1冊の沖縄県産本が地方出版の現状に光明をもたらすか?

東京ウォーカー(全国版)

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沖縄県の出版社が発行する書籍を沖縄では「沖縄県産本」と呼んでいる。通常、沖縄県産本は県内では売れるものの、県外での需要はそれほどないのが現状だ。そんな中で、その“通常”とは少し違った売れ方をしている書籍がある。

その本は、県内の出版社・ボーダーインクから発刊された「那覇の市場で古本屋 ひょっこり始めた<ウララ>の日々」。ジュンク堂那覇店の細井実人店長は、「一般的な県産本より、全国的に売れていると思います。(出版関係者の多い)首都圏でよく売れています」という。その売れ方には、著者である宇田智子(うだ・ともこ)氏の経歴に理由があった。

宇田氏は2002年に、日本でも有数の売り場面積を誇る書店「ジュンク堂書店」に入社。その中でも最大の売り場面積を有する池袋本店に配属された。その後、2009年に那覇店の開店に伴い、自ら志願して異動。開店の準備から軌道に乗せるまで怒濤の日々を過ごしながら、異動から約2年後に退社、その3カ月後に那覇市の台所である第一牧志公設市場の向かいに「市場の古本屋ウララ」を開店した。

「那覇の市場で古本屋 ひょっこり始めた<ウララ>の日々」は、ジュンク堂那覇店への異動や「市場の古本屋ウララ」開店までの経緯、市場での日常などを宇田氏が書き綴ったブログや新聞記事の連載に加筆修正を加えたエッセイ集。読者をグイグイと宇田氏ワールドに引き込んでいく、独特の軽妙なテンポが小気味いい。

宇田氏を急速に沖縄に駆り立てたのは、他でもない沖縄県産本。「沖縄で、沖縄の本を売りたい」という強い思いだけで、一度も訪れたことのない沖縄へ移住を決心した。宇田氏は「東京の書店で働いている時、沖縄県産本フェアを開催して、その量と種類に圧倒されました。これを地元で売れたら、さぞ面白いだろうなぁと思いました」と、振り返る。

こうした経歴もあり、全国のジュンク堂で販売面での連携が見られているのだ。前出の細井店長によると、「全国のジュンク堂(那覇店を含む)で展開していますが、特に、宇田さんの前任地の池袋本店で(販売に)力が入っています。池袋本店では、2階旅行書、3階文芸書(読書・書店論)、4階人文書、9階芸術書で多面展開。一般的には、同時期に出版された『本屋図鑑』『離島の本屋』と並べられることが多い」という。

この本の編集を担当したボーダーインクの新城和博氏は、「これまでの彼女のキャリアから考えて、全国のジュンク堂各店で売れたらいいなと考えていたので、県産本にしては珍しく、発売前に全国の書店、特にジュンク堂さんには直接FAXで注文をお願いしました。お陰さまで、うちの本としては珍しく、県外からの注文を多数、発売前からいただくことができました」と、こうした努力も功を奏した。

その反応も上々だ。「全国の古本屋好き、本好きの方から、早速、多くの反応がありました。宇田さんが開いた『市場の古本屋ウララ』は、先代のころから“日本一狭い古本屋”として名を馳せていたのと、宇田さんの人気(?)で、予想以上に多くの読者の方が、店のことを知っている、気にしていることが分かりました」と、新城氏は分析する。

沖縄県には全国的に見ても人口比で特に多い、大小40以上の出版社が存在する。ただ、沖縄県の出版状況も日本全体のそれと同じように、大変厳しいのが現状。新城氏が「地域出版は、今後ますます厳しい状況になる」と語る通り、楽観視はできないのが状況だ。ただ、今回の宇田氏の書籍が、沖縄の編集者に“何らかのヒント”を与えてくれているのも確か。今回の事例が、全国の地方出版が“文化”としてあらためて見直されることのきっかけになるか、今後の動向に注目したい。【東京ウォーカー】

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