「鬼滅の刃」新聖地が活況、一方で“アニメ聖地認定”による不幸せな現実も
「そこは観光地ではありません」聖地巡礼への懸念や苦情も
このように作品をきっかけにした観光客増加を喜ぶ声がある一方で、聖地巡礼がしばしばトラブルの原因にもなってしまうケースもある。
空前の大ヒットを記録した新海誠監督作品『君の名は。』では、アニメーションで描かれた東京や飛騨地方の景色も見どころで、多くのファンがモデルとなった場所に足を運んだ。その影響から、作品に関連する場所への早朝深夜の訪問や騒音が苦情となって制作側に寄せられ、公式サイト上で「関連場所への訪問を予定されている皆様におかれましては、節度のある行動、及びマナーに十分心掛けていただきますようお願い申し上げます」と異例のアナウンスが行われる事態となった。
また、映画『この世界の片隅に』の片渕須直監督は、劇中に登場する一部地域への訪問について「いわゆる『聖地巡礼』の目的地とされませんようお願いいたします」と、自身のTwitterアカウント上で自粛を呼びかけた。一連の投稿では「道は狭く、私有地に踏み込むことで起こりかねないトラブル、実質的な物理的危険について製作委員会、監督、原作者、現地それぞれで憂慮しています」「そこは観光地ではないのです」と、聖地巡礼で起こるトラブルへの懸念が示されていた。

ファン発の聖地では、福島県福島市平石地区に設置されたガンダム像、通称「へたれガンダム」の“ビームライフル”が2020年5月、盗難被害にあったことが発覚。読売新聞オンラインのニュースによると、ガンダム像の正面にある集会所に監視カメラを設置したり、近所の交番が見回りを強化する事態になっているようだ。
作品のモデルとなる場所は現実には住宅街や学校といった、不特定多数の来訪を想定していない場所であることも多い。また、その地域に暮らす人すべてが作品の存在や内容を知っているわけでも、また許容しているわけでもない。想定外の観光客の集中によるキャパシティオーバーや、一部のファンの無思慮な振る舞いが、近隣住民への迷惑となってしまうリスクは少なくない。
“ファンの意識”が問われる聖地巡礼、聖地を守るために必要なこと
2018年以降、アニメツーリズム協会が「訪れてみたい日本のアニメ聖地88」を毎年発表するなど、アニメの聖地巡礼文化は広く定着した。また、SNSの普及で、熱心なファンでなくても聖地に関する情報は手軽に手に入るようにもなった。竈門神社や大川荘は、SNSの“バズ”で生まれた聖地ともいえる。さらに近年では、佐賀県を舞台に、県の協力のもと制作が進められたアニメ『ゾンビランドサガ』のように、制作側・自治体双方が聖地巡礼を視野に入れた作品作りも行われており、今やアニメ・漫画作品と聖地巡礼を切り離すことはできない。それだけに、聖地巡礼でのトラブルがファンや作品への悪感情につながることへの懸念も大きくなっている。
もちろん、地域、作品、ファンがお互いに良好な関係を築くケースも多い。現在のアニメ聖地巡礼ブームのはしりともいえるアニメ『らき☆すた』では、舞台の一つとして埼玉県鷲宮町(現・久喜市)が描かれた。アニメ放映から10年以上経った今、作中の登場人物から生まれた久喜市商工会のキャラクター「かがみん」が、作品とは直接かかわらない地域の祭りやイベントにも登場するなど、街に欠かせない存在として溶け込んだ。そして今なお、多くのファンが聖地に足を運ぶ。
宝満宮竈門神社の馬場さんは「あくまで神社ですので、普通のお参りと同じ形で来ていただければ問題はないかと思います」と、聖地巡礼について今のところトラブルや苦情はないと話す。聖地巡礼は熱心なファン活動に留まらず、多方面に大きな影響力を持つ社会現象になった。SNS上ではファンの間で節度を守るようように促す姿も見られる。アニメ聖地を守るためにも、マナーを守り、その周辺に暮らす人々への配慮を忘れないよう心掛けたい。