連載第11回 1999年「愛しあってるかい!名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史」

2018年12月25日 7:00更新

東京ウォーカー(全国版) 関西ウォーカー

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名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史

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お待たせしました。逃げるドラマです。

ノストラダムスが世界の終わりを予言したとされるものの、7月になっても「アンゴルモア大王」が天から降りてくることのなかった1999年。音楽業界では「だんご3兄弟」がなんと約300万枚もの売り上げとなり社会現象になり、前年12月にデビューした宇多田ヒカルの1st.アルバム「First Love」が初動売り上げ200万枚超えという記録的大ヒット。影山貴彦氏は「10代半ばで優れた楽曲を数々作り出す、彼女の登場は新世紀を感じましたね」と語る。宇多田ヒカルの3rd.シングル「First Love」が主題歌だったドラマ「魔女の条件」は1999年視聴率ナンバー1を獲得。しかし、最もこの年らしい作品といえば…と影山氏が取り上げたのは、ちょっと意外なあのドラマだった!

追われる側の目線で描かれるドラマ

―(影山氏が指したタイトルを見て)「夜逃げ屋本舗」!ありましたね。1999年でしたか。

「夜逃げ屋本舗」は映画が先で、1992年に第1作目、1993年に「夜逃げ屋本舗3」、1995年に「世逃げ屋本舗3」が公開されています。それから4年経ってテレビドラマ化されるというのは、とても珍しいことです。ドラマの第1話のタイトルは「大不況につき営業を開始いたします」。これがズバリ「なぜ映画から4年も経ったこの年に、ドラマ化されたのか」という答えになっていますよね。しかも夜逃げというダークなテーマのドラマが深夜枠でなく、プライムタイムで放送される。バブル景気がはじけてから8年が経っても先の見えなかった1999年は、それくらい不景気この上なく、不安が大きかった時代ということがわかります。

そのせいか、1999年は「追われる人・過去から逃げる人」の視点で描く物語が多いような気がします。切羽詰まった状況に立たされる悩みへの共感、といいますか。「夜逃げ屋本舗」以外にも、「魔女の条件」は社会的に許されない先生と生徒の恋で2人は追い詰められていきます。さらには田中美佐子さん主演の殺人を犯した主婦たちを描く「OUT~妻たちの犯罪~」、福田和子の逃走劇をモチーフにした「アフリカの夜」、整形やダイエットをして過去を変えた女性2人の運命を描く「恋の奇跡」。ミレニアムを前に、誰もが抱えている後ろ暗さを清算したがっていた、そんな時だったのかもしれません。

「夜逃げ屋本舗」の主演の中村雅俊さんは自然体な演技なのですが、圧倒的オーラがあり、グイグイ引き込まれてしまう。デビューから様々な作品で主役として活躍されてきた方で、脇役をやりだしたのは最近ですが、NHK朝の連続テレビ小説「半分、青い。」の仙吉役は本当によかったですね。温かい雰囲気に溢れた俳優さんですから、これからも主役はもちろん、名バイプレーヤーとして多くのドラマを盛り上げていくと思います。

昼30分ドラマのヒットと関西ドラマへのエール

また、この年はお昼の30分ドラマ「愛の劇場」「ドラマ30」で「大好き!五つ子」「キッズ・ウォー ~ざけんなよ~」など、のちにシリーズ化する名作が生まれているのが興味深いです。特に「ドラマ30」は毎日放送と中部日本放送(現CBCテレビ)が3か月交代で制作していたんです。毎日放送制作のドラマはほとんど大阪で撮影をしていましたが、今はこのパターンは本当に少ないですね。東京で撮影するというケースが多いです。大阪で撮影するのは、たまにスペシャルドラマを振られた時くらい。これは、しばらくバッターボックスに立っていなかった打者が、いきなりヒットやホームランを打てと言われているようなもので、なかなか大変です。やはり作り手は日常的に現場に関わってこそ実力が存分に出せるもの。だからこそ、ドラマ制作において在阪局が代打的な扱いでなく、レギュラーでバッターボックスに立てるように改革してほしい。そして、もっともっと関西を舞台した作品を全国に向けて放送する機会を増やしてほしい…! そう願っています。

ロングランドラマを連発するテレビ朝日のパワー

―シリーズ化といえば、この年から「科捜研の女」が放送を開始しています。

当時はまだ科学捜査をメインに扱ったドラマがほとんどなかったので、いわば先駆け的なドラマですね。もう20周年なんですか! 今や沢口靖子さんを見ると「マリコ様!」と呼びそうになるほど、役と一体化されています。ただ沢口さんの透明感は本当に素晴らしいので、もっと幅広くいろんな役柄をしてほしい、というのも本音です(笑)。1989年、スペシャルドラマで「さよなら李香蘭」で沢口さんが主役の李香蘭を演じていたのは、本当に素晴らしかった。ああいった歴史ドラマでの彼女もまた見てみたいですね。

この「科捜研の女」はテレビ朝日なのですが、昔から「特捜最前線」や「非情のライセンス」など、シニアの視聴者に人気を博すキラーコンテンツを作るのがとてもうまい局です。藤田まことさんの「はぐれ刑事純情派」もそうですね。今では「相棒」シリーズが人気です。シニアの視聴者層は熱心なファンになる率が高いので、ロングランのヒットにつながります。しかもテレビ朝日は、そのシニア層をつかんだことに甘えず、最近では深夜枠で「おっさんずラブ」や「dele」など、冒険的なドラマに挑戦もしている。「おっさんずラブ」は数々のドラマ賞を受賞し、映画化も決まりましたね。高年齢層の好みをきちんと押さえ、挑戦する枠も持つ。80年代後半から90年代前半のフジテレビはこのような将来への種まきがうまい局でしたが、今はテレビ朝日がとてもいい回転をしています。

しかも2019年、テレビ朝日は開局60周年を迎えます。記念ドラマとして5夜連続「白い巨塔」を放送しますが、主演は岡田准一さん、脚本がドラマ「とんび」「ダブルフェイス」、映画「フラガール」の羽原大介さん、監督が映画「後妻業の女」「のみとり侍」の鶴橋康夫さんという強力な布陣。鶴橋さんはウェットな空気感を出してくる方なので、主役の財前が教授にのし上がるまでのドロドロな感じをどう出すか、今からとても楽しみです。

渡部篤郎の暗い迫力、中谷美紀の気品

―「科捜研の女」もそうですが、1999年は医療ドラマが多いのも特徴です。

しかも「女医」「ラビリンス」と、病院の闇を描いたドラマが2本ありますね。1999年は、医療事故報道が急増し、社会問題化していた時期でもありました。「女医」はシドニィ・シェルダン原作のドラマ化でしたが、病院という特殊な社会の中で悩むという視点はタイムリーで、とても重かったです。「ラビリンス」で苦悩する医師を演じた渡部篤郎さんは、心に暗いものを抱えたムードを出すのがとにかくうまい。うま過ぎるといっていいほど(笑)。彼は悪役を演じることも多いのですが、演技とわかっていながら「うわ、この人とはかかわりたくないな」と本気でゾッとすることがありますね。

また、「女医」「ケイゾク」の主演で、当時めきめき若手実力派女優として頭角を現し始めたのが中谷美紀さん。暑い日に彼女を見ると涼しくなるくらいのクールビューティーです。発言もとても知的で、全体的に高貴なオーラを感じます。なのに2016年の「私、結婚できないんじゃなくて、しないんです」のみやびのような、空回りする等身大の役もすっとなじむ。とてもポテンシャルの高い俳優さんですよね。最近結婚を発表されましたが、俳優業は継続されるとのこと。嬉しいです!

「手の届かない魅力」とSNSの関係

中谷美紀さんも前出の沢口靖子さんも、良い意味で手の届かない人、高嶺の花という雰囲気があります。「魔女の条件」の滝沢秀明さんもそうでしたね。近寄りがたい美しさがドラマに大きな格を持たせる。そんな稀有な存在感。これは俳優にとってとても重要なポイントで、私は俳優としてトップを走り続けるには、演技の時と素のギャップを安売りしてはいけない、と思っています。今ではブログやSNSがありますが、自らの言葉で自由に発信できる便利さが、使い方を間違えると大変なことになるのは誰もがご承知の通りです。俳優の方にとって、これらのツールは出演作のPRにもファンとの交流をはかるのに、とても便利であることはわかります。でも、発信のバランスがとても難しい。自分のプライベートを晒してまでアピールすることと、役柄に自分を追い込むのは、同じくらいの熱量を使っても、作品に出る影響は全く変わってくると思うので。最近トーク番組「ボクらの時代」で蒼井優さんがSNSをやらない理由として「自分が映画を観始めたときに画面にいた人のプライベートって見えなかった」と仰っていましたが、まさにそうですよね。俳優さんには、やはり私生活を全て晒すのではなく、謎めいた部分を残し、凛としていてほしいと思います。

それに、SNSでいろいろと事前に情報を流すことで、受け手がいざ作品を見る前にお腹いっぱいになる、ということも起きてきます。現在、それがとても多い。タイミングを待たず「これがいけてる、あの部分がいけてる」と前情報がオンエアを追い越してしまい、実際に放送されたときには新鮮さが失われてしまっている。完全に逆効果なわけです。もちろんメディアには火付け役という役割があるので、すべてが無駄とはいいません。ただ、メディアがヒットを先食いしてしまうのはとても寂しい。前のめりの告知大サービスが本編を追い込んでいくような状況には、ならないでほしいと思います。

元毎日放送プロデューサーの影山教授

【ナビゲーター】影山貴彦/同志社女子大学 学芸学部 メディア創造学科教授。元毎日放送プロデューサー(「MBSヤングタウン」など)。早稲田大学政経学部卒、関西学院大学大学院文学修士。「カンテレ通信」コメンテーター、ABCラジオ番組審議会委員長、上方漫才大賞審査員、GAORA番組審議委員、日本笑い学会理事。著書に「テレビのゆくえ」(世界思想社)など。

【インタビュアー】田中稲/ライター。昭和歌謡、都市伝説、刑事ドラマ、世代研究、懐かしのアイドルを中心に執筆。「昭和歌謡[出る単]1008語」(誠文堂新光社)。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」連載。

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