歌麿役が大きな注目を集め、ほかにも映画『爆弾』、Netflixシリーズ『イクサガミ』など話題作の出演が続く染谷将太さん。

最新主演作となる『廃用身』では、老齢期医療の最前線で患者の幸福と医療の合理性を追い求めるあまり、危うい領域へと踏み込んでしまう医師・漆原糾を演じている。

インタビューでは、“覚悟が必要だった”という本作への出演を決めた理由や、役を演じるうえで意識したこと、さらに、衝撃を受けた作品などを語ってくれた。

映画『廃用身』で主演を務めた染谷将太さん撮影=三橋優美子


覚悟を決めて挑んだ作品「倫理観を問うこの映画がこの先ずっと残っていくことに大きな意味があると思った」

――𠮷田光希監督との出会いは10代のころだったそうですね。

【染谷将太】監督がぴあフィルムフェスティバルの一次審査をされていた2012年に初めてお会いしました。当時、監督の作品を拝見して、“冷静な切り口でありながらも、決して人を突き放したりするような描き方はしない方なんだろうな”と感じて。

ほかにも、人間の切り取り方や登場人物に対する映画の距離感が魅力的だと思いました。映画を作ることに対してすごく真っ直ぐな方なので、今回主演で声をかけていただけてすごくうれしかったです。

――念願のタッグだったのですね。

【染谷将太】はい。『廃用身』はある種の覚悟が必要な作品なので、正直、不安な気持ちもあったのですが、𠮷田監督とならチャレンジすることに意味があると思い、お引き受けしました。

【写真】危うい領域へと踏み込む医師・漆原糾を演じた染谷将太さん撮影=三橋優美子


――本作のどんなところに“覚悟が必要”だと感じましたか?

【染谷将太】漆原が考案した“画期的な療法”を含め、倫理観を問う作品なので、それを映画としてどう扱い、どう描くのか…そこが自分の中で最も気になるポイントであり“覚悟が必要”だと感じた部分でした。でも、素晴らしい原作や本作の台本と向き合っていく中で、この映画がこの先ずっと残っていくことに大きな意味があると思いましたし、20年後、30年後にも観返したい作品だと思ったので、覚悟を決めて挑みました。

――漆原を演じるうえで、軸にした部分を教えていただけますか。

【染谷将太】まず、「医療はサービス」という漆原のセリフから彼の倫理観を理解していきました。漆原は、ただただ善意をもってAケア(麻痺などで回復の見込みがない手脚を切断する療法)を社会に布教したいだけであって、ビジネス面での利益は考えていないんです。

劇中の漆原のセリフの大半がAケアの説明だったので、極端な話、現場にお芝居をしに行っているというよりは、Aケアを布教しに行っているという感覚で演じたほうがブレないだろうと、そういったことを意識していました。監督も、Aケアがいかに素晴らしいかを目の前にいる人たちに説いていくことが大事だと仰っていたので、そこを軸に演じていましたね。

撮影=三橋優美子


愛情のある夫婦が淡白に描かれた理由「漆原は成し遂げたいことに真っ直ぐなあまり、孤立していってしまう」

――漆原先生は、患者や患者の周りの人に寄り添ういい医師に見えますが、ある事件が起きてからは少しずつ変化していきます。その辺はどんなことを大事に演じられたのでしょうか。

【染谷将太】事件のあとも、とにかくAケアを布教させたいんだという漆原の思いは変わっていないと思います。ところが、彼の過去のことが報道されたあたりから、正しいと思ってやってきたことが自分の中で揺らぎ始め、やがて崩壊していく……それってよっぽどのことですよね。その複雑な変化をなるべく素直に受け止めて、表現自体はシンプルにという意識で演じていました。

映画『廃用身』の場面写真 (C)2025 N.R.E.


――染谷さんご自身は“信念が揺らぎそうな状況”に陥ったとき、どうやって気持ちを立て直していますか?

【染谷将太】そんな状況すらも楽しもうとすることですかね。ジェーン・スーさんが「美容はもはやアミューズメントパークのアトラクションである」と仰っていますが、そのマインドがすごくすてきだなと思って。その言葉を自分が直面している物事に置き換えながら楽しめたらなと思っています。つらいことをアトラクションだと思って乗り越えるって、なんかいいですよね(笑)。

撮影=三橋優美子


――漆原を支えてきたのが瀧内公美さん演じる妻の菊子ですが、漆原が菊子に「今まで酷いことしてこなかった?」と尋ねるシーンが印象的でした。漆原と菊子の夫婦をどんな風に捉えて演じられましたか。

【染谷将太】二人はお互いの性格をよくわかっていて、特に菊子は漆原のことを本質的なところで理解している人なのではないかと思いました。だからこそ愛情が成り立っているというか。ただ、漆原のほうは成し遂げたいことに真っ直ぐなあまり、孤立していってしまうので、夫婦の時間はわりと淡白に描かれているように感じましたね。

瀧内公美さん演じる漆原の妻・菊子 (C)2025 N.R.E.


――確かにお互いを信頼し合ってはいるものの、夫婦が一緒にいるシーンはどこか寂しさも感じられました。

【染谷将太】以前、別の作品で研究者の役を演じた際に、研究者の方にお話をうかがう機会があったのですが、何か革新的なものを見つけて、それと向き合っていくうちに周りが見えなくなり、どんどん孤立していくみたいなことを仰っていたんです。だからきっと漆原もそうなっていくのであろうと。

家族に対して愛情はあるものの、どうしても意識がAケアのほうに向いてしまうんですよね。監督は漆原家に生活感を出したくないと思ったそうで、リビングの装飾をすごくシンプルにしたと仰っていました。そういう部分も相まって、自宅での夫婦のシーンは、ある種の冷たさを感じるのではないかなと思います。

――本作を拝見したあと、“老後をどんな風に過ごしたいか”と考えました。染谷さんは“老後はこういう場所でこんな風に過ごしたい”といった希望はありますか。

【染谷将太】少しだけ都心を離れて、老後はのんびりと過ごすのが理想です。ただ、この仕事は続けたいので、現場に通いながら生活のベースは田舎に置けたらなと。そのためには、とにかく健康を維持していかないとと思っています。

撮影=三橋優美子


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