コーヒーで旅する日本/四国編|日々のにぎわいから広がるコーヒーの楽しみ。絶えず新たな試みを重ねてきた「とよとみ珈琲」の20年
東京ウォーカー(全国版)
お客の好みに寄り添う、親しみやすい味作りと懐深い提案

師匠と呼べる存在との出会いを経て、「35歳までに独立したい」との思いを形にしたのは2003年。父親から受け継いだ木工所の跡地を改装し、自家焙煎の喫茶店として「とよとみ珈琲」はスタートした。当初は喫茶がメインで、モーニングからランチ、スイーツまでメニューも充実。徳島に新たに登場した開放的な空間は、街はずれにありながら、開業間もなく地元の支持を得る人気店となった。「当時は、“これほど順調な滑り出しは珍しい”と言われたほど、いいスタートを切れました。まだまだ試行錯誤の部分はありましたが、コーヒーに詳しくない一般の方々にもわかりやすく、楽しんでもらう場作りという点では、販売の経験が生かされたと思います」と振り返る。
しかし、順風満帆に見えたが、やがて焙煎の壁に突き当たったという豊富さん。「ある時期から行き詰って、いい豆を使っても理想とする味が出せなかったんです。すべてを準備しても必ずうまくいくとは限らないんですね」と、焙煎という仕事の難しさを改めて感じた。それでも考えた末に、2010年に焙煎機を、それまで使っていた半熱風式から完全熱風式に入れ替えた。当時、フジローヤルが新たに開発した最新鋭機・レヴォリューションであり、「とよとみ珈琲」にあるのは、その第1号機だ。

「味の改良が目的でしたが、メーカーやロースターが一緒になって新たな機体を作ろうという、開発経緯に感銘を受けたことも大きかったですね」という。新型の導入後は、焙煎時の細やかな操作性とプロセスの再現性によって、味作りのクオリティが飛躍的に高まった。同時に2011年からは、松本さんと共にインドネシアやコロンビア、グァテマラなどのコーヒー産地を訪問。とりわけ、2016年にブラジルを訪れた際は、ジャパンロースティングチャンピオンシップ優勝者の沖縄・豆ポレポレの店主・仲村さん、神戸のLANDMADE店主・上野さんら気鋭のロースターと同行。焙煎の技術について話す機会を得て、大いに刺激を受けたという。
「とよとみ珈琲」の創業以降、スペシャルティコーヒー専門店の傾向は、浅煎りが主流になっていったが、ここでは当初から中深煎りが中心。4種の定番ブレンドは、コロンビアベースのまろやかな中深煎りのとよとみブレンド、深煎りの醍醐味を追求したイタリアンブレンドなど、飲みやすく飽きの来ない味わいが、この店の顏。8種のシングルオリジンも同様、スペシャルティコーヒーならではのキャラクターを生かしつつ、柔らかな酸味と甘味、どこか親しみやすい“コーヒー感”が持ち味だ。
「中深煎りは自分好みの味というのもあるし、最初の頃は浅煎りを仕上げるのは技術的に難しかった。増やしたのは割と最近のこと。ただ、いずれも、豆に合う淹れ方などは勧めますが、その好き嫌いはお客さん次第。いろいろある中から、ここで好みを見つけてください、というスタンスが基本」と豊富さん。懐深い提案も、幅広い世代に支持を得る理由の1つ。

店作りはいまだ途上、20年を経ても尽きぬ探求心

ゼロからスタートして、日々の地道な提案を積み重ねて20年。いまやすっかり“わが街のコーヒーショップ”として定着した「とよとみ珈琲」にとって、大きな転機となったのが2020年。コロナ禍を機に、喫茶店から豆の販売・テイクアウト専門店へと大きくリニューアルした。予想外の出来事が契機になったとはいえ、すでにそれ以前からスペシャルティコーヒーが広まり、店も増える中で「今後は家庭で飲むコーヒーが主流になる」と実感していたという。「お客さんから豆についてきかれることが増えていましたが、喫茶の対応に追われて、しっかりお話しできない状況を危惧していました。本来、コーヒーに関心を持つ人との会話が一番やりたかったこと。コロナの時期は、改めて原点を見直す機会になりました」
かつて喫茶店のカウンターだった場所は、生豆やポップがにぎやかに並び、お客が会話をしながらじっくりと好みのコーヒーを選べる空間に生まれ変わった。「この形なら、豆を選ぶときに都度、質問を受け付けてじっくりマンツーマンで話せるし、目の前で抽出の実演をしながらおすすめできる。通販でも買えますが、やっぱり、実際に体験してもらいたい。それによって、お店もにぎやかになりますし」と豊富さん。いわば滞在型ショップのスタイルで、お客が再び店を訪れたくなる店作りにフォーカスしている。「豆の販売が本分ですが、この店で文化としてコーヒーを楽しむ時間を作りたい。話だけ聞いていってくれてもいいですし、いかにリピーターになってもらえるかに注力する。目先の利益を求めず、それを続けていれば、結果は後からついてくると思うんです」

豊富さんが伝えたいのは、豆や器具のことだけに留まらない。「2050年問題をはじめ、今のコーヒーを取り巻く状況を伝える場にできれば」と、かつて貸しスペースだった2階は、コーヒーに関する書籍や資料が見られるギャラリー&ライブラリーに改装。この店を訪れたら、焙煎や抽出のことはもちろん、産地や流通、栽培の現状、最新の情報まで、コーヒーの世界をトータルで知り、楽しめる場を目指している。それゆえ、豊富さんにとっての店作りは、いまだ途上だ。「初めてコーヒーを淹れるという方、ここなら間違いないと聞いてくるお客さんが増えてきたのはうれしいこと。でも、まだまだやるべきことはいっぱいある。まだ知らない全国のコーヒー店を巡ってみたいし、コーヒーの栽培に影響する地球環境の変化も気になる。日々勉強を重ねて、また新しいことに取り組んでいきたい」。屈託ない笑顔を見せる豊富さんは、開店から20年を経てなお学び続ける意欲に満ちている。

豊富さんレコメンドのコーヒーショップは「TOKUSHIMA COFFEE WORKS」
次回、紹介するのは、同じ徳島市の「TOKUSHIMA COFFEE WORKS」。「以前は珈琲美学という名前で長年、地元に親しまれてきた、徳島の自家焙煎コーヒーのパイオニア的存在です。僕が高校時代から憧れのお店で、当時はここでコーヒーを飲むのがステータスで、デートのときなどはよく使わせてもらいました(笑)。店主の小原さんは、同業者になった今も優しく声をかけてくれる尊敬する大先輩。心の底から、この店があってよかったと思える存在です」(豊富さん)
【とよとみ珈琲のコーヒーデータ】
●焙煎機/フジ レヴォリューション5キロ(完全熱風式)、プロバット12キロ(半熱風式)
●抽出/ドリップマシン(TONE)、エスプレッソマシン(ラマルゾッコ)
●焙煎度合い/浅~深煎り
●テイクアウト/ あり(400円~)
●豆の販売/ブレンド5種、シングルオリジン8種、100グラム700円~
取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治
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