弟は海外で人気に火がつき“逆輸入”、姉は“幻の技術”。共に入手困難…注目の陶芸家姉弟に迫る

東京ウォーカー(全国版)

X(旧Twitter)で
シェア
Facebookで
シェア

日本各地に受け継がれている、さまざまな伝統工芸。少子高齢化が進み、作り手の後継者不足が叫ばれる一方で、伝統工芸の世界に魅力を見出し、現代的なアイデアを加えて技術を継承する職人もいる。世代やジャンルを超えた“古くて新しい”日本の伝統工芸の世界を紹介していきたい。

陶芸のまちとして知られ、「せともの」の語源にもなった愛知県瀬戸市。ここに現在、手掛ける作品が人気のあまり入手困難となっている陶芸作家姉弟がいる。彼らが生み出す作品は、展示会で“購入するための権利”が抽選になるほどの人気ぶりだ。

練り込み陶芸作家の水野智路さん(左)と、陶磁胎七宝作家の水野このみさん(右)photo by Kanji Furukawa / (C)KADOKAWA

祖父と父は、瀬戸市の無形文化財にも指定されており、約1300年の歴史を持つ「練り込み」という装飾技法を用いて作品を生み出す陶芸家。そんな家庭で育った姉弟だが、手掛ける作風はそれぞれ異なる。弟の水野智路(ともろ)さんは、3代目として練り込み技法を継承。姉の水野このみさんは幻の七宝と呼ばれる「陶磁胎七宝(とうじたいしっぽう)」の技術で作品を制作している。

海外からも注目される「飾り寿司」のような陶芸

水野智路さんが継承する「練り込み」とは、果たしてどのような技法なのだろうか。「細かく絵柄を設計してから作るので、多くの方が考える“陶芸”とは少しイメージが異なるかもしれません」と智路さんが語る通り、その制作過程は長く複雑だ。

「色付けした粘土を、設計した絵柄に合わせてドット絵のように積み重ねて模様を作ります。それをスライスして板状の粘土を切り出し、ろくろなどで形成していきます。切り口に同じ柄ができるのが特徴なので、飾り寿司をイメージしてもらえればわかりやすいと思います」(智路さん)

水野智路さんが手掛ける、練り込み技法で作った器。パンダや星など、ポップでどこかゆるい味わいが人気だphoto by Kanji Furukawa / (C)KADOKAWA

練り込みの器は絵付けのそれと異なり、表も裏も同じ柄になる。色粘土を積み重ねるために膨大な時間が掛かるが、そのぶん、絵付けでは出せない独特の味わいが生まれる。智路さんは伝統的な練り込みの模様に留まらず、自身のアイデアでユニークな柄を編み出し、今では国内外から熱視線を浴びている。しかし、作家として独り立ちするまでには苦労もあったと振り返る。

「どこかに勤める」という発想がなかった

自宅の1階に陶芸工房があり、幼いころから祖父や父の横で粘土に触れ、時には練り込みの作品も作ってきたという智路さんとこのみさん。「自分も将来は陶芸をやるんだろうな」と感じながら育った智路さんにとって、陶芸家になることに迷いはなかったという。

地道に繰り返される作業の末に、唯一無二の作品が出来上がるphoto by Kanji Furukawa / (C)KADOKAWA

「そもそも、『どこかに勤める』という考えが自分の中になかったんです。ものづくりが好きで何かを作る仕事がしたいと思っていて、たまたま親が練り込み技法の陶芸家だったので、僕も自然にこうなりました。もし、生まれたのが陶芸家の家じゃなかったら…。木工とか、刀鍛冶とか、バットを作る職人さんとかになってみたいかな(笑)」(智路さん)

しかし、陶芸家として生活をしていくのは決して容易ではなかった。智路さんは大学を卒業した後、陶芸の専門学校を半年で退学し、その後はアルバイトをしながら練り込みの陶芸作品を作り続けた。

水野智路さんが制作した伝統的な鶉手(うずらで)模様(右)、網代(あじろ)模様(左)の器photo by Kanji Furukawa / (C)KADOKAWA

「当時は展示会に出展しても、1週間で1個しか売れないなんてことも。そもそも練り込みというもの自体が知られていないので、『練り込みってなに?』『絵付けとどう違うの?』という説明をするだけで精一杯でした」(智路さん)

突然、海外から注目を浴びる

そんな智路さんに転機が訪れたのは、2016年のこと。Instagramにアップしていた制作風景の動画が海外から注目されはじめた。

「ある日、『動画を自分のWebサイトに転載していいですか?』と海外の方からメッセージをいただいたんです。それがきっかけでフォロワーが100万人以上いる海外の陶芸紹介サイトにも転載されて、フォロワーが爆発的に増えました。今でもフォロワーの6〜7割は海外の方です」(智路さん)

さらにその約1年後、「海外から注目される陶芸作家」として“逆輸入”のような形で日本のメディアでも取り上げられるように。2022年10月現在、智路さんのInstagramのフォロワー数は18万人におよぶ。

粘土を切り糸でスライスし、柄の断面が表れる様子を記録した智路さんの制作風景には驚きとワクワク感があり、人気になるのも頷ける。

「ありがたいことに作品を購入してくださる方が増えたので、2017年にアルバイトを辞めて、そこからは陶芸1本に。それでも未だに『バイトをしていたほうが今より収入がよかったのでは…?』と思うこともありますよ(笑)」(智路さん)

  1. 1
  2. 2
  3. 3

この記事の画像一覧(全16枚)

キーワード

テーマWalker

テーマ別特集をチェック

季節特集

季節を感じる人気のスポットやイベントを紹介

いちご狩り特集

いちご狩り特集

全国約500件のいちご狩りが楽しめるスポットを紹介。「予約なしOK」「今週末行ける」など検索機能も充実

花火特集

花火特集2025

全国約900件の花火大会を掲載。2025年の開催日、中止・延期情報や人気ランキングなどをお届け!

CHECK!全国の花火大会ランキング

CHECK!2025年全国で開催予定の花火大会

おでかけ特集

今注目のスポットや話題のアクティビティ情報をお届け

アウトドア特集

アウトドア特集

キャンプ場、グランピングからBBQ、アスレチックまで!非日常体験を存分に堪能できるアウトドアスポットを紹介

ページ上部へ戻る