着古した学生服を原料まで戻し、糸から再生し紡ぎ直す… ニッケが実施する「循環型学生服」の中身に迫る

2022年6月21日 15:00更新

東京ウォーカー(全国版)

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ニッケの学生服におけるSDGsに迫る

学生時代、自分が着ていた制服を、わが子が着る……こんなロマンチックで環境にも優しい「循環型学生服」の実証実験を、学生服生地を多く製造する日本毛織株式会社(以下、ニッケ)がスタートさせた。

ニッケはウールの総合メーカーとして1896年に創業。以来、数多くのウール製品を世に送り出してきていることはご存知の通りだと思うが、SDGsというワード・概念が誕生する以前から数多くの環境や人に配慮した取り組みを実施するメーカーでもあった。

現在は「繊維」「非繊維」といったカテゴリーさえ飛び越え、「人と地球に『やさしく、あったかい』」企業グループを目指している。今回はそんなニッケによる「循環型学生服」の実証実験とは何かについて紹介したい。

ニッケが目指す「循環型社会」への取り組みは、身近なところから最新素材の開発まで


冒頭でも触れたニッケの環境や人に配慮した取り組みは枚挙にいとまがないが、特に「循環型社会」を目指すものとしては、以下の3つが象徴的だ。

【1】50年コート“親子3代受け継がれるウールのコート”
50年前に母が着用していたニッケ製スクールコートを実娘が愛用。裏地などの傷んだ箇所をニッケが修理。品質の高さと柔軟なサービスに、利用者はさらに親子3代で着続けたいと考えているという。

【2】“プラスチックの代替品“ウール樹脂の開発
ウールを含む衣服などの廃材を破断・粉砕した後、ウールのたんぱく質成分を取り出し、高温・高圧で圧縮すると高性能プラスチック並みの物性を有する樹脂状成形体が得られる。これらの成形体をウール樹脂と呼び、プラスチックと同様の切削加工が可能。服飾関連で使われるプラスチックの代替を目指す。

【3】炭素繊維のリサイクル技術の開発
新素材「リサイクル炭素繊維(以下、RCF)」はCO2排出削減の切り札とも言うべき先端材料。鉄に比べ重さは約4分の1、強度は10倍以上と軽量で高強度、耐熱性にも優れるこの素材の開発に取り組んでいる。

この他にもさまざまな社会的な取り組みを実施しているが、「循環型社会」を目指すという意味で、特に【1】に近いものが今回紹介する「循環型学生服」の実証実験である。

SDGs教育に注力する駒場学園高等学校の要望を受けて、実証実験をスタート


この「循環型学生服」発案は、かねてからSDGs教育に注力してきた駒場学園高等学校の要望に応える形で約1年前に取り組みがスタートしたという。

具体的には、着古されたウール混の学生服をいったん原料の状態まで戻し、糸から再生させて、また学生服をつくるというもの。素人からすると、前述のようなリサイクルにおけるさまざまな知見があるニッケなら簡単にできそうにも思うが、実際はそう容易いものではないようだ。ニッケ担当者は、特に大変な点についてこう語る。

「解体した学生服のパーツを原料(ワタ)の状態に戻す工程(反毛工程)の改良が大変でした。この工程は外部の協力業者に委託していますが、学生服用生地の糸づくりに耐える良質の原料に戻すために、共に汗をかきました。また、従来では難しかった繊維長の短い反毛原料を用いて学生服用の細くて強い糸(梳毛糸)を紡績するという当社の独自技術を開発し、今回の『循環型学生服』の実証実験にたどり着くことができました」(ニッケ・担当者)

【画像】駒場学園高等学校の要望を受けて実証実験に至った「循環型学生服」のプロセス図


学生たちからは「これまでになかった取り組みが面白い」といった声も


これらニッケの「循環型制服」の取り組みは現時点では、駒場学園高等学校を舞台とした実証実験の範疇ではあるが、仮にこれが世に浸透すると、環境面でどんなメリットがあるのだろうか。

一つは従来捨てられていた制服を再利用することで、廃棄物の削減につながること。そして、なによりも重要なのは、身近な制服という存在を通じ、学校教育の中で「環境」について考えるきっかけになり、環境配慮に意識の高い人材育成につながることである。

始まったばかりの実証実験ではあるが、実際に駒場学園高等学校の学生たちからは「これまでになかった取り組みで面白い」「処分に困っていた制服が後輩に使ってもらえるのはありがたい」などの声があがっているという。すでに教育的側面では大きな効果が得られていると言い換えて良さそうだが、この有意義な取り組みのさらなる浸透、飛躍に期待するばかりだ。

ニッケの企業文化や業務に組み込まれたサステナブルな活動

ニッケでは本来廃棄されるはずの羊毛から肥料をつくる実験もスタート。あらゆる面でサステナブルな取り組みを実践している


ニッケはSDGsというワード、概念が生まれる以前からサステナブルな取り組みを実施し、特に2008年からはグループ全体で「人と地球に『やさしく、あったかい』」といった経営理念を掲げてきた。最後にニッケ担当者に、その思いを聞いてみた。

「弊社の環境への取り組みは、近年のESG経営やSDGsの潮流に迎合したものではありません。創業以来、天然繊維ウールを扱ってきた当社にとっては、もとよりその企業文化や業務に組み込まれてきたものでした。この伝統に従い、これまで通りライフサイクルまで考慮した商品開発や、地球環境にやさしいものづくりに取り組んでまいります。

さらに、グループのうち衣料繊維事業本部では、事業ミッションを『長年培ってきたウール・合繊技術を活用し、世界の人々に“快適な生活”を提供し続ける』こととしています。このミッションの実現に向け、全ての経営活動で環境を意識しながら、消費者の視点に立ったビジネスプロセス改革に取り組んでまいります」(ニッケ・担当者)

ニッケグループの衣料繊維事業が掲げるビジョン「Weaving for the future(未来を織りなす)」の3つのコミットメントと9つのアクション


一般にはなかなか気づかなかったことだが、人々の生活の中で大切な役割を果たしてくれていたニッケ。人の体を包み温めてくれるだけではなく、私たちの未来を温めながら、ニッケは今も進化し続けている。

撮影・文:松田義人(deco)

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