「浦霞」の名前の由来は昭和天皇の行幸にあり。宮城県塩竃市「佐浦」

東京ウォーカー(全国版)

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「浦霞」の名前の由来は昭和天皇の行幸にあり


仙台市中心部から車で30分ほど。松島湾に面した塩竈(しおがま)市は、古くから物資の中継地点として、そして日本三景・松島観光の入り口として栄えた。街の象徴は、「奥州一之宮 鹽竈(しおがま)神社」。

東北で一番初めにできた神社として、平安時代初期の書物『弘仁式』に名を記されている。神社があれば、人が行き交う。神事で使うお神酒も必要だし、祭りや集まりでのむ酒も必要だ。江戸時代になれば、神社にお参りする観光客も訪れるようになった。

浦霞のスタンダードにしてペストセラーである『浦霞禅』。松島瑞巌寺(ずいがんじ)の住職に字を書いてもらったというラベルが印象的だ


『佐浦』が生まれたのは、江戸の文化が華々しくひらいた、八代将軍徳川吉宗の時代。1724(享保9)年のことだった。後に鹽竈神社にお供えする酒をつくる「お神酒酒屋」として酒を醸し、今でも変わらず塩竈の人々に愛され続けている。

現在の酒銘『浦霞』が誕生したのは大正末期のことだ。当時の摂政宮(せっしょうのみや)、のちの昭和天皇が陸軍演習のために宮城県を訪れた。13代目蔵元、代表取締役社長の佐浦弘一さんはこう話す。

【写真を見る】「酒と一緒に、酒が生まれた風景も想像しながら楽しんでいただけたら」と話す13代目蔵元・佐浦弘一さん。この蔵に隣接する家で生まれ育った


「特上のさらに上のランクの酒を献上しました。その時、その酒だけの名前を付けようと考案されたのが『浦霞』でした。仙台や地元の文人たちとの交流が深かった当時の当主が、『金槐和歌集』におさめられていた源実朝(みなもとのさねとも)の歌を参考にしたそうです」。

―塩竈の浦の松風霞むなり 八十島かけて春やたつらむ―

源実朝が詠んだ2首ある塩竈の歌のうち、春の歌から「浦」と「霞」の字を取ったと言う。

「春の霞のような酔い心地を楽しんでほしい、という想いで付けた名前なんです」。

ロマンチックな名前の由来をそう話してくれた。13代目の佐浦さんは、生まれも育ちも塩竈。跡取り息子として育てられ、小さい時から酒蔵を継ぐのだという意識を持っていた。

「蔵の周りでちょろちょろ走り回ったり、かくれんぼしたりして怒られていました。冬になると、季節雇用の蔵人たちがやってくるのを、なんだか不思議だなぁと思って見ていました」。

路地や蔵の前などをガイドを聞きながら見学できる


岩手県南部の農村地帯から冬の間だけ酒造りに来る蔵人たち。佐浦では、代々、いわゆる南部杜氏を雇って酒造りをしている。その佐浦の酒を大きく方向転換したのも、南部杜氏の力だった。

佐浦は明治時代後半には約3000石の酒をつくっていた。第二次世界大戦後の物資がない時代にもどうにか酒をつくり続け、その時代に「品質のよい酒をつくる」と吟醸酒に着手した杜氏がいた。平野佐五郎(ひらのさごろう)という。時代を先駆けた酒造りで、突出した評価を得、名杜氏と呼ばれた人物だ。

佐浦の酒質を決めた南部杜氏の名杜氏


「第二次世界大戦が終わってすぐは、よいも悪いもとにかくつくろう、という時期でした。当時、米を普通以上に磨いてつくる吟醸タイプの酒は贅沢ものでした。

でも、平野佐五郎杜氏は、非常に腕のいい人で、鑑評会でも常に上位にくるような酒をつくり続けたんです。その後を受け継いだ甥の平野重一杜氏の時代になると、1975(昭和50)年ごろから地酒ブームがきて、『浦霞』の名前は多くの日本酒ファンの知るところとなりました」と佐浦さんは言う。

「私の祖父はもともと貿易関係の仕事をしていた次男坊でした。酒造りのことを昔から学んでいたわけではないので、気難しいけれども腕のよい杜氏に酒造りを託して、環境を整えるほうに注力したんですね。腕をふるえる場を提供したので、平野杜氏も才能を思う存分発揮できたのだと思います」。

この時代の酒造りが、このあとの浦霞の酒質を決めていったと佐浦さんは話す。吟醸造りなのは当たり前。きれいな味わいながらも程よく味があり、のみ飽きない。

「安心して心地よくのみ続けられる酒です。春の霞のような酔い心地、という酒名と酒質が一致していたのがよかったのですね」。

佐浦の現在の杜氏も南部杜氏出身だ。酒造りを始めたきっかけは?と聞くと工場長・杜氏の小野寺邦夫さんは「農家の副業みたいな感じで始めたんです」。農作業が少ない時期に蔵に通い、酒造りの勉強をしたという。

南部杜氏はもともと、小野寺さんのように農家の出稼ぎとして増えていった人たちだ。近年は農家の兼業が進み、酒造りを専業で行う人も増えてきた。小野寺さんは最後の「南部杜氏らしい杜氏」なのかもしれない。

木桶でつくった酒の様子を見る杜氏の小野寺邦夫さん。「お客さまにおいしいですね、って言ってもらえるのが何よりうれしいですね」と笑う


「平野佐五郎杜氏の跡を継いだ、平野重一杜氏に教わりました。怒鳴り散らす人ではありませんでしたが、酒造りには真剣でした。洗米ひとつとっても、ピリッとした空気で緊張したものです」

そう話す小野さんが印象に残っている言葉は、『毎年1年生の気持ちで挑め』。

「毎年新しい気持ちで、よい酒をつくれるように挑みたいと思います」と小野寺さんは表情を引き締めた。

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