連載第8回 1996年「愛しあってるかい!名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史」

2018年11月13日 8:00更新

東京ウォーカー(全国版) 関西ウォーカー

Twitterで
シェア
Facebookで
シェア

1996年・せんぱーい、見守ってください!

1996年、ついにYahoo! JAPANがサービス開始! ここからネットが爆発的普及…、とはまだまだいかず、メディアに影響を与えるほどではなかった。「今でこそメディアはネットなしで考えられない時代ですが、1996年はまだ手さぐり状態でした。それに、阪神大震災とオウム事件のショックがまだ続いていましたからね」と影山貴彦氏。新しい文化への戸惑い、そして世の中どうなるんだろうという不安。そんな空気が漂っていたこの年、一番ヒットしたドラマといえば、「3階からスーパーボール」のシーンが思い出深い、あのドラマだった!

名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史

全ての画像を見る(2件)

黄金の流れ!「ロングバケーション」からの「SMAP×SMAP」

― 1996年は、やはり「ロングバケーション」でしょうか。

脚本家の北川悦吏子さんが、恋愛ドラマの神様と呼ばれるきっかけになったドラマですね。木村拓哉さんと山口智子さんのコンビで、山口さんのハイテンションを木村さんが戸惑いながら笑って受け止めるというバランスも、とても面白かったです。会話のテンポやキュンとくるストーリー展開はもちろん秀逸なのですが、当時、フジテレビが次世代の主役を育てるのがとても上手な局であったことがわかるドラマでもあります。今見るとすごい顔ぶれですから。松たか子さん、広末涼子さん、竹野内豊さん、稲森いずみさん…。翌年は「ラブジェネレーション」で松たか子さんが、「ビーチボーイズ」で竹野内豊さんが主役になっています。もしかしたらフジテレビは、先に次の主役候補を決めて配役をしているのかもしれませんね。当時は作り手の、このくらいのスパンで育つだろうという想像と、世間に火がつくタイミングがバチッと合っていて、しかもその連鎖が抜群にうまく回っていました。そして今もこのサイクルは続いていますが、チャンスをものにする俳優さんの何倍もの人が消えていくのも事実。時代を読み、スターを輩出するというのは本当に難しいものです。

また「ロンバケ」と同じ時期に始まったのが、22時からの「SMAP×SMAP」です。月曜日のこの時間帯は、黄金の流れでした。「SMAP×SMAP」という番組は、業界に衝撃を与えました。なにせ、歌もダンスもできる、かっこいいアイドルがプロ顔負けの料理を作ったり、本気でコントをしたりするわけです。芸人たちが危機感を抱き、バラエティの流れを変えましたよね。アイドルがコントで素晴らしいセンスを見せること自体は、「ヤンヤン歌うスタジオ」や「みごろ!たべごろ!笑いごろ!!」のキャンディーズ、「カックラキン大放送!!」の野口五郎さん、西城秀樹さん、郷ひろみさん、田原俊彦さん、近藤真彦さんなど過去にも例があり、珍しくないんです。「SMAP×SMAP」は、さらに進化形といいましょうか。プロのお笑い芸人をメイン司会に立てるのではなく、自分たちで番組を回し、新たな笑いを作り出そうとまでする、凄まじい気迫が漂っていました。この「SMAP×SMAP」は、1992年から1995年まで放送されていた「夢がMORIMORI」と同じ制作スタッフ。「夢がMORIMORI」にもSMAPはレギュラー出演していますが、タイトル名には森口博子さん、森脇健児さんの二人の森(MORIMORI)だけで、SMAPの名は入っていません。ですから、「SMAP×SMAP」は彼らのなによりの成長の証であり、感慨深いものがありますよね。

成長を見守り応援したくなる愛嬌 観月ありさ

―この時フジテレビといえば、「ナースのお仕事」も人気でした。

私も大好きでした。「せんぱーい!」「あーさーくーらー!」という、観月ありささんと松下由樹さんのやり取りには、本当に癒されました(笑)。パート1は特にコメディー色が強かったので、主人公の朝倉いずみはけっこう派手な失敗をしています。今なら「命にかかわる!」とかの批判やクレームも飛び交いそうですが、当時は視聴者が「ドラマだから」と笑って見守るおおらかさ、余裕があったということでしょう。観月ありささんは今年、27年間連続でドラマ主演に起用されたことも話題になりました。ただ、彼女はテクニック的にうまいというよりは、存在感・キャラクターで一本! というタイプだと私は感じます。立ち姿の美しさはもちろん、力強さと愛嬌がある。だからこそお仕事ドラマにハマるんです。「ナースのお仕事」で彼女がタフに行動し、笑顔で成長していくプロセスは、見ているこちらも元気になりました。美しい女優さんを怪獣に例えるのは本当に申し訳ないのですが、観月さんはゴジラとガメラでいうと、ガメラなんですよね。

― ガ、ガメラですか?

はい。ゴジラとガメラの差はなにかというと、ゴジラは自分で火を吹きながら敵をやっつけるのですが、ガメラは少年たちに助けてもらうんです。そこがガメラの魅力でもあります。観月ありささんの「ナースのお仕事」も、落ち込んでも周りを巻き込みつつ立ち直っていく前向きさに共感しました。さらに素晴らしかったのは、彼女を支える脇役のストーリーもしっかり成り立っていたこと。長塚京三さんや吉行和子さんなどベテランがきっちりと締め、松下由樹さんが包み込む。コメディーなんですが、決して悪ふざけで終わらず、泣いたり胸が痛くなったりした回も多くありました。パート4まで、チームワークできっちり楽しませてくれたドラマです。

青春群像劇・30代ターゲット…果敢に攻めたフジ木曜22時枠

―長く愛されたドラマといえば、「白線流し」もスペシャルが作られたドラマでした。

青春の迷いを誇張せず、ていねいに描いた秀作です。物語とキャストの成長が重なるテイストは、「北の国から」に通じるものがありました。長瀬智也さんのストイックさ、酒井美紀さんのふんわりとした魅力もドラマを支えていましたね。この放送はフジテレビの木曜22時で、1996年のこの枠はいろいろ攻めていて面白いです。「白線流し」のような若者に向けての青春群像劇は王道ですが、香取慎吾さんがベトナム外国人留学生を熱演した「ドク」のような難しいテーマのドラマも、ちゃんとヒットさせているのはすごいです。また、若者におもねるばかりでなく、「Age,35恋しくて」「コーチ」という、30代半ばの男性をメインにしたドラマを作ったのは着目すべきでしょう。「コーチ」は千葉県の缶詰工場が舞台なのですが、恋愛もありながら、働く楽しさやモノづくりの厳しさ、理想と現実のぶつかり合いなど、骨太な要素が見事にミックスされていました。

―劇中で製造されたサバカレーが放送終了後に商品化され、飛ぶように売れたといいます。

今でも販売しているのがすごいですよね。脚本は君塚良一さん。翌年彼は「踊る大捜査線」を大ヒットさせます。「踊る~」もそうですが、君塚さんの描く話は、リアルでありながら生きる喜びをしっかり伝えるのがすごい。社会人の青春というか、独特の疾走感がありますよね。「コーチ」は玉置浩二さんの歌う主題歌「田園」もおおいにストーリーを盛り上げていて、今でも聞くと胸が熱くなります。玉置さんは俳優としても出演していますが、天才肌のアーティスト。いるだけで物語が動く、そんな圧倒的な存在感があります。1996年は「コーチ」のほかにも、竹中直人さん主演のNHK大河ドラマ「秀吉」で、玉置さんは足利義昭役を演じていらっしゃいました。最近では2013年の「東京バンドワゴン〜下町大家族物語」も最高でしたし、もっと俳優として出てほしい人ですね。

―もう一本「Age,35恋しくて」は、影山さんと同年代の中井貴一さんが主演です。

しかも原作は、男目線で物語を描くのが絶妙にうまい柴門ふみさん。W不倫というテーマは重かったのですが、若くもない、どっぷり中年層というわけでもない「30代」という微妙な年齢で、彼が「このままでいいのか」と思い悩む姿はリアルでした。私も中井貴一さんと1歳しか違わないので、共感するところも多かったです。またこのドラマは、ピンクのフィルターをかけて撮影されるなど演出が凝っていましたね。こういったカラーフィルターをかける演出は映画では珍しくなく、例えば北野武さんの映画はスクリーンにブルーをかけています。映画「あの夏、一番静かな海。」は白い砂浜に薄くブルーがかかって見えて、これが本当に美しいんです。これは「キタノブルー」と呼ばれ、ヨーロッパでも高い評価を受けているのは有名ですよね。色は物語の美しさを増幅させる、大切な要素です。

「イグアナの娘」で演技派として花開いた菅野美穂

― 「Age,35」は柴門ふみさんのマンガが原作でしたが、この頃は特にマンガ原作が増えていて「イグアナの娘」もそうでした。

「イグアナの娘」は、コンプレックスとの向き合い方が独特な目線で描かれていて、感心したのを覚えています。菅野美穂さんは多分、これが連続ドラマ初主演だったと思います。菅野さんは1995年の映画 「エコエコアザラク」で悪役を演じているんですが、凄まじい女優さんが出てきたと驚きましたよね。そしてこの「イグアナの娘」の繊細な主人公リカ、「ドク」の中国人留学生李明、1997年の「いいひと。」のヒロイン。順調に認知度を高めていき、今では日本を代表する俳優さんの一人です。「イグアナの娘」では、1995年にホリプロスカウトキャラバンでグランプリを獲った佐藤仁美さんも、親友役で早くも存在感の大きさを発揮していました。彼女は1997年映画「バウンス ko GALS」のジョンコ役で映画賞を総なめにします。今も女性から見たら友達にしたい、男性から見ても一緒にワイワイ飲みたいなと思わせる親近感で、幅広くご活躍されていますね。画面に出てきたらホッとする俳優さんです。

「イグアナの娘」が放送されたのは、テレビ朝日の月曜20時「月曜ドラマイン」と呼ばれていた枠です。同年には「闇のパープルアイ」、翌年には「ふたり」など、小説やマンガ原作とアイドルを組み合わせて、若者の支持を得ています。フジテレビの80年代「月曜ドラマランド」や90年代前半の「ぼくたちのドラマシリーズ」もそうですが、こういった、アイドルから演技派に脱皮させる挑戦はとても大事です。冒頭に話した「ロングバケーション」と重なりますが、新たな人材を思いきって重要なポジションに投入することは、ハイリスクですがハイリターンなんですよね。

私は、新人の俳優を思いきった形で起用していくドラマが、もっと出てくればと思っています。若い才能がベテランに囲まれ研ぎ澄まされていき、ドラマと同時進行で覚醒していくのを見ると、こちらまで「今、私は歴史的瞬間に立ち合っている!」と興奮します。NHK朝の連続ドラマ小説も、かつてはオーディションで、無名で経験が少ない新人を起用していた頃がありました。そういった素人に近いような経歴のヒロインも、また見てみたいですね。少しの失敗でもネットで凄まじい叩かれ方をする時代ですが、「即大根」「即駄作」ではなく、見守るおおらかさを持ちたい。それがないと逸材も芽は出ませんから。

元毎日放送プロデューサーの影山教授

【ナビゲーター】影山貴彦/同志社女子大学 学芸学部 メディア創造学科教授。元毎日放送プロデューサー(「MBSヤングタウン」など)。早稲田大学政経学部卒、関西学院大学大学院文学修士。「カンテレ通信」コメンテーター、ABCラジオ番組審議会委員長、上方漫才大賞審査員、GAORA番組審議委員、日本笑い学会理事。著書に「テレビのゆくえ」(世界思想社)など。

【インタビュアー】田中稲/ライター。昭和歌謡、都市伝説、刑事ドラマ、世代研究、懐かしのアイドルを中心に執筆。「昭和歌謡[出る単]1008語」(誠文堂新光社)。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」連載。

この記事の画像一覧(全2枚)

大きなサイズで見る

キーワード

関連記事

ページ上部へ戻る