コーヒーで旅する日本/四国編|年輪を重ねた喫茶店を継承。「仏生山珈琲 回」が体現する、懐かしくも新しい街の憩いの場

東京ウォーカー(全国版)

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懐かしくも新しい、オリジナルの喫茶店メニュー

中煎りの回ブレンド450円。シナモンの香りも鮮やかな、全粒粉キャロットケーキ500円

歳月を重ねた空間のみならず、喫茶店の雰囲気に似つかわしいオリジナルメニューも考案。コーヒーはLIMA COFFEE ROASTERS KAWARAMACHIで焙煎するスペシャルティグレードの豆を使うが、ここではシングルオリジンは置かずブレンドのみ。浅煎りから深煎りまで、焙煎度の異なる4種類を定番として提案している。

「それぞれのブレンドは3種以上の豆を配合して、喫茶店のコーヒーをより洗練させた味わいをイメージしています。なかでも、飲みやすく風味のバランスが取れた中煎りの“回”は、すべてのセットドリンクとしても提供する看板ブレンド。“仏生山”は、かつて銀嶺で出されていたコーヒーをベースにした中深煎りで、まろやかなコクと甘味はゆったりとした界隈の土地柄を表現しています」と山口さん。メニューには、3種のブレンドを選べる飲み比べセットもあり、個性豊かな味わいをあれこれ楽しめるのは、コーヒー好きにうれしい趣向だ。

「ハンドドリップは、淹れる人によって味わいが変わるのも魅力」と山口さん


抽出はすべてハンドドリップ1杯立て。淹れる人によって風味が変わるのも、この店の魅力の一つだ。「同じブレンドでも、より甘味が出たり、よりコクが出たりと、人それぞれのキャラクターが味にも出てきます。それが逆に、“この人のドリップで飲みたい”という、お客さんの好みにもつながって、なかにはご指名を受けるファンが付いているスタッフもいます」。店としてはブレずに抽出するのが本来のあり方だが、それをあえて個性として出す大らかさも、この店ならではだ。

飲み比べ(ブレンド3種)1200円。仏生山ブレンドはアメリカーノでの提供も可能


また、スタンドスタイルのLIMA COFFEE ROASTERS KAWARAMACHIとは対照的に、軽食やスイーツのバラエティも豊富。朝のモーニングに始まり、鉄板ナポリタンやハヤシライス、海老チャーハンにピザトーストと、喫茶店に欠かせない王道のメニューがずらり。とりわけ、タマゴサンドは、パンからはみ出しそうな分厚い玉子焼きのインパクトが話題を呼び、いまや名物メニューとして人気を集めている。さらにスイーツにも、チーズケーキやプリンなどの定番に加えて、ほろりとした口当たりが後を引くキャロットケーキやあんバターをのせたパウンドケーキなど、懐かしくも新しい一品が好評だ。

卵を3個使った、一番人気の厚焼きたまごサンド850円。香川独特のだし醤油を使った玉子は、じゅわっと染み出す香ばしい旨味が後を引く


変わりつつある街に根付いた、新しい拠り所に

大きく窓が開けた前面のスペースは、元々クリーニング店だった場所

長年続いた銀嶺の面影を残しつつ、店構えもメニューも装い新たになったが、訪れるお客もまた新たに入れ替わっている。「昼間はご年配の方が多いですが、5年ほど空いたままの期間があったので、ここに喫茶店があったことを憶えてる方はおられても、以前の常連さんはあまりいらっしゃらなくて」と山口さん。というのも、近年、仏生山周辺は県外から移住する人が増えつつあり、お客の中には単身赴任の会社員や近隣の大学に通う学生の姿もよく見られるとか。週末には、県外から訪れる観光客や、喫茶店好きの若い世代も加わり、新たな客層の変化を感じているという。実際、駅前周辺は大規模な再開発が進み、街なかにも古民家を改装したサンドイッチやプリンなどの専門店も相次いでオープンしている。

張りのある細めのパスタを使用した、鉄板ナポリタン900円。黄身を絡めるとよりまろやかな味わいに


「仏生山珈琲 回」も、そうした街の変化に呼応する存在だが、コロナ禍の中で始まった店は、まだ完成形ではないという。「最初は壁の絵とか花瓶とか、床の絨毯もない状態で始まったので、今も店内はちょとずつ変わっていっています。仏生山はターミナル駅なので、電車やバスの待ち合わせをするお客さんも多い。特に雨の日は増えるので、ガラス張りのスペースをずらしてベンチを置いて、雨宿りスペースを作たらどうかな、と考えています」と、この場所だからできることに想像を巡らせている。

壁を飾る絵の中には、銀嶺時代のシンボルだった、白銀の山々を描いた一枚も


長らく親しまれてきた喫茶店を受け継ぎ、新しい街の拠り所となるべく変化を続けている「仏生山珈琲 回」。コーヒーもまた、毎日、繰り返し飲む中に微細な変化を楽しめるもの。店名には、コーヒーを通して回っていく街の日常を支える場でありたいとの思いが込められている。「街自体が変わりつつある中で、その一部として共に根付いていけるように、これからまだまだやるべきことは多い。まずは10年続く店を目指していきたいですね」

中庭には、姉妹店のコウベアガベショップで取り扱う、巨大なアガベが葉を伸ばす

回の字をモチーフにした木彫の看板。よく見るとコーヒー豆の形もあしらわれている


山口さんレコメンドのコーヒーショップは「珈琲と本と音楽 半空」

次回、紹介するのは、高松市の「珈琲と本と音楽 半空」。「繁華街の真ん中にあって、本がずらっと並んだ隠れ家的な空間は唯一無二。夜の雰囲気が好きで、目の前でネルドリップする濃厚なコーヒーだけでなく、お酒も飲めるので食事のあとによく立ち寄ります。店長・佐藤さんのカウンターでの所作もかっこよくて、会話を目当てに訪れるお客さんも多い。ディープな場所ですが、入った瞬間に独特の世界観に引き込まれます」(山口さん)

【仏生山珈琲 回のコーヒーデータ】
●焙煎機/なし(LIMA COFFEE ROASTERS KAWARAMACHI)
●抽出/ハンドドリップ(ハリオ)、エスプレッソマシン(ラマルゾッコ)
●焙煎度合い/浅~深煎り
●テイクアウト/ あり(450円~)
●豆の販売/ブレンド5種、100グラム660円~

取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治

※新型コロナウイルス感染対策の実施については個人・事業者の判断が基本となります。
※記事内の価格は特に記載がない場合は税込み表示です。商品・サービスによって軽減税率の対象となり、表示価格と異なる場合があります。

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