コーヒーで旅する日本/関西編|世界各国のコーヒーシーンを見聞した経験を元に、枠にとらわれない店作りで個性を発揮。「Beyond Coffee Roasters」
関西ウォーカー
全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

関西編の第52回は、神戸市中央区の「Beyond Coffee Roasters」。店主の木村さんは、持ち前の語学力を生かして世界を巡り、多様な国々のコーヒーシーンを体感してきた行動派。各国のコーヒーを味わった経験から、素材の味を生かした焙煎で、世界基準のスペシャルティコーヒーを届けている。一方で、コーヒーを使ったリキュールやスイーツなどの開発、販売にも力を入れ、ロースターだけに止まらないユニークな個性を発揮。コーヒーショップの枠を超えて活動の幅を広げる木村さんが、“Beyond”の店名に込めた思いとは。

Profile|木村大輔(きむら・だいすけ)
1985(昭和60)年、福岡県生まれ。神戸の外国語大学在学中にコーヒーへの興味を深め、卒業後は兵庫県内のロースタリーカフェに就職。その後、アメリカ西海岸を訪れ、サードウェーブの動向を実地で体感したことを機に、自店の開業を決意。資金調達のために大手メーカーでの1年半の勤務を経て、2013年、神戸市兵庫区のゲストハウス併設のカフェの運営に携わり、間借りする形で焙煎所を立ち上げる。2014年に独立し、「Beyond Coffee Roasters」を開業。2018年に2号店となるコーヒースタンド「Beyond Coffee Roasters 2」をオープン。
世界を巡って、スペシャルティコーヒーの“波”を体感

神戸を代表する名所・北野異人館街へと通じるハンター坂界隈。各国料理や食材店などと並んで店を構える、「Beyond Coffee Roasters」の看板にデザインされた口ヒゲは、店主の木村大輔さん、通称・ブンさんのトレードマークだ。「知人から“文学が好きそうなイメージ”という理由で付いた呼び名が、そのまま定着して」と苦笑する木村さんは、外国語大学の出身で豊富な海外経験の持ち主。場所柄、海外からの観光客も多く、界隈で暮らす外国人も入れ代わり立ち代わり訪れる。さまざまな国の人を流暢にもてなす様子は、神戸らしい日常の一コマだ。
そんな木村さんとコーヒーの関わりは、学生時代に遡る。コーヒー好きが高じて、1年の休学中に噂に聞く名店を巡り、各種のセミナーにも参加。卒業後は、兵庫県内のロースタリーカフェの仕事に就くなどコーヒーの知識を深めていった。折しも、当時はアメリカのサードウェーブコーヒーの情報が日本でも耳目を集め始めていた頃。そのムーブメントを実地で体感すべく、カフェを退職し、単身アメリカ西海岸の都市を巡る旅へ。この時、同年のワールドバリスタチャンピオンシップ(WBC)で優勝者にして、ハンサムコーヒーの創業者・マイケル・フィリップスに送った一通のメールが、大きな転機を呼び込んだ。

「WBC優勝後に独立出店すると知って、問い合わせたら、“仕事場に遊びにおいでよ”と、本人から直々に返事が来たんです。自分にとって憧れの存在だったからびっくりして。その時は開業とか考えてなかったですが、アメリカに出発する時には、“自分も帰ったら店を始めてそう”という予感がありました(笑)」と、振り返る。ロサンゼルス、サンフランシスコ、ポートランド、シアトルの4都市を回る中で、オープン前のハンサムコーヒーでマイケルを訪ねた。カッピングを共にしたり、知り合いのコーヒーショップを案内してもらったり、望外のもてなしを受け、現地のコーヒー関係者とのつながりも生まれるなど、得難い経験に恵まれた。「世界チャンピオンに、親身に接してもらったというのは感慨深かったですね。店作りにしても、倉庫に焙煎機と生豆だけを置いたような状態で、店を始めるにも、こんなやり方があるのかと目から鱗でした」。2週間の濃密な体験によって、“コーヒーに関わっていれば生きていける”という実感を強くしたことが、開業への大きな後押しとなった。
帰国後、早々に、開業資金の調達のため、大手メーカーで短期就職。得意の英語を生かすべく、海外出張のある仕事を選んだという木村さん。ここでは在籍した1年半の間に、近くは香港や台湾、インドなどアジアを中心に、遠くはエジプト、デンマーク、イギリスまで12もの国へ赴き、その間に各地のコーヒーカルチャーに触れる機会を得た。「どんな国でも、大きな都市にはスペシャルティコーヒー専門店があって、日本では雑誌などで知るだけだった、スペシャルティコーヒーの世界的な広がりを肌で感じられたのは貴重な経験でした。とにかく幅広い国々を訪ねたので、英語力はもちろん、異文化に対する寛容さや国際感覚も鍛えられて、今振り返るといい修業期間だったと思います」

新たな人のつながりを広げた、ゲストハウスからの出発

ハードな出張生活がひと段落した頃、開業準備のため、SCAJのカッピングセミナーや、カッピングサークルを立ち上げると共に、まだ関西にはなかった、ギーセンの焙煎機をいち早く購入。着々と準備を進めたが、本格的なスタートは意外な場所から始まった。「当時、兵庫区新開地のゲストハウスの開業立ち上げに関わることになって、英語のホームページ制作なんかを手伝っていたんです。これが魅力的な空間で、オーナーに自店の開業の話をしたら、『うちでやってみては?』と誘いを受けて。焙煎機を設置させてもらうのを条件に、宿のカフェスペースを担当することになったんです」
会社を辞して、いわば間借り営業的に始まった「Beyond Coffee Roasters」。世界を飛び回っていた木村さんは一転して、各国から集まってくるお客を迎える側になった。ただ、同じカフェの仕事といっても、ゲストハウスにやってくる客層は大きく違うものだった。「サービスの仕方にしても各国で違うし、地球の裏側から来るお客もいるわけで、もてなしでよく言われる一期一会の次元が全然違うんです。思い出深い出会いがたくさんあって、当時の宿泊客がここに来てくれることもあります。うちも海外のお客さんが多く、道案内や飲食店の紹介などもよくあることで、今でもゲストハウス時代と同じマインドで店をしてる感覚があります」と木村さん。この時期に、神戸の街の多面性を知り、新たな人のつながりも広がった。独立して、北野に店を構えることになったのも、この時に出会った知人を通じてだった。紹介してもらった北野の古民家に焙煎機を移し、2014年、「Beyond Coffee Roasters」は改めてスタートした。

当初は豆の販売のみ。ゲストハウス時代から始めた焙煎と並行して、SCAJのカッピングセミナーにも参加していた木村さん。「それまで、何となく焙煎をやってましたが、ここで自分の判断基準が明確になって、自信につながりました。焙煎は結局、トライ&エラーしかなくて、技術よりも、“なぜこういう結果になるのか”を、豆の状態や味作りの方向性で判断する力が必要と感じました」と木村さん。3年後、焙煎が形になってきたことで、ドリンク提供を始めようと考えていると、折よく向かいの物件が空くというタイミングの良さで、2018年に2号店となるスタンドもオープンした。
この頃、三宮界隈には、同世代のロースターはまだなく、浅煎りを中心としたコーヒー専門店は貴重な存在だった。しかも幸先よく、開店1年ほどで、あのThe New York Timesに掲載される幸運に恵まれる。「1つの都市で48時間を過ごすというコラムで神戸が取り上げられたんですが、英語が使える店というのが大きかった。掲載後はいろんな国からメールが来て、半年くらいは反響がありましたね」と、いきなりのサプライズに驚いたようだ。

枠にとらわれない“Beyond”なコーヒーショップに

一方で、「コーヒー店だからといって、他のことをやってはいけない理由はない。店を続けるためには、可能性を狭めず、人と違うことをしないと、という思いもありました。コーヒーと何かを掛け合わせ、自分にしかできないことをしないと意味がない」と。“~を越えて”を意味するBeyondの屋号は、その思いに由来するものだ。
その通り、開業ほどなくして、縁のある香港の人気レストランが手掛ける食品店、サンデーズ・グロサリーから、看板商品のコーヒー焼酎を日本で製造するための原料提供の話が舞い込んだ。さらに1年後には、瀬戸内の離島・向島の人気クラフトチョコレート店・USHIO CHOCOLATLとの縁を得て、兵庫県内で初の取扱店になるなど、枠にはまらない展開を見せている。「海外を見て回った経験から、日本のコーヒー店の傾向が似てきているのが感じられて。それなら、コーヒーだけではない店があってもいいなと。ことあるごとに、原点であるBeyondの屋号に立ち返るようにしています」。現在は、香港で評判のオーストリア発のボタニカルリキュール・Fernet Hunterを新たに扱い始め、ここにコーヒー豆を漬け込んだリキュールの製品化を目指している。

ユニークなスタンドを訪れる人は、国籍も世代もさまざまで、時々で飛び交う言語も異なる。「いろんな国に行ったおかげで、各国の人が何を求めているかが何となく分かるようになりました。例えば、ロングブラックとか、フラットホワイトとか、国によって注文の仕方が違いこともありますし。ゲストハウスでの経験も相まって、いろんな人が混ざっても壁を作らず、お客さん同士がつながっていくような店のあり方が理想」と、誰であろうと飄々と対応する木村さんのキャラクターが、そのまま店の奥行きを広げているように感じる。

「数々のラッキーがあったおかげで、自分ができることだけを続けて、いかに楽しめるかを追求することができた」という木村さんが、節目、節目で感じるのは、“コーヒーに関わっていれば生きていける”との思い。実は、通称のブンは、アルファベットではBunn。エチオピアでコーヒー豆を指す言葉だというから、まさに“名は体を表す”のたとえ通り。ひょんなことから生まれた呼び名だが、実は偶然ではなかったのかもしれない。

木村さんレコメンドのコーヒーショップは「喫茶ストライク」
次回、紹介するのは神戸市の「喫茶ストライク」。
「眼鏡屋さんが手掛ける、バーのような雰囲気の喫茶店で、神戸でも話題の一軒です。店長の満田さんは、奈良の人気ロースターでヘッドバリスタも務めた実力者。コーヒーの卸先でもありますが、毎週、店まで豆を取りに来た時にフィードバックをくれたり、試飲して意見をもらったり、同じ目線でコーヒーの話ができる貴重な存在。名物のコーヒーハイボールは、ぜひ試してほしい一杯です」(木村さん)
【Beyond Coffee Roastersのコーヒーデータ】
●焙煎機/ギーセン2キロ・6キロ(半熱風式)
●抽出/ハンドドリップ(オリガミ・シンプリファイ)、エスプレッソマシン(シモネリ)
●焙煎度合い/浅煎り~深煎り
●テイクアウト/ あり(500円~)
●豆の販売/ブレンド1種、シングルオリジン約8種、100グラム750円~
取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治
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