コーヒーで旅する日本/関西編|素材の風味を生かしたチョコレートとスイーツが充実。コーヒーとの多彩なペアリングを日常の憩いに。「YARD Coffee & Craft Chocolate」

関西ウォーカー

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

広々として開放的な店内は、街なかにいることを忘れさせる


関西編の第46回は、大阪市天王寺区の「YARD Coffee & Craft Chocolate」。店主の中谷さんは、父親が営む大阪のフランス菓子専門店・なかたに亭のエッセンスを受け継ぎながら、自店ではスペシャルティコーヒーを軸に新たなスタイルを提案。スペシャルティコーヒーと、ビーン トゥ バーのチョコレートの二枚看板で、地元の憩いの場に新たな楽しみを広げている。開店から3年を経た今年、焙煎所もオープンし、ロースターとしても本格始動した注目の一軒だ。

店主の中谷さん


Profile|中谷奨太(なかたに・しょうた)
1987(昭和62)年、大阪市生まれ。大学卒業後、東京で情報システムコンサルティング会社に勤めた後、コーヒーの世界へ転身。スペシャルティコーヒー専門店・GLITCH COFFEE & ROASTERSに移り、2018年に支店の立ち上げ・運営を担当。2019年、大阪市天王寺区に「YARD Coffee & Craft Chocolate」をオープン。2022年に、新たに焙煎所も開設。

地元の人々が集う“庭”のような場所に

店の向こうに広がる天王寺公園は、動物園や美術館などが集まる市民の憩いの場

上町台地の南端、茶臼山一帯に広がる天王寺公園の入口。街なかにあって、緑豊かなロケーションに立つ「YARD Coffee & Craft Chocolate」には、園内の散歩帰りの人も多く、開店から立ち寄る人の姿が絶えない。庭を意味する店名の通り、窓外に木々の緑が映える広々とした空間は、心地よい開放感に満ちている。「開店前に、サンフランシスコで現地のコーヒーショップなどを見てきた時、倉庫を改装したような広い空間が多くて。何より、そこに近所の人々が気楽に集まる、地元に根付いている雰囲気に心惹かれて、自分でもこんな店が作れたらとイメージしました」

そう話す店主の中谷さんにとって、この界隈はまさに地元であり、生まれ育った実家は同じ区内にある、大阪の名パティスリー・なかたに亭。と聞けば、カフェの仕事と縁が深そうだが、実は、大学卒業後は、長らく東京で会社員として働いていたという中谷さん。「高校時代に進路を選ぶ際、製菓の専門学校か、大学か、悩んだ時期はありました。家業の影響もあり、甘いものは好きでしたが、それだけで仕事にしていいものかと考えていて。父親の仕事には興味があったので、実際に体験してみようと、見習いとして1年ほど菓子作りをしたことはありました。現場は緻密な作業の連続で、それ自体は性に合っていましたが、続ける自信までは持てなかったんですね」と振り返る。

「学生時代から始めたコーヒーのドリップが、今に至る原点の一つ」と中谷さん


一方、学生時代からのコーヒー好きで、当時から自宅でも豆を買って、ドリップして淹れることは、当たり前になっていた中谷さん。当時は、日本にもアメリカのサードウェーブの流行が聞こえ始めた頃。中谷さんが上京した時には、東京のコーヒーシーンも盛り上がりを見せ始めていた。2012年に、海外1号店として東京・代々木にオープンした、ノルウェーのコーヒーショップ・FUGLENも、当時話題を呼んだ一軒。ここで、スペシャルティコーヒーを初体験し、「コーヒーの概念が変わった」というほどのインパクトを受けた。以来、都内各地のコーヒー店を巡り、コーヒーへの関心を深めたことが、後の大きな転機につながることになる。

新たな転機となったクリスマスの出来事

ショーケースに並ぶ14~15種のスイーツのほか、焼菓子も販売

実はちょうどこの頃、一度は諦めた家業に再び関心を向ける出来事があった。「きっかけはクリスマス。なかたに亭が一番忙しい時期で、帰省の際に、店先に並ぶお客さんの列の整理などを手伝っていました。その時、寒い中でも多くの人が待っている人を見て、“父が作るお菓子にはこんなにもファンがいて、愛されているんだな”と改めて感じ入ったんです。そこで、改めて考えたんです。お菓子は作れないけど、自分なりに何か一緒にできること、店にプラスになることができないないかと」。その時に、思い浮かんだのはコーヒーだった。

そこから、中谷さんの行動は速かった。本格的にコーヒーの世界に進むため、数々訪れた東京のコーヒー店の中で一番と、自らが感じたGLITCH COFFEEの門を叩く。「会社の近くにあって、よく通っていたのですが、ここでパナマ・ゲシャを飲んだ時の驚きは、今でも覚えているくらい」と中谷さん。ここでコーヒーのイロハを学ぶ傍ら、新店舗の立ち上げの際には、自ら手を挙げ責任者として、立ち上げ、運営を担当。この積極的な姿勢によって、さらなる人の縁を広げることになった。

「ある時、大阪のaoma coffee店主・青野さんが、お客さんとして来て下さったのがきっかけで、交流が始まって。その後、青野さんが当時勤めていたエンバンクメントコーヒーのイベントゲストとして、GLITCH COFFEE店主・鈴木さんと一緒に参加する機会がありました。その時に、京都のWEEKENDERS COFFEEの金子さんやSTYLE COFFEEの黒須さんとも出会って、期せずして関西のコーヒーシーンにつながりが広がりました」

滑らかな舌触りとカカオの芳香、ミルキーな余韻が贅沢なクレームショコラ600円(手前)。フランスの伝統菓子・ガトーバスク570円(奥)は、サクサクとほどける生地と、チョコカスタードクリームのまろやかな甘みがコーヒーを呼ぶ一品。


GLITCH COFFEEでの2年を経て大阪に戻るころ、すでに多くの縁を得ていた同業の先輩たちの存在は、「YARD Coffee」開店後も中谷さんにとって大きな支えとなった。当初は修業先のGLITCH COFFEEから豆を仕入れてスタートしたが、いずれは自家焙煎にしたいと考えていた中谷さん。最初はGLITCHの鈴木さんに焙煎を学びたいと相談したが当時の状況として叶わず、次いで相談した青野さんから了承をもらい、開店1年を過ぎた頃からaoma coffeeでシェアローストする形で焙煎に取り組み始めた。「最初は、“これ本当に自分でできるかな?”と思いました(笑)。青野さんも、指導というよりは、聞いたら答えてくれるという感じで、とにかく自分の手で繰り返し豆を焼きました。例えば、エチオピアのナチュラルの焙煎プロファイルを教えてもらったら、自分で同じ生豆を買って、真似て焼いてみる。見た目は近い感じになりますが、カッピングすると風味は違う。実践と結果の答え合わせをする感覚で、目指す味に近づけていきました」と振り返る。

GLITCH COFFEEの鈴木さんからは、コーヒーの基礎や抽出技術、バリスタの心得を、青野さんからは焙煎の技術と感覚を、師匠と呼べる2人からそれぞれ吸収し、自らの味作りを追求してきた中谷さん。特に焙煎は、実践と検証を積み重ねる作業は根気を要したが、自身の目指すコーヒーのイメージが、焙煎プロセスの構築の確かな指針となった。「派手なフレーバーよりは、落ち着いた繊細な味わいが理想。じんわりとくる味わいで、毎日飲んでも飽きない。思わず、“もう一杯”と言ってもらえるようなコーヒーを提供したい」と中谷さん。論より証拠、自身も思い入れ深いエチオピアのゲシャビレッジは、完熟ミカンを思わせる柔らかな甘味と奥ゆかしい酸、すっと後引く上品な余韻が印象的。穏やかさなフレーバーが、体に染み入るようだ。

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