「描くほど恐怖が迫る…」実話怪談漫画家、呪いを描いた直後に「松葉杖3人」と遭遇
東京ウォーカー(全国版)
身近な日常に潜む不可解な恐怖を描き、ショートドラマ化されるなど多くの怪談ファンを震撼させてきた実話怪談漫画『水ムーちゃんねる 隣の晩怖談』。2026年に発売された第8巻をもって、ついに堂々の完結を迎えた。
今回は、全8巻を描き終えた著者・水村友哉さんにインタビューを実施。完結を迎えた現在の胸中や、リアルな恐怖を漫画に落とし込むための取材・作画のこだわり、さらには執筆中に起きた背筋の凍るような出来事まで、制作の裏側を聞いた。
「まだ描ききれていないエピソードもある」全8巻完結への思い
――最終巻となる第8巻が発売され、全8巻を描き終えた今、どのようなお気持ちでしょうか。
正直なところ、まだ描き終えたという実感がありません。当初は「まずは5巻まで描き続けられたら」という目標を掲げていたので、それを大きく上回る全8巻を世に送り出せたこと、そして怪談系のYouTube番組などにも出演させていただけたことは、驚きとともに感謝の気持ちでいっぱいです。実は、まだ描ききれていないエピソードもあり、「これからも描き続けたい」という強い気持ちがあります。ただ、こうした怪談作品を執筆していると、少しずつ身の回りに“恐怖”が近づいてくるような感覚もありまして……。
そのため、一度ここで少し休憩を挟みつつ、じっくりと次の取材を重ねていきたいと考えています。『隣の晩怖談』は必ずパワーアップして帰ってきますので、ぜひ楽しみにお待ちいただけるとうれしいです。
原点は『ゲゲゲの鬼太郎』。怪談ブームの中で再燃した情熱
――改めて、実話怪談を漫画として描こうと思ったきっかけを教えてください。
私の漫画家としての原点は、水木しげる先生の『ゲゲゲの鬼太郎』にあります。その影響もあって、幼少期から妖怪や幽霊、オカルト的な恐怖には人一倍興味があり、「いつか自分もこういう世界観の漫画を描いてみたい」とずっと思い続けていました。
実は、子どもの頃の私はものすごく「ビビリ」だったんです(笑)。今でも怖がりなところは変わりませんが、大人になるにつれて精神的にも少し強くなったのか、恐怖という感情や心霊現象に対して、以前よりも客観的に、そして深く向き合えるようになってきました。
そんななか、コロナ禍に入った頃から、世間でじわじわと怪談ブームが盛り上がっているのを感じていました。その空気に触れたことで、自分の中で長年眠っていた「やっぱり怪談が大好きだ!」という気持ちが一気に再燃し、実話怪談を描こうと思ったのです。
体験者の心を開く「否定しない」取材姿勢
――体験者への取材では、どのように話を聞き、当時の状況や感情を掘り下げていくのでしょうか。
体験者への取材で意識しているのは、とにかくリラックスした雰囲気づくりです。かしこまったインタビューというよりは、普段の雑談の延長のような空気感のなかで、自然にエピソードを引き出すようにしています。
というのも、不思議な体験や恐怖体験を語ってくださるのは、ほとんどがプロの話し手ではない一般の方々です。普段の生活では、そういった怪談を周囲に話す機会もあまりありません。下手をすると「嘘つきだと思われてしまうかもしれない」と、誰にも言えずに抱え込んでいるケースも多くあります。ですので、私は大前提として、体験者のお話を否定的には聞きません。むしろ一人の怪談好きとして、「それはすごいですね!」「その時、周りはどういう状況だったんですか?」と興味津々で掘り下げていきます。
そうやってこちらの熱意が伝わると、体験者の方も当時のリアルな感情や細かな状況を次々と思い出し、楽しそうに、時には怖がりながらも語ってくださります。
「怖すぎて描きたくない話」に届く担当編集からの“脅し”
――集めた体験談のなかから、漫画にする話をどのように選んでいましたか。「この話はぜひ描きたい」と感じる決め手があれば教えてください。
構成の面では、直前のエピソードや同じ単行本のなかで、怪異のジャンルやシチュエーションが重ならないよう、全体のバランスを見ながら組み立てていました。そのうえで「ぜひ描きたい」と感じる決め手は、やはり僕自身がこれまでにあまり聞いたことのない珍しい体験談だったり、恐怖に至るまでのストーリー展開が純粋に面白いと感じられるものだったりします。
……ただ、なかには「これは怖すぎるから、ちょっと描きたくないな」と尻込みしてしまう話もありました。
そんな時には決まって、「水村先生、これは描いておかないとむしろ(霊的に)危ないんじゃないですか?」という担当編集さんからの謎の脅し(笑)が入るんです。そんなやり取りもありながら、ある意味、導かれるように描くエピソードが決まっていきました。
自分自身が「ゾッとするか」を問い続けるビジュアル制作
――言葉で聞いた怪異を絵にする際、最も難しいのはどのような点でしょうか。
「怪異そのものの存在感」をどう表現するかには、いつも悩んでいました。あまりに突飛だったり、行き過ぎたデザインにしてしまうと、せっかくのリアルな実話怪談が急に嘘くさく見えてしまいます。かといって、怖さが物足りなくてもいけない。
そのバランスを見極めるために、まずは描き手である僕自身がその絵を見て、「ゾッとするか」「本当に怖いと思えるか」を大切にしています。納得がいくまで何度も描き直し、ビジュアルがピタッとハマるまで恐怖と徹底的に向き合う。その作業が一番難しいところであり、最もこだわっている点でもあります。
「現場の空気感を五感で吸収する」リアリティへのこだわり
――体験談に忠実であるために大切にしていることも伺いたいです。
実は、怪異そのものの描写と同じくらい、あるいはそれ以上にエネルギーを注いでいるのが、「怪異に遭遇する前の日常描写」や「体験者の方々の細かなリアクション」です。日常がリアルであればあるほど、その後に訪れる恐怖が引き立つと思っています。そのリアリティを突き詰めるために、できる限り実際に怪異が起きた現場へ足を運ぶようにもしています。
単に背景を正確に描くための写真撮影だけでなく、その土地ならではの雰囲気や周囲の空気感を、自分自身の五感で吸収して作品に落とし込むことが重要です。そうして、一度その場所の空気を自分の中に「取り入れる」というプロセスを、何よりも大切にしています。
ページをめくった瞬間のインパクトと、実在の背景描写
――読者に怖さを感じてもらうために、コマ割りやページをめくるタイミング、人物の表情、背景などで意識していることを教えてください。
実話怪談はエピソードごとに登場人物が異なりますし、怪異が「視(み)える人」もいれば「視えない人」もいます。だからこそ、読者がどの登場人物にも自然と感情移入できるように、表情やリアクションの描写には工夫を凝らしています。
僕自身は幽霊が視える人間ではありません。そのため、視える方の体験談については、特に細かく取材するようにしています。
ただ、体験者の方も当時はパニックになっていて、「細部までは覚えていない」ということも少なくありません。そんな時は、体験者の方の心に寄り添い、「あの状況なら、どれほど恐ろしかっただろう」と想像を巡らせながら、恐怖の形を必死に描いています。この「怪異と頭の中で向き合う作業」は精神的にもかなり大変で、僕自身にとっても本当に怖い作業なんです。
演出面では、コマ割りはなるべく大きくし、読者にとって状況がわかりやすいように意識しています。そして、ここぞという見せ場では、ページをめくった瞬間に「ドン!」と怪異が目に飛び込んでくるような大ゴマを使い、緩急をつけています。
また、背景に関しては、実際に怪異があった場所へ取材に訪れているので、作中には“実在する場所”がそのまま描かれていることもあります。
「松葉杖の呪い」を描いた直後、街ですれ違ったのは……
――取材や執筆を重ねるなかで、水村さんご自身が不思議に感じた出来事はありましたか。
本当にいろいろなことがありました。
例えばイベント会場などで、まだ『隣の晩怖談』を読んだことがない方が、本を見かけただけで「これ、ものすごく怖い本だね」とつぶやかれたり、表紙を見ただけで突然涙を流し始める方がいらっしゃったり……。「読むと(霊的な)影響が出てしまうから、どうしても読めない」と言われることもありました。
真摯に向き合って描いている自分としては、そこまで感じ取ってもらえるのはうれしい反面、「やはり作品そのものに、何らかの『念』のようなものが宿っているのかな」と思うと、少しゾッとしました。
そして何より不思議なのは、体験者の方が遭遇した怪異を描いていると、作中に登場したアイテムや出来事が、ふとした瞬間に自分の現実世界にも現れることがあるんです。……これ、本当に怖いんです。例えば、街中で「松葉杖をついている人」に出会う機会って、そう多くはないと思うんです。ところが、ある時「松葉杖」にまつわる呪いの体験談を描いた直後、自宅から近くのコンビニへ行くまでのわずか数百メートルの間に、なんと3人もの松葉杖をついた人とすれ違ったんです。
おそらく、こうした実話怪談を執筆し続けていると、ゆっくりと、でも確実に怪異のほうがこちらへ近づいてきているのだと思います。ドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェの言葉に「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」というものがありますが、まさにそのような現象を日々肌で感じています。
ショートドラマ化で実感した、映像ならではの恐怖演出
――「未明シアター」でショートドラマ化されました。ご自身の漫画が実写になった感想や、漫画と映像で怖さの伝わり方が違うと感じた点を教えてください。
以前から「自分の作品がいつかドラマ化されたらいいな」と夢見ていたので、実現した時はとにかくうれしかったです。実際の撮影現場にも見学に行かせていただきましたが、主演キャストの方の素晴らしい演技力や、数多くのスタッフの方々がひとつの作品に熱量を注ぎ込む姿を見て、胸が熱くなりました。
漫画は基本的に僕一人の机の上で完結する孤独な作業ですが、映像の現場はまさにチームワークの世界です。全員が阿吽の呼吸で、無駄なくスムーズに動いていく。その現場の空気感そのものにも感動しました。
また、漫画と実写での「恐怖の伝わり方の違い」についても、非常に興味深い発見がありました。
まず、実写映像は画面に映るものすべてに実在感があるため、視聴者に与えるインパクトがとてもダイレクトです。さらに、漫画にはない「人間の声」や、キャラクターが「話すスピード」「間(ま)」といった音の要素が、恐怖の演出において大きな効果を発揮していると感じました。
そして何より、漫画とは怪異そのものの表現方法が異なります。僕たち漫画家は「絵で見せること」が仕事なので、怪異を大きく、インパクト重視で描くことが多いのですが、映像の世界では、あえて「見せすぎないこと」がポイントになると感じました。映るか映らないか、その絶妙な演出が、かえって観客の恐怖心をじわじわと煽っていくのです。表現媒体によるアプローチの違いを肌で感じられた、とても貴重な経験でした。
「リアルな恐怖を書き残したアーカイブ」読者へのメッセージ
――今後取り組んでみたい題材や表現とあわせて、これから本作を読む方へのメッセージをお願いします。
やはりオカルトや心霊のジャンルが大好きなので、これからもこういった系統の漫画は描き続けていきたいです。そこにミステリーやサスペンス、あるいは恋愛要素を絡めてみても面白いですし、漫画家になったからには、一度は熱い「バトル漫画」にも挑戦してみたいと思っています。少し告知になってしまいますが、現在は朝日新聞出版の『HONKOWA』誌上で、編集部に寄せられた恐怖体験談をもとに、毎回読み切り形式の漫画を執筆しています。もしよろしければ、ぜひそちらもチェックしてみてください。
また『水ムーちゃんねる 隣の晩怖談』は、自分で言うのもおこがましいですが、本当に画期的な作品だと思っています。僕自身が怪異と真っ正面から向き合い、取材を重ね、「現実に起きたリアルな恐怖」を読者の皆様に伝えたいという一心で作り上げてきました。皆様が実際に体験したリアルな恐怖を、この世にしっかりと書き残した、ある種の「記録(アーカイブ)」のような作品です。
自信を持って世に送り出せる内容になっていますので、ぜひお手に取っていただき、日常では味わえないゾクゾク感を楽しんでいただけたら幸いです。これからも恐怖や不思議な体験を題材にした漫画を描き続けていきますので、ぜひ応援をよろしくお願いいたします。皆様からの恐怖体験談も常に募集しています!ありがとうございました!
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