連載第20回 2008年「愛しあってるかい!名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史」

東京ウォーカー(全国版)

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ドラマにときめけ、明日にきらめけ!


名セリフ&名場面で振り返る平成ドラマ30年史


北京オリンピックが開幕し、水泳の北島康介選手が金メダル二連覇を達成。「なんも言えねぇ!」が流行語となった2008年。お笑いコンビ麒麟の田村裕が自らの経験を描いて前年に発売された「ホームレス中学生」が200万部以上を売り上げる大ベストセラーになり、音楽では青山テルマの「そばにいるね」やジェロの「海雪」が大ヒットしたころである。   

大阪では橋下徹知事が誕生、アメリカではアフリカ系としてはじめてバラク・オバマが大統領選に勝利(就任は翌年)。影山貴彦氏は「クイズ・ヘキサゴンでヘキサゴンファミリーが大人気になったのもこの頃ですね。見ていて“チームワーク”を楽しめる番組やドラマが多かった気がします」と分析する。

チ-ムで成長していく姿を確認できる感動「コード・ブルー」「ROOKIES」


―2008年には、影山さんがちょっと変わったハマり方をしたドラマがあるのだとか。

はい。「コード・ブルー-ドクターヘリ緊急救命-」です。シーズン1も大好きだったのですが、2017年のシーズン3で、ものすごく心を打たれまして。そして、シーズン2、シーズン1とさかのぼって見直し、トータルで感動した。そういう経緯があるドラマです。ストーリーは全作安定して面白いのですが、シーズン3で「ああ、理想的な続編とはこういうものだ」と、キャストのチームワークと成熟具合に圧倒されたんですよね。こういうドラマは稀です。シーズン1・2では若さと必死さが勝っていた5人が、全員見事に成長し、絆を強くして帰ってくる…と言うのは簡単ですが、シーズン1から10年も経っているんですよ。5人のうち誰か圧倒的キャリアの差がつく、もしくは1人くらい欠けてもおかしくない。それを考えると「コード・ブルー」のバランスは奇跡的ですよね。シーズン3を見たあとシーズン1と2を見たら、ああ、みんなここから経験を積んでいったんだなあ、と現実とドラマがリンクし、胸が熱くなってしまって(笑)。リアルタイムで見た時とはまた別の感動を覚えました。Mr.Childrenの歌うテーマソング「HANABI」を、全シリーズ通して変えなかったのも素晴らしい演出です。「もう一回、もう一回」というあのフレーズを聞くたびに、5人を思い出します。

続編をシーズン1と同じテンションで保つのは、本当に難しいことです。最近では2019年3月にNHK朝の連続テレビ小説「ひよっこ」の続編「ひよっこ2」が放送されましたが、こちらも世界観がそのまま守られていて、メインキャストが1人も欠けずに出演していました。演者の仲の良さが出ているドラマは、幸せな気持ちになれるというのはありますよね。どのドラマでも、新鮮さはどうしてもシーズン1に軍配があがりますが、続編は、演者と制作者たちの絆を確認できる。これは大きな楽しみです。

「コード・ブルー」でキーマンとなるのは、藤川一男先生役の浅利陽介さん。主役級がずらり揃うキャスティングは「自分が、自分が」になり、自滅してしまうのは、よくあるパターンです。そこで浅利さんのように、包容力のあるムードメーカーが成功を握ります。浅利さんは、オフでもやさしい藤川先生役柄そのままのキャラクターで現場を盛り上げていたようですね。だからこそ「コード・ブルー」は優しい仲間感が漂い続けた。彼の存在なくして「コード・ブルー」のあの完成度はなかったと言っても過言ではありません。

2008年は、社会現象にもなった人気ドラマ「ROOKIES」もありましたが、こちらも同じ。主役の佐藤隆太さん、メインの市原隼人さんはもちろん素晴らしかったのですが、桐谷健太さんの存在感に感心したものです。高校生の役をしていましたが、当時彼はすでに28歳。そのアクの強さを出しつつ、個性派が並ぶ出演陣の演技を絶妙に受け止めていました。ドラマはチーム戦だと、この2本を見るとつくづく思います。

静かなる狂気を魅せる錦戸亮


―2008年、衝撃的な内容で話題となったのが「ラスト・フレンズ」です。

同性愛やトラウマなど、いろんな問題を盛り込んだドラマでしたが、錦戸亮さん演じる及川宗祐が、長澤まさみさん演じる恋人・藍田美知留に激しいDVを繰り出すシーンは、ドラマと分かっていても本当につらくて。単に暴力的なだけではなく、宗祐の孤独も伝わってくるので、よけいにやるせなくなり、時にはチャンネルを変えるほどでした。演じる錦戸さんが、それほどうまかったということです。錦戸さんは静かなる狂気を漂わせている人ですよね。新時代、日本を代表する俳優として頭角を現す1人だと確信しています。同じく2008年放送の、錦戸さんと二宮和也さんが共演した「流星の絆」も見応えがありました。二宮さん、錦戸さんというセンシティブな魅力溢れる2人と、気が強い末っ子、戸田恵梨香さんの天才演技派トライアングルが最高でした。東野圭吾さんの原作の「ここが肝!」という部分を思いきり変えていて、見ながら「大丈夫なのか?」と勝手に心配しましたが(笑)。それでもグイグイ引き込まれましたね。大好きなドラマです。

周りの意見に流されず正義を見抜く女性たち「斉藤さん」「エジソンの母」


―この年には、意外なヒットとして「斉藤さん」がありました。

前評判はほどほどという感じでしたが、回を重ねるにつれ、口コミで評判が上がっていったドラマでした。軸は「ママ友の面倒くささ」。ママ友グループでできていく勝手なルールや上下関係に、引っ越してきた斉藤さんがモノ申すという内容です。「マウンティング」という言葉が流行語になったのは2014年ですが、このドラマは、その問題をいち早く取り上げていました。

ストーリーの爽快さはもちろん、斉藤全子役の観月ありささんと真野若葉役のミムラ(現・美村里江)さんのコンビネーションの良さが大きな勝因だったことは間違いありません。周りに媚びない凛とした観月さんは立ち姿を含め、カッコよかった! ミムラさん演じる真野は、その横でニコニコとしていて。斉藤さんに影響を受け、優柔不断キャラから変わっていく真野ですが、逆に彼女が元来持っている親しみやすさで、暴走する斉藤さんをフォローするようになっていくのもよかったですね。「ああ女の友情っていいなあ」と見ていて本当に微笑ましかったです。

もう一つ、この年私がとても印象に残っているドラマが「エジソンの母」です。伊東美咲さんが主演ですが、これも放送前は期待されていなかった記憶があります。なんといってもテーマが複雑。エジソン並みの知能を持つ天才児の性格や行動を、小学校の先生、そしてクラスメイトがどう理解し受け入れていくかというものでした。伊東さんは、俳優としてはなかなか厳しい評価をされることが多かったと思います。しかし、「電車男」のエルメスも「エジソンの母」も、彼女の清潔感が大きな役割を果たしている。伊東さん演じる鮎川先生が、天才児エジソン君の前で「どうして? どうして?」と彼の口真似をする場面があるんですね。それがドラマではなく、本当に彼の先生のように自然で。10年経った今でも、パッと思い浮かぶくらい覚えているんです。何気ないシーンでここまで記憶に残る演技をする伊東さん、実はすごい人じゃないのかな。もう一度ドラマに出てほしい一人です。

「エジソンの母」と「斉藤さん」は、細やかな人間関係を描いた点が似ていますよね。2作とも、小学校に通う子どもとその親たちの関係や日常に、一石を投じる存在が出てくる。そして周りの理解を得る、問題を解決していく様子が描かれています。派手な展開はありませんが、人々の心の変化が丁寧に描かれていて、心地いい気持ちになれる良作でした。

平成のドラマを象徴する木村拓哉は令和でさらに化ける!


「斉藤さん」のように、前宣伝や期待値が派手でなくとも、口コミで評価を得るというのは理想的です。しかし一番大変なのは、ものすごくハードルを上げて期待値が上がった状態で始まるドラマ。その期待以上の結果を出さなくてはいけないのだから、プレッシャー以外の何物でもないですよね。それをやり続けた男こそ、木村拓哉さんです。2008年、彼は月9「CHANGE」で主演をしています。これは、オバマ前大統領が選挙で連発した「CHANGE」という言葉に掛けたドラマでした。小学校の先生が総理大臣になるという、なかなかぶっ飛んだ設定です。しかし、それすら説得力を持たせる木村さんの存在感。平成ドラマの代表は誰かと問われれば木村拓哉、そう言い切って間違いないと思います。私はこの連載で1989年から数多くのドラマを振り返ってきていますが、ほぼ毎年話題作に木村さん出演のドラマが出てくるんです。だからバランスを考えて、彼について語るのをセーブしなくちゃならないほどでしたから(笑)。しかも勝率がとんでもなく高い。2塁打を求められたらホームランを打ち、ホームランを求められたら場外を打つのが彼ですよ。ファンならずとも、彼の活躍は誰もが認めるはず。すごいことですよね。

男性の俳優は、20代後半くらいからどう進んでいくか、迷いの時期が出てくるかもしれません。木村さんも一時期、それを感じましたが、去年半ばあたりから越えた感がありますね。これからどんどんいい役者になっていくのではないでしょうか。平成で、あらゆるタイプのヒーローを演じた木村さん。新たな時代、令和が訪れますが、白・黒どちらでもない、迷いや罪悪感を持つ、グレーの人間像をどんどんやっていただきたいです。一つレベルが上がった彼が織りなす等身大の人間ドラマ、絶対に見たいですね。

元毎日放送プロデューサーの影山教授


【ナビゲーター】影山貴彦/同志社女子大学 学芸学部 メディア創造学科教授。元毎日放送プロデューサー(「MBSヤングタウン」など)。早稲田大学政経学部卒、関西学院大学大学院文学修士。「カンテレ通信」コメンテーター、ABCラジオ番組審議会委員長、上方漫才大賞審査員、GAORA番組審議委員、日本笑い学会理事。著書に「テレビのゆくえ」(世界思想社)など。

【インタビュアー】田中稲/ライター。昭和歌謡、都市伝説、刑事ドラマ、世代研究、懐かしのアイドルを中心に執筆。「昭和歌謡[出る単]1008語」(誠文堂新光社)。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」連載。

関西ウォーカー

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