フィギュア世界選手権、羽生結弦の無謀にも思える挑戦

東京ウォーカー(全国版)

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フィギュアスケート世界選手権の開幕を翌日に控えた3月24日(火)の男子公式練習、羽生結弦がリンクサイドに現れた瞬間、リンクの空気は一変した。

ファンやメディアが期待と不安を抱きながら見守る緊張感の中、羽生はどこまでも冷静だった。時折笑みを浮かべ、普段通りに滑る。スケーティングで体を温めてから、ジャンプ練習に挑んだ。

ところが、である。ジャンプがいつもと違う。トリプルアクセルは全く回転が足りていない。トリプル+トリプルにおいてもいつもの美しい軸が取れない。やはりまだ復調していないのか。

そう思った矢先にオーサーコーチから指示が出た。なんと基礎のスケーティングの確認をし始めたではないか。世界選手権の公式練習だ。

練習終わりにスケーティングで締める選手は多いが、ジャンプ練習の途中にスケーティングの確認をする選手など見たことがない。

しかし、これには大きな意味があった。自主練習を続けていた羽生。スケーティングに狂いが生じていることをオーサーコーチはすぐに見抜いたようだ。メインリンクの氷の感触を確かめる意味もあった。そして再開したジャンプ練習で、羽生のパフォーマンスは一変!

あの羽生特有の細くて美しい軸が復活し、カウンターからのトリプルアクセルも完璧にこなす。数回に渡るトライの後、4回転トゥループも見事に着氷してみせた。

試合本番前にメインリンクで練習する機会はこの日のみ。失敗しても笑みを見せ、ジャンプの入りのタイミング、目標とするフェンスの位置を丹念に確認する姿が印象的だった。

羽生はすでに本番を見据え、緻密な計算を立てて練習していたのだ。そして練習の後半では4回転サルコウにも挑んだ。

1度目は失敗したが、2度目で着氷!この日、4回転ジャンプはトゥループを2回、サルコウを1回の合計3回成功させた。初日の公式練習においてここまでのパフォーマンスを見せるとは…想像を遥かに超えたでき栄えだ。

練習後の取材、まず羽生が口にしたのは感謝の言葉。「ここまで戻って来られました。皆さんの前に立って演技を披露する、その覚悟ができました。2週間の入院、4週間の自宅療養、そして練習再開後に捻挫をしてしまい、再び2週間の休養期間がありました。本格的な練習を始められたのは3月の初めです。ここまで来られたのは周りの皆さんのサポートのおかげです」。

手術では、腹部を4cmほど切り、腹筋の感覚にズレが生じたことが捻挫の一因ではないかと分析。ここ数カ月間で羽生を襲ったアクシデントの数々を考えれば、通常ならば長期休養しても不思議ではない。それらをすべて乗り越え、傍目には無謀な挑戦にも思える今回の調整過程を、羽生はどこまでも冷静に取り組んでいた。

「ここはあの事故が起きた会場ですが、僕は皆さんが思うほど気にしてません。中国杯は過去のこと。今は目の前の世界選手権に向けて、自分ができることをしていきたい」。

そして、「今は、スケートを滑れることがうれしい、楽しい」と続けた。これこそ、ファンやメディアが待ち望んでいた言葉だ。

世界選手権は長丁場の戦いであり、練習のできが良かったとはいえ、本番はまた別の話。小塚崇彦のように本番までの調整過程と割り切り、この日は軽めのジャンプ練習に留めた選手もいる。

初日から全開の調整を行った羽生の判断がどういった結果をもたらすか、それはまだ分からない。それでも王者としてのスケートを初日から披露した姿勢に、敬意を表したい。

デニス・テンとの一騎打ちが予想される今回の世界選手権。100%の状態ではないかもしれないが、羽生自身が決断し、取り組んできた挑戦の意味を、演技を通して見せてくれることだろう。ショートプログラムは27日(金)の夜。羽生結弦から目が離せない。【東京ウォーカー/取材・文=中村康一(Image Works)】

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