狂気の篠原涼子に思わず涙...。”死の定義”を問う秀作エンターテインメント!<連載/ウワサの映画 Vol.59>
東海ウォーカー
重~くて泣ける東野圭吾の小説を堤 幸彦監督が映画化した「人魚の眠る家」。脳死や臓器提供を巡るテーマが、「何をもって"死"とする?」という切実すぎる問いを投げかけてきます。誰ひとり悪者ではない登場人物たちを揺さぶる苦悩を通じ、正解のない問題に否応なく向き合わせる力強い1本でした! 取り憑かれたように殺気立った篠原涼子に共感したりムカついたり…、「命の持ち主って誰なんだろ」って今も考え中です、私。

主人公は、二人の子をもつ播磨薫子(篠原涼子)。IT機器メーカーを経営する夫・和昌(西島秀俊)とは別居状態で、娘の小学校受験が終わったら離婚する予定です。そんなある日、娘の瑞穂がプールで溺れ、意識不明に…。「脳死の可能性が高く回復の見込みはない」と告げられ、二人は「脳死」を死として受け入れて臓器提供を希望するか、心臓死を待つのか、という究極の選択を迫られます。奇蹟を信じ、和昌の会社の研究員・星野(坂口健太郎)が開発を進める最先端科学技術を使って娘の治療を始める二人。それは脊髄に直接信号を送ることで筋肉を人工的に動かし、健康体を維持するという前例のない研究でした…。次第に肌つやも良くなり成長していく瑞穂。しかしその姿が、薫子の狂気を呼び覚ましていきます。次第に常軌を逸していく薫子の行動は家族や周囲を巻き込み、思いもよらぬ事件を引き起こすのですが…。

脳死を死と認める国が多い中、日本では、臓器提供をしない場合は脳死状態にあっても心臓死を死とするんですね。このむごい状況が生む葛藤の過酷さがよく捉えられてました。そんな葛藤の果てに電気信号で作り出された”娘の笑顔”が、あまりに衝撃的で異様だった(怖)。嫌悪感すら抱いてしまったのは、やっぱり当事者じゃないから...。脳死状態だから「死んでる」と周りが思っても、大切な人の息があるのなら「生きてるし!」って証明したくなるのは当然なのかも。

一方で...。無茶な延命に挑む両親、自身の研究の成果に執着し始める研究員、孫の事故に責任を感じる祖母…。和昌の父役・田中 泯さんの「人間が関わっていい領域を超えてるよ」って言葉が虚しくこだまする中、肥大し迷走していく大人たちのエゴが腹立たしくもある。その無自覚な身勝手さが瑞穂の弟といとこの小さな心を締め上げ、何よりも、”なされるがまま”の瑞穂の尊厳を置き去りにしていてツラいのです。事故の真相が明かされるクライマックスでは、子供発の号泣大会に加え、篠原涼子が決然と爆発させる愛の”強さ”と”危うさ”に打ちのめされてしまった。


サスペンスを飛び超えたホラーな演出、気になるデカい焼き鳥…と、堤監督ならではの娯楽感に「?」な部分もありましたが(笑)。光を巧く使った映像は文句なしに素晴らしかったなー。前述した”笑顔を作るシーン”の、夕陽が瑞穂の顔に生み出す明暗に紐付けた”満足気な薫子&星野”と”ドン引きの和昌&祖母”の対比も印象的で。小説以上の迫力を画で見せ、重大なテーマをエンターテインメントとして万人にきっちり届けた点がさすがです、堤さん。逆に、社会派監督が撮ったらどうなるんだろ? そっちも観たい。

「脳死状態の娘を連れ回すヤバい母親」だった薫子。その行動の目的が偽りの希望を本物の希望へと変容させたラストは、臓器提供を待つ人々の視点も描かれ、なんだか安堵。同時に、医療の発展と共に増える”神の領域問題”は、もはや他人事ではなく焦ります。私もいつか誰かの命日を決め、自分の命日を誰かに決められるのだろうか…。複雑…。【東海ウォーカー】
【映画ライター/おおまえ】年間200本以上の映画を鑑賞。ジャンル問わず鑑賞するが、駄作にはクソっ!っとポップコーンを投げつける、という辛口な部分も。そんなライターが、良いも悪いも、最新映画をレビューします! 最近のお気に入りは「イット・カムズ・アット・ナイト」(11月23日公開)のクリストファー・アボット!
おおまえ
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