「ここは出ていく駅だから」寂れ行く故郷を離れる青年描いた漫画に共感「切ない」「じんわりきますね」【作者に聞いた】
――作品のアイデアはどんなところから生まれたのですか?
「これまでの人生の中で特に印象に残った出来事を作品のベースにしようと考えました。趣味の一人旅で、とある町を訪れた時のことです。その町は、人口流出に悩む地方都市でした。そこで出会った地元の老人に町のことをうかがおうとしたのですが、古い駅舎を指さして『みんなあそこから出てったよ』とひとこと言われただけで終わり、とても印象に残っていました。そこで、その体験を生かそうと思い、本作の制作を始めました」
――切符のまばらな無人駅、寂れた様子の釣具店と、作中で描かれる門津田の町にはどこか実在感を覚えました。
「旅行でよく訪れた東北の町と、私の故郷を参考にしました。駅の外観や内部、行き来する電車などは、それらをミックスさせたものです。どちらも地理的に端っこに位置する小さな町で、どこか似たさみしさを感じていました」
――故郷を離れる葛藤と穏やかに流れる時間が丁寧に描かれ余韻の残る作品です。本作でチャレンジしたことや、意識したポイントはありますか?
「ゆっくりで、静かで、けど確実に近づいている『町の最期』を描いてみたいと思っていました。そして、分かってはいても止められない町の衰退に対して、そこから出ていく人と残る人、そしてその町を知らない人が抱く感情の違いを自分なりに表現できればと思いました」

――ご自身でお気に入りの場面や台詞はありますか?
「『ここは出ていく駅』と、タイトルが台詞として出てきたように、祖父が主人公・ヒロを見送る場面はお気に入りです。町の発展も衰退も経験した祖父は、どんな気持ちや言葉でヒロを送り出すのか考えながら描いていました」
――本作はpixivコミック月例賞受賞のほか、ユーザーからも多くのコメントが寄せられました。反響をどう受け止められていますか。
「この作品は、もとは別の漫画賞に応募したものでした。初めてちゃんと作った漫画作品だったので、『最初の作品は好きな漫画賞に!』との思いで応募したのですが、その漫画賞はレベルも高いうえ、自分の作品にもたくさんの拙い部分があったので悲惨な結果で終わりました(笑)。その後、せっかく描いたからと供養のつもりでpixivの方にアップしたのですが、そこで多くの方々からの反応だけでなく、賞までいただいたので嬉しさよりも驚きが勝りました。いきなり40ページ近い作品となってしまったので、制作中は後悔の連続でしたが、描いてよかったと心底思っています。
また、いただいた感想の中には、登場人物のセリフを素直に受け止める人もいれば、その裏に眠る感情を汲み取ろうとした人もいて、同じ作品でも捉え方が全く違うのがわかって面白かったです」
――今後の漫画制作での目標や、2023年の抱負について教えてください。
「ちゃんとした漫画作品を作ったのは初めてだったのですが、とてつもないエネルギーが必要だなと身に沁み、改めてプロの漫画家さんのすごさを感じました。今年はページ数を抑えてでもなるべく多くの作品を作って、技術を磨いていきたいです。また、漫画を描くきっかけとなったコミティアの方にも、本作をはじめいくつか作品を出品できればと思っています」

取材協力:むつ さとし(@MutsuSatoshi)