「自分が産んだ赤ちゃんに恐怖を感じる」壮絶な産後うつの経験を描いた漫画に反響の声多数【作者に聞く】
「赤ちゃんの泣き声が怖い、存在が怖い」ことが何よりもつらかった
出産後、自宅に戻り本格的な育児がスタートするなか、過呼吸のような症状と動機が激しくなる症状が出たため「肺や心臓に問題があるのでは」と、病院に相談に行った藤嶋さん。そこで初めて心療内科の受診を勧められたという。


「本当に動揺しました。心療内科ってことは『私の心とか精神的な話なの?心療内科や精神科はもっと繊細な人が抱え込んでつらくなって行くところでは?思ったことは口に出す私のような図太い奴が何故?』と思いました。全く自覚していなかったので寝耳に水のような感じでした。また、ワンオペで育児をして大変な人ならまだしも、家事は義母に、赤ちゃんも旦那が一緒にお世話してくれている自分のような人間が心療内科に行かなければいけないなんて、本当に何かの間違いではと思っていました」
そんな心の葛藤もあり、「心療内科なんて大げさでは。もう少し様子をみたい」と旦那さんにも話をして、心療内科、精神科への受診が遅れてしまったそうだ。


当時一番つらかった出来事や症状は、「自分が産んだ赤ちゃんに恐怖を感じる」ことだったという。「泣き声が怖い、存在が怖い、そう感じる自分の事も信じられないという感じで絶望的な気持ちでした。とにかくお世話はしなければいけないので、恐怖を感じながらオムツ替えや授乳を続けて、義母や旦那にも恐怖を感じていることは悟られないように必死でした。また、認知機能が落ちていて『何の服を着たらいいかわからない』『いつ授乳したのか時計を見てもわからない』という、霧が立ち込めている不思議な国に迷い込んだような奇妙な感覚があり、これもまた絶望しました」



焦らず絶望しないで、「感謝の気持ち」を持って周りに助けを求めることが大事
作品を読んでいくと、友人と電話で話したことが回復への第一歩になったという印象を受ける。「確かに友人に電話して自分の心情を吐露できたことは大きな出来事だったと思います。産後うつで心療内科に行った、他の人はひとりでだって子育てできているのに自分はできなくて弱いのが悲しい、身体がつらい、しんどいなど、何も考えずに感情のままに話したのですが、それを友人がただうんうんと聞いてくれて『産後はホルモンバランスが崩れるからだ、ホルモンバランスが全部悪いのであって、あなたはそれに振り回されているだけだ、あなたはがんばっている』とひたすら繰り返してくれて、電話が終わった後はびっくりするぐらい心が軽くなりました。本当にありがたかったです。『人に話す』だけでもこんなに違うのだなと」


産後1ヶ月と17日目に精神科を受診した藤嶋さんは、先生に「休むこと」や「罪悪感をもたないようにすること」を心がけるようアドバイスされた。意識して行っていたことを具体的に聞いた。「『助けてもらう』ことを積極的・能動的に行ったと思います。自分が回復するためには休まなければいけない→休むためには旦那や義母に赤ちゃんのお世話をお願いしなければいけない→そこで『罪悪感』が生じそうになったら『感謝の気持ち』に切り替えて休ませてもらう、という意識を常に自覚して忘れないようにしていました」




また、駅のホームで電車を乗り過ごした時に「ああ、電車が去ったことも気が付かなかったなんて自分ってやっぱり通常の状態じゃないんだな、病気の自分が赤ちゃんのお世話をミスして命を危険にさらすリスクが高いよりは、しっかりしてる義母と旦那に赤ちゃんのお世話を手助けしてもらった方が赤ちゃんのためにもなる。申し訳ないとか罪悪感とか言ってる場合じゃないぞ」とスイッチがカチッと切り替わる感覚があったそう。それがお世話をしてもらいつつ、休む覚悟を決めた時だったそうだ。「そこにつながるにはやはり『友人に電話してすっきりした』経験があり、人に助けてもらう効果を実感したからだと思います」




その後藤嶋さんは少しずつ体調も回復し、出産から1年と8日目に精神科への通院も終了。改めて産後うつで悩んでいる方に伝えたいことを聞いた。「産後うつという状況下に置かれたとしても焦らず絶望しないで、周りに助けを求めて下さい、とお伝えしたいです。私もそうでしたが、赤ちゃんのお世話をしなければいけないのに自分の心身の不調を感じると絶望するし、赤ちゃんは泣いていて混乱するし、『あっもうだめだ、生きられない、終わりだ』って思ってしまうのですが、そう思ってしまいやすい脳の状態になっているだけで、終わりじゃないです」
赤ちゃんのお世話に困難を感じるだけでなく、自分が日常生活を送ることに困難を感じる(例:気持ちが落ち込む、食欲がない、睡眠時間を確保しても眠れないといった症状が出る)ようになり、どう助けてもらえばいいかわからない場合は、出産した医療機関や産後の赤ちゃんの検診を行う保健所などに、産後うつかもしれないので具体的なサポートを受けたい旨を相談するのがいいと藤嶋さん。「自分で電話や連絡もできないという方は家族や友人、知り合いに頼んでも大丈夫。また、逆に相談を受けた家族の方や友人は『休めば治るのでは』とは思わず、医療機関や保健所、自治体の出産関係の科と苦しんでいる本人が確実につながるようにしてもらえればと思います」