2014年注目の問題作「渇き。」の魅力に迫る！中島哲也監督×役所広司×小松菜奈インタビュー

第3回「このミステリーがすごい！」大賞に輝いた深町秋生の小説「果てしなき渇き」を、「嫌われ松子の一生」「告白」の中島哲也監督が映画化した「渇き。」が6/27（金）より全国で劇場公開される。

元刑事の男・藤島が、謎の失踪を遂げた優等生の娘・加奈子を捜索するなかで、思いもしなかった事態に引きずり込まれていく姿を描いた本作。中島哲也監督と、主人公・藤島を演じた役所広司、学園のカリスマでもある娘の加奈子を演じた小松菜奈に、今回の映画の見どころを聞いた。

－ハードな暴力描写と、現在と過去が入り組んだ複雑な物語で“映像化不可能”とも言われていた小説を映画化しようと思われたきっかけは？

中島哲也（以下、中）：一人ぐらいは読者が感情移入できそうなキャラクターが出ててくるのが普通の小説だと思うんですけど、原作小説の「果てしなき渇き」には、一人もそういうキャラクターが出てこないんですよね。とても分厚い長編小説なんですが、1行もキュンとできるところがない（笑）。でも小説に登場するキャラクターにものすごいエネルギーを感じて。小説をそのままのテンションで映画化すれば、今まで見たことのない新しい人間ドラマができるかもしれないと思って映画にしようと決めました。

－シナリオが完成したときに監督は“こんな酷い話に誰も出てくれるわけがない”と感じられたそうですが、実際にシナリオをご覧になった役所さん、小松さんはどう感じましたか？

役所広司（以下、役）：中島哲也さんが監督をされるということで、直感的に出たいなと思いました。常に新しいことにチャレンジしている監督のもとで作られる映画にはぜひ参加したいと強く感じましたね。

小松菜奈（以下、小）：加奈子は本当に自由で何を考えているかわからないキャラクターなんですけど、人をひきつける魅力のある女の子だなって感じました。今回共演させていただいた皆さんが、本当に豪華で、その方々の中で演技をするというのがプレッシャーでしたね。

－小松さんは本作が映画初出演とのことですが、役所さんと共演されていかがでしたか？

小：自分の中で俳優さんは、撮影期間中は演じる役に入り込まれて、休憩中も話しかけられないんじゃないかって、そういうイメージがあったんです。でも役所さんは、休憩中の私にも優しく話かけてくださって。でも本番が始まると大暴れするお父さん（笑）。役所さんは休憩中と本番で目が違うんですよね。本番中は“本当に殺される…”と思いました（笑）。

－映画初出演の小松さんを加奈子役へ抜擢された理由は？

中：脚本を書いている段階では、僕の中で加奈子というキャラクターはぼんやりとしたイメージしかなかったんです。でもオーディションで小松さんと出会ったときは、彼女のまとっているムードというか、目つきとか…。彼女ってなんだか不思議な目つきでしょ。

小：それって褒め言葉なんですか？（笑）

な：もちろん最上の褒め言葉ですよ（笑）。小松さんと出会ったことで、加奈子というキャラクターが僕の中で具体的になってきましたね。

－主人公・藤島を演じた役所さんとは「パコと魔法の絵本」以来の顔合わせでしたね

中：藤島にはものすごく凶暴な面と、その中に少しの滑稽さを入れたかったんですよね。「ぶっ殺す！ ふざけんな！」って大声で言ってる割には、藤島は弱いんですよ（笑）。藤島を演じるには面白いだけでもダメだし、凶暴なだけでもダメ。不甲斐なさや人間らしさを演じられて、藤島という役を膨らませてくれるのは、やっぱり役所さんだなと思いました。ただこの役はかなりリスキーだったと思います。CMの契約も減るかもしれない（笑）。シナリオを役所さんに送ったときは、本当に受けてもらえると思いませんでした。ビクビクしながらシナリオを送って、役所さんに「どうですか？」と聞いたときに、「やりますよ」と答えてくださったときは嬉しかったですけど、正直ビックリしました。

－役所さんからご覧になった本作の見どころをお願いします。

役：映画「渇き。」はバイオレンス映画なんですけど、“愛の物語”だと思っています。登場人物、皆が愛に餓えている。小松さんが演じた加奈子というキャラクターも、父親の藤島と同様、愛に餓えている。そんな物語だと思いますね。藤島というキャラクターは本当にひどい男で、彼は自分のとる行動でますますヒドイ状況に陥るんですけど、唯一、彼を褒められるのは、自分の命をかけて娘・加奈子の居場所にたどり着こうとする、彼のその根性ですかね。

【取材・文＝鈴木大志（関西ウォーカー編集部）】