妊娠したら病気になっちゃった!?「妊娠糖尿病」体験記の作者と医者が語る妊娠糖尿病との向き合い方
インスリンを導入したほうが経済的?血糖測定が高額だった理由とは




――奥田さんは血糖コントロールをするために1日4回の血糖測定をする必要があったんですよね。
奥田さん:
はい、朝起きた時の空腹時血糖と、3食の食後2時間後血糖を測っていました。
――毎食2時間後となるとそのタイミングで外出したりしていると、測定も大変ではなかったですか?
奥田さん:
私は血糖測定用の機械を病院から貸し出してもらっていました。その時にポーチも一緒にもらっていたので、そこに測定に使う針とセンサーチップを何個か入れるようにして、必ず持ち歩くようにしていました。血糖測定は指に針を押し当てて血液を出し、その血液をセンサーチップに当てて測定するんです。指に不純物が付着していると正しい血糖が測れないので、事前にアルコール消毒が必要なんですが、コロナ禍ということもあって、どこでもアルコールがあったので、その点はやりやすかったですね。長女の七五三の衣装合わせの時にも、時間になったらトイレで測定していました(笑)。
――妊娠糖尿病では血糖コントロールが必要不可欠なので、食事療法だとしても日々の血糖測定が欠かせないのですね。経済的な負担はどうだったのでしょうか?
奥田さん:
産婦人科の診療では、妊娠糖尿病だからといって特別なことがあったわけではないのですが、糖尿科の受診料、栄養指導、それから血糖測定のための針とセンサーチップがすべて保険適用外で自費診療でした。「残り2カ月だから頑張ってね」と励まされたんですが、針とチップだけでトータル2万円ほどかかりましたね。妊娠初期から血糖測定をしていたら20万くらいかかってしまったことになるので、かなりの負担ですよね。
門岡先生:
これは、妊娠糖尿病における診断ポイントが理由なんです。75gブドウ糖負荷試験のような検査のことをOGTTというんですが、3回採血をしたタイミングで1回でも基準値以上だったら妊娠糖尿病と診断されます。ただ、通常保険適応になるのは、「1ポイント陽性で、BMIが25以上の方」もしくは「2ポイント以上陽性の方」になります。奥田さんのようにBMIが標準で1ポイントしか陽性でなかった場合は自費診療の扱いになってしまうんです。インスリン導入になると、病名がつけられるので保険適用になります。奥田さんは食事療法で頑張られてインスリン導入にならなかったから余計にお金がかかってしまいました。
奥田さん:
インスリンは嫌だ!という気持ちで食事療法を頑張っていましたが、それを知っていたら、ちょっと迷ったかもしれないです(笑)。
――余計な血糖を上げないためにも間食を控えられていましたね。妊娠前までは気にしていなかっただけに、我慢するのも大変だったと思います。どうやって気を紛らわせましたか?
奥田さん:
間食をしてしまうのは口寂しいのが問題なのかなと思って、そんなときは水分をとるようにしていました。普段、意識をしないと水分をとれないタイプなんですが、ルイボスティーとか桑の葉茶、ノンカフェインのコーヒーなどを飲むようにしたらだいぶ気が紛れました。どうしようもない時はナッツをかじっていることもありましたね。
門岡先生:
奥田さんがとられていた糖質を含まないものをおやつにするといったことは私もおすすめすることがあります。ただ、個人的見解も含みますが、日頃から妊婦さんには「ストレスを溜めすぎるのもよくないよね」とお話をしているんです。妊娠糖尿病の治療、その食事療法は自分と赤ちゃんのためにすること。その治療でストレスを溜めこんでしまう状況というのは肉体的にも精神的にも避けてあげたいところです。
――食事療法ではどんなことが一番大変でしたか?
奥田さん:
長女となるべく同じものを作って食べたいというのがあったんですが、それができなくって。もち麦ごはんだったり、サラダをたくさん取るようにしていたんですが、長女は食べないので別のものを用意する必要がありました。子供の世話をしながらというのもあって、食事の準備が一番大変でしたね。
――食事の記録をまめにとっていらしたようですが、これは毎日続いたのですが?
奥田さん:
1日も欠かさず、血糖測定のノートにみちみちと書き込んでいました。書いていると安心できましたね。毎食の内容を書き出すことで暴飲暴食を防ぐこともできました。
門岡先生:
ここまで毎日しっかり書かれる方は素晴らしいですね。食事の記録を取ると奥田さんのように振り返ったときの励みになりますし、急に血糖が上がってしまっているときにその原因がわかったりします。野菜、タンパク質、炭水化物の順番で食べると血糖値の上昇がマイルドになると言われていますが、「この日は外食でできなかったな」というように食事の状況がわかるんです。一過性の上昇であるならば、インスリンの量を増やす必要はないというように、医療介入にあたって我々も助かります。
――奥田さんは低糖質の食事をとられていました。病院では糖質制限はしないように話があったそうなんですが、糖質をカットするとどんな影響がありますか?
門岡先生:
赤ちゃんのエネルギー源って糖質、ブドウ糖がほとんどなんです。それが供給されないと、赤ちゃんが発育不全になってしまうんですね。そして、エネルギー源が不足していると、お母さんの貯金を切り崩していくことになります。通常の妊婦さんでも、妊娠後半になると赤ちゃんのニーズが高まってきて、相対的に糖質が不足することがあって、お母さんの脂肪を分解し始めてそれをエネルギー源にするんです。そうなるとケトン体というのが出始めて、体内のバランスが狂い、“アシドーシス”といって救急搬送されるような事態にもなりえます。ケトン体が溜まっている状態が続くと赤ちゃんのIQに影響するという研究もあります。
――ケトン体が出ているかどうかは尿検査でわかりますよね。出ていたらやめるというような認識でもいいんでしょうか?
門岡先生:
ケトン体って妊婦健診の必須項目ではないんです。毎回の妊婦健診時に尿検査自体はありますが、このときに見るのは尿蛋白と尿糖。しかも尿検査も毎日のことではなく、ほんの1、2週間に1回のことなので、そのとき大丈夫だからってOKというふうには言えないですね。なので、栄養指導に沿った炭水化物もきちんととって、それで血糖が上がるようだったらその分はインスリン注射で打ち消すようにしていただきたいです。
――なるほど。奥田さんは栄養指導で指示された炭水化物の量より少なめに食べていたそうですが、もともと指示されていた量は診断前に食べていた量よりは少なかったんでしょうか?
奥田さん:
それはもう(笑)。餃子とご飯とラーメンみたいに炭水化物たっぷりの食事でした。朝もカフェオレにはちみつを入れたり、パンにホイップクリームを絞っていちごジャムをのせたり……欲望の赴くままに食べてしまっていました(笑)。
門岡先生:
それはおいしそうです(笑)。
――運動はされていたんでしょうか?
奥田さん:
1人目妊娠時よりお腹が張りやすかったので、家事をテキパキするくらいでした。食べてすぐに座らないでねって言われていたので、食べた後は洗濯物を干したり、掃除機をかけたりして意識してキビキビ動いていました。夏だったので、夕方涼しくなったあと娘の保育園からのお迎えがてら散歩したりはしましたが、それくらいです。
門岡先生:
運動をすると、血糖が下がりやすくなったり、インスリンが効きやすくなったりということがあります。ただ、負荷がかかりすぎると、筋肉への血流が増える分、子宮の赤ちゃんへの血流が減るということがあるので、過度すぎず、危なくない、有酸素運動がいいです。「過度ではない」に対する1つの指標としては、心拍数が150くらいまで、と言われていたりします。なので、奥田さんがとられていた方法はよいですね。妊娠糖尿病でなくとも、お腹に張りがなく、赤ちゃんの発育に問題がなければ妊娠前にやっていた軽い有酸素運動であれば問題ないと言われています。