森七菜、久しぶりの菅田将暉との共演は「“なんて心のある方なんだろう”と改めて感動」
東京ウォーカー(全国版)
第158回直木賞を受賞した門井慶喜の小説「銀河鉄道の父」を『八日目の蟬蝉』の成島出監督が映画化。役所広司が宮沢政次郎役で主演を務め、宮沢賢治役を菅田将暉、そして宮沢賢治の妹トシ役をいま世間から大きな注目を集める俳優・森七菜が演じている。実在する人物を演じて感じたことや、先輩である役所や菅田との撮影で印象に残ったエピソードなどを語ってもらった。
ここまでアドレナリンが出る役は初めてで「改めてお芝居のおもしろさを感じました」
――本作のお話をいただいた時はどのような心境でしたか。
【森七菜】最初にお話をいただいた時は“私にトシさん役が務まるのだろうか”と不安になりました。なぜなら、トシさんは実在する人物で、家族を引っ張っていくような力強い面もあれば、繊細で儚い面も持っているので、それをちゃんと表現できるのかわからなかったからです。
それに誰もが知っている宮沢賢治さんの妹を演じるなんて、なんだかビビってしまって(笑)。でも、成島出監督とお話ししていく中でだんだん気持ちが前向きになり、結果的に素敵な作品に出会えてよかったなと思いました。
――生前・無名の作家だった宮沢賢治は“ダメ息子”だったという大胆な視点を軸に、究極の家族愛を描いた本作の台本を読んでみてどんなことを感じましたか。
【森七菜】学生の頃、教科書に載っていた宮沢賢治さんの作品を読んだことがあるのですが、当時はまだ子供だったので、作品から堅苦しい印象を受けました。それで、今回お話をいただいてから原作の小説や資料を読んでみたら、“宮沢賢治さんって、こんなにおもしろい人生を歩んでいたのか!”と驚いて。
もう少し早く宮沢賢治さんについて知っていたら、もっと楽しく教科書を読めたのにと後悔しました(笑)。なので、この映画も絶対に多くの人たちに楽しんでいただけるものになるんじゃないかと、台本を読んで感じましたね。
――トシさんが生きていた時代は、「女子には勉学は必要ない」と言う人も多かったと思います。そんな中でも父親を説得して進学し、女学校の教師にまでなったトシさんを演じるにあたりご苦労された点はありましたか。
【森七菜】トシさんは頭脳明晰で、賢治さんの一番の理解者でもあったので、かなりプレッシャーを感じながら演じていました。ただ、自分では精一杯やっているつもりでも、監督からOKをいただけないことが何度もあったんですね。それはかなりキツかったですし、撮影期間中は滞在先のホテルに帰ってめちゃめちゃ凹む日もありました。
――凹んだ時はどうやって気持ちを持ち直したのでしょうか。
【森七菜】何がなんでも“やるしかない”ので(笑)、凹んでいる場合じゃないなと気持ちを切り替えていました。とにかく監督の要望に応えたい一心でやっていたらどんどん楽しくなってきて、ご飯を食べるのを忘れるぐらい役に集中していたこともありましたね。
本作の中でトシは病を患ってしまうのですが、自然と体が痩せていったので減量する必要がなかったです(笑)。ここまでアドレナリンが出る役は初めてでしたし、改めてお芝居のおもしろさを感じました。厳しいことを言ってくださった監督に感謝しています。
役所広司さん、菅田将暉さんと共演したことで「初心を忘れてはいけないんだと気付かされた」
――役所広司さん、菅田将暉さんとお芝居する中で刺激を受けたことがあれば教えていただけますか。
【森七菜】お二人とも大先輩ですが、役所さんは現場でずっと花巻弁(宮沢賢治の出身地である岩手県の花巻の方言)の練習をされていましたし、菅田さんは共演者への気遣いがすごくて、相手が“こうしてほしい”と思っているであろうことを常に察してくださいました。
そういう姿を見て、“いつまでも初心を忘れてはいけないんだな”と気付かされましたし、言葉ではなく態度で示してくださったお二人には感謝しています。
――田中泯さん演じる祖父の喜助をトシがビンタするシーンがありましたが、緊張しませんでしたか。
【森七菜】これまで“怒りにまかせて人を叩く”というお芝居の経験はあったのですが、 今回は怒りだけじゃなく相手に対する愛情を込めて叩かなければならなかったので、すごく難しかったです。しかもあのシーンはワンカットで1発撮りだったので、流れを大事にしつつも“叩く”というお芝居に複雑な感情を集約しなければいけなくて。
これはかなり難易度の高いことを求められているなと気負ってしまったのですが、共演者のみなさんに助けていただきながら無事に演じることができました。
――例えばどのようなサポートがあったのでしょうか。
【森七菜】菅田さんが、弟の清六と妹のクニを演じた子役の子たちに『いまから大事なシーンだからみんなで頑張ろう!』と言って、本当のお兄ちゃんのように現場を引っ張ってくださったんです。それがすごく印象に残っています。
――菅田さんとは2009年に放送されたドラマ「3年A組 ―今から皆さんは、人質です―」でも共演されていましたね。
【森七菜】はい。当時も生徒役のキャスト全員にものすごい熱量で接してくださっていましたが、今回の現場も当時とまったく変わらず真摯に作品や共演者のみなさんと向き合っていたので、“なんて心のある方なんだろう”と改めて感動しました。
――完成をご覧になってみていかがでしたか。
【森七菜】全国の学校で鑑賞会をやって欲しいと思うような作品になっていました。そうすれば教科書に載っている宮沢賢治さんの作品にもっと興味を持つ学生や作家を志す人が増えるかもしれないですよね。ユーモラスなシーンも結構あるので、楽しく観ていただけると思います。
あと、登場人物それぞれの心情に寄り添いながら観ると、みんな“家族”のことを思っているのが伝わってくるので、そこにグッときました。そういったところにも注目してご覧いただけたらうれしいです。
――森さんにとって本作はどのような作品になりましたか。
【森七菜】やはり役所さんと菅田さんから学んだことが多かったので、なんというか…以前よりも胸を張って他の現場に行ける自信がついたような気がします。なので私にとってすごく大切な作品になりました。
免許を取ったら「仙台までドライブしておいしいもの巡りがしたい」
――森さんはアーティストとしても活動していらっしゃいますが、アーティストの先輩でもある菅田さんと音楽の話で盛り上がることもあったのでは?
【森七菜】菅田さんとは現場で音楽の話をたくさんしたわけではないのですが、ある日『森さんの「スマイル」っていい曲だよね。あれを聴いたら笑顔になるしかないやんな』って言ってくださったのはうれしかったですし、励みになりました。いつか機会があれば、もっと菅田さんと音楽のお話ができたらいいなと思っています。
――俳優業とアーティスト業を両立していく中で何か気付いたことがあれば教えていただけますか。
【森七菜】俳優のお仕事は、自分というものを消して役になることが大切ですが、音楽活動の場合は“自分が伝えたいこと”を表現できるので、全く真逆なことをしているなといつも思います。でも、その両方を経験できるというのはすごくありがたいです。
――今後挑戦してみたいことは何かありますか?
【森七菜】いつか車を運転するシーンを演じることがあるかもしれないので、そろそろ免許を取らなきゃと思っています。無事に取得できたらお友達を乗せてドライブに行ってみたいです。
――ドライブで行きたい場所はありますか?
【森七菜】撮影で仙台に行った時に、おいしいご飯屋さんがあって、おいしいものをたくさん食べたんですね。それで、撮影から帰ってきてからしばらくして、プライベートでも仙台を訪れて食べ歩いたことがあるんです(笑)。魚が新鮮で本当においしいんですよ!なので免許を取ったら仙台までドライブして、おいしいもの巡りをしたいです。
取材・文=奥村百恵
◆スタイリスト:申谷弘美(Bipost)/Shintani Hiromi(Bipost)
◆ヘアメイク:yosine./宮本愛
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