「ここは出ていく駅だから」寂れ行く故郷を離れる青年描いた漫画に共感「切ない」「じんわりきますね」【作者に聞いた】
大学進学のため、生まれ育った町を離れようとしていた青年。だが直前になって、故郷を去ることに迷いが生まれ……。pixivコミック月例賞(2022年10月投稿分)で優秀賞を受賞したむつ さとし(
@MutsuSatoshi
)さんの漫画「ここは出ていく駅だから」は、誰しもが通る別れの季節と、故郷への葛藤が丁寧に描かれた作品だ。

寂れた故郷を離れる青年と、家族それぞれの「町」への感情描く短編
ローカル線の終点、門津田(もつだ)に暮らす高校生のヒロ。都会にある大学の入試を終え帰宅したヒロは、家族に「やっぱ おれ 大学いいわ」と、進学をやめ家業の釣り具屋を継ぐと告げる。

ヒロの脳裏には、同じく進学のため町を離れる同級生たちの楽しげな会話がよぎっていた。彼らの態度に「わざわざ遠くに行かなくたっていいだろ…」と、生まれ育った町に対する複雑な思いが心中で渦巻いていたのだ。
父とはケンカし母には諭されながら、それでも結局は大学に進むことを選び、町を離れる日がやってきたヒロ。両親に送り出された後、ヒロはホームで待っていた祖父と、列車が着くまでの間、門津田の町について会話を交わす。

時は流れ、一児の父となったヒロは、墓を移す前の最後の墓参りのため、息子とともに門津田へ里帰りする。その道すがら、息子が「あれなに?」とたずねたのは、今では廃線となった門津田の駅だった。少年時代のヒロを送り出した廃駅に、大人になった今、親子で立ち寄ることになり……、というストーリーだ。

「みんなあそこから出てったよ」旅先での言葉から生まれた物語
過疎化が進む海沿いの小さな町として描かれる架空の町・門津田の、どこか見覚えのあるような情景と時の流れ、そしてそこで暮らしてきたヒロとその家族がそれぞれに抱えた町への思いが、郷愁と余韻を感じさせる短編漫画。読者からは「一人暮らしに出たときのことを思い出しました」「切なくなりました」「少し哀しいけど、じんわりきますね」と、共感の声が寄せられた作品だ。
一つの作品として描いた漫画は本作が初めてだったという作者のむつさとしさん。ウォーカープラスでは描いたきっかけや、漫画制作への思いを訊いた。

――本作を描いたきっかけを教えてください。
「きっかけは、去年のコミティア(※COMITIA、オリジナル作品限定の即売会)に初めて一般参加した時のことです。そこでいろんな方々が描いた素晴らしい漫画作品を目の当たりにして、『自分も漫画を作ってみよう』と思いました」